第四十八話 納涼祭的のようなもの


「私、もうあがるね」

「うん。そろそろ灼華の月も終わりかな」

「わふ」


 ステラが水から出るのを僕とファングはプールで首だけ出して返事をする。ひと月は三十日なんだけどもう二十五日。陽が暮れてくると涼しさを感じるくらいになってきた。

 灼華の月は3か月で終わり、5日後には次の月である穂波の月が始まるからさすがにプールは肌寒くなってくる。


「俺もそろそろいいかな」

「わたしもー」

「なら僕も出るかな。涼しくなってきたねえ」

「うん」


 ステラからタオルを受け取り頭を拭きながら空を見上げると赤くなっていく空が目に入る。蝉の声も少なくなってきた気がするな。


「そういえばカブトムシは元気なの?」

「ん? ああ、そろそろ逃がしてやれって親父に言われて森に返したぞ」

「うん! 来年のためにって言ってた」


 なるほどオスメスを放してまた交尾をさせるのを考えているのか。親父さん分かっているな。

 

「穂波の月になったらなにして遊ぶかな? ウルカはなにか考えてんのか?」

「うーん、灼華の月みたいに極端に暑かったりしないから面白いものが思い浮かばないや」

「そっか」

「寒氷の月になって雪が降ったら色々あるかもだけど」


 僕がそういうとフォルドが楽しみだと頭の後ろで手を組んで笑う。

 実際、秋にあたる穂波の月は地球と一緒で動的というより静的。情緒を感じる月なので遊びはあまり思い浮かばない。

 紅葉狩りとか行楽だったもんなあ。……僕はあまり小学校の高学年くらいから病弱になって行けなかったけど。


「ウルカ君、どうしたの?」

「ん、なんでもないよ。みんな着替えたね。それじゃシルヴァ達も拭いてあげるからおいで」

「にゃーん♪」

「うおふ♪」

「こけ!」

「はーい、アニーはタイガを拭くー!」


 と思ったらステラやアニーが動物達を一人一匹ずつ掴まえたので僕は手が余ってしまった。さてどうするかと考えているとギリアムさんがこちらへ向かってくるのが見えた。


「こんにちは!」

「お、ウルカ様こんにちは。相変わらず元気ですね。先日は大変だったみたいで」

「あはは、まさか国王様が来るとは思わなかったんだよね」

「あの日は町で凄い騒ぎになったんだぜ?」


 ギリアムさんが言うには騎士さん達ってこの池に居た以外にもたくさんいて、町にも駐留していたそうだ。


「ここもプールとかいうのが出来て人の往来が多いし、巡回も楽させてもらっていますよ」

「折角だしみんなで使いたいもんね。でも楽になるの?」

「冒険者も涼みに来ていますから魔物もなかなか近づけないんですよ。イベントで貴族様がたくさんきたりと人間の出入りが多いと魔物も警戒するんです」

「うおふ」


 ギリアムさんの言葉にシルヴァがなんか鳴いた。そうだと言っているのかもしれない。すでに野生とは程遠いところに居るフォレストウルフでは説得力がないけど。


「またああいうイベントがあると町も活気があっていいんですけどね。君たちも町へ戻るなら送っていくよ」

「んー、もう少し遊びたいな」

「でも、そろそろ陽が暮れるし帰ろう? 僕も一緒に行くよ」

「うん。手を繋いで帰ろう」

「アニーも!」

「シルヴァに乗ればいいのに」

「まだ濡れてるもん」

「くぅーん」


 そんな感じで3人を送っていき、僕とタイガ、ジェニファーはシルヴァに乗って屋敷へと戻っていく。


「イベントかあ」

【まあ貴族が来れば金を使ってくれるから平民にゃありがたいだろうね。お、酒を売ってるな】

「僕が大きくなったら飲ませてあげるよ」

【へへ、楽しみだな】


 通りを進んでいると、フォルドの親父さんの屋台やお酒を売る屋台などが目に入る。陽が暮れていく屋台や露店を見ていると昔、家族で行った夏祭りを思い出す。


「あ、そうだ!」

【どうした、うんこか?】

「違うよ!? 父さんに相談してみようっと。シルヴァ、屋敷まで急いで」

「わおわおーん♪」

【?】


 いいことを思いついた僕は急いで屋敷までシルヴァを走らせる。

 この世界にもあると思うけど、とあるイベントを見たことが無いと思ったから。

 全力のシルヴァはすぐに屋敷へ到着。

 さっとお風呂に入って部屋でみんなと顔を合わせる夕食までにプランを考えておく。


【ああ、なるほど。それなら町も潤うし子供も楽しいな】

「だろ?」

「ウルカ様、お夕食ですよ」

「あ、バスレさんありがとうー」


 バスレさんが夕食だと声をかけてくれたので僕はプランを書いた紙をもって待ってくれていた彼女と一緒に食堂へ行く。


「それはなんですか?」

「フフフ、これはみんなが揃ってからのお楽しみにって感じかな?」

「また新しいことをやるんですね」


 バスレさんが微笑みながらそう返してくれた。もうなにをやっても驚かれない気がする。

 

「あ、ウルカちゃんも来たわね。それじゃ食事にしましょう」

「腹減ったぜ。そろそろ試験があるから気合いが入ってんだよな」

「戦闘試験は過酷だからな」

「そういえば陛下からお礼の手紙が来ていたな。今度――」


 と、いつもの仲良し風景が流れている中、僕は隣に座る父さんに先ほどのプランを書いた紙を差し出した。


「父さん、これを見て欲しいんだけど」

「ん? 今度はなにを作るんだい?」

「お、またか! 楽しみだな!」


 うん、みんな僕がそれしかしないと思っているね?

 ここはそれだけではないことを伝えるチャンスだと父さんに内容を確認してもらう。


「む、これは……お祭り?」

「うん! ギリアムさんがこの前のイベントみたいなのがあるといいなって言ってたからこういうのはどうかなって思って。他の町から人を呼んだら商品が売れたりしないかな」


 熱弁を振るうとギル兄ちゃんが口元を拭きながら言う。


「確かに王都では生誕祭や収穫祭などはある。ウルカ、これはなんのお祭りになるんだ? ウルカの誕生祭?」

「いやだよそれは……。だったら兄ちゃん達の方がいいよ。双子って珍しいし」

「止めようぜ」


 嫌がるロイド兄ちゃん。気持ちが分かってもらえてなによりだ。それはともかく説明の続きに入る。


「灼華の月がそろそろ終わるんだけど、納涼祭としてやったらどうかなって。みんな暑い日を頑張って乗り切ったお疲れ様って感じで」

「ふむ……」

「やりましょうやりましょう! ウルカちゃんが考えたものだもの♪」


 母さんが乗り気でそう言ってくれるが、父さんは顎に手を当てて思案する様子を見せた。プラン自体はシンプルなものだけどどうかな?


「いい案だ。だけど今から準備するには足りないものが多い。後五日……正味四日しかない。明日、みんなを集めて……二日……いけるだろうか?」

「おお、父さんが久しぶりに家で仕事モードに入った……」

「お仕事中ってかっこいいんだね」

「ふふふ、パパはいつだってかっこいいんだよ!」


 調子に乗らなければいいのになと兄ちゃんズが苦笑する。

 さて、確かに日にちが少ないか……僕に手伝えることがないかな? クリエイトで看板とかは作れると思うけど。

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