第四十六話 みんなにプレゼントをするというもの
「気を付けて運べよ!」
「ハッ!」
ゲーミングチェア(豪華仕様)が大事に馬車へ運ばれ、ひと仕事が終わった。
後はお見送りをするだけと、一家揃って国王様の前へ並ぶ。
「泊って行かれてもよろしいですのに」
「うむ、心遣いは感謝するが、無理を言って作らせたからこれ以上迷惑をかけられん。なあに夜には王都まで到着する」
「安全は我等、王国騎士団にお任せあれ」
母さんから目を逸らして豪快なことを言う国王様はきっと泊まりたくないのが本音だと思う。僕が疲れて休憩を挟むたびに母さんの眉間の皺は増えていたし。笑顔なのに怖い。
「それにしても見事だった。またなにか作る際は父を通して私に言ってくれ。王都で材料を用意して待っているぞ」
「ありがとうございます王様。兄ちゃん達に武器を作ったからしばらくはないかもしれません」
「う、うむ」
「あれは俺も欲しいですよ」
騎士団長のグリーズさんがロイド兄ちゃんの腰にある剣をチラリと見て苦笑する。
椅子の具合を確かめている間アダマント鉱石で試しに剣を作ってみたんだけど、魔法剣というものになったようで岩石が豆腐のように真っ二つになる切れ味だった。
ギル兄ちゃんにも魔石を加工したシンプルなロッドを作った。持ち手はアダマント鉱石なので魔力効率が良く、夏の空に大きな花火が上がっていた。
「双子の兄弟もまた会おう。是非、城で働いてもらいたいものだ」
「願っても無いことです」
「よろしくお願いいたしますぜ」
兄ちゃんズが国王様とグリーズさんの二人と握手をする。
ギル兄ちゃんは長男だから父さんの後を継がないといけないと思うんだけど、そのあたりはどうなんだろう。
あと、仕事が決まりそうで良かったと言ったものの、戦争とかもしあったら二人が危険な目に遭うし、城で働くのはどうかなってちょっと思ってしまう。
そういう世界なんだけどやはり身内が死ぬところなど考えたくないなあ。
「では、また会おうガイアス一家よ!」
「ふん、小僧息災でな」
そう言って馬車へ乗り込み、国王様とザイードさんが出発。続いて騎士団も前と後ろに分かれて護衛に入る。
小さくなってきたところで僕達は視線を外してテーブルを囲んで向かい合う。
「ふう……せめて一言あれば準備もできたんだけど、陛下は急すぎるよ」
「いいじゃないパパ。粗相があったと文句を言うなら追い返せばいいのよ」
「陛下にそれは……。いや、ママもヴァンパイアロードだからいいんだけどさ」
そういえばそうだった。
一族の王という意味では母さんもそうなのだ。だからあの態度なのかと納得する。
【父親は人間の王には頭を下げるしかないけど、母親は種族そのものが違うからなあ】
ゼオラが補足してくれやっぱりそういうことなんだなと思った。
僕は半々という中途半端な存在だけどこの先どうなるのやら。
「ま、これでしばらく来ないでしょう。いいものを作ってあげたわねウルカちゃん」
「王様がいっぱいくれたからね! あ、そうだ」
「ん? どうしたんだ?」
ひとついいことを思いついて椅子から飛び降りる。ギル兄ちゃんの言葉を背中に受けながら宝箱を開けて中を探り目的の物を取り出す。
「あんまり多くは使えないけど……」
「魔石か?」
「うん。待っていてくれたみんなにプレゼントを作ろうかなって」
ステラとアニー、それとフォルドになにか作ってあげようかと思い立った。
魔石を加工してステラには星形のネックレス、アニーには女の子らしくと思いヘアピンを。そしてフォルドにはアダマント鉱石と革を使ったグローブをプレゼントだ。
「わ、可愛い。ありがとうウルカ!」
「髪を止めるの? あ、邪魔にならないかもー! ありがとうウルカ君! 大好き!」
「あ、私も大好き」
「ちょ、二人とも抱き着くなって!?」
女の子二人は満足してくれたようで前と後ろから抱き着いてきてめちゃくちゃ暑い。フォルドの方はというと、
「やべえ、超かっこいい……。ちょっと大きいけど」
「大きくなったらぴったりになると思うよ」
「あ、そういうことか! やっぱりお前はすげえな」
フォルドが僕の手を取ってブンブン振り回し暑さが増す。
続いて動物達。
シルヴァは革とアダマント鉱石の首輪で、ジェニファーは今つけている蝶ネクタイに魔石を混ぜ込んだものを作成。
タイガにはアダマント鉱石鈴がついた首輪にし、ハリヤーにはアダマント鉱石の馬蹄をプレゼントした。
「わふわふー!」
「こけー♪」
「にゃ~ん」
喜ぶ動物達がすり寄ってくる。
ハリヤーも珍しく足をシルヴァ達に向けて『これはいいですよ』と自慢げに鳴いていた。
というわけで最後は両親とバスレさんとウオルターさん。
「私達にもですか? これは良いですね」
「命より大事にします」
ウオルターさんにはネクタイピン、バスレさんにはエプロンにワイヤーのような感じでアダマント鉱石を合成させた。
「うう……立派な息子たちで私は嬉しいよ……!!」
「パパったら。ありがとう、大切にするわね」
父さんは煙草を吸うからパイプを作り、母さんには髪飾りが似合うと思いそれにした。
「おう、フォルド。それで喧嘩するなよ? 相手が大怪我しちまうぜ」
「うん! これで冒険者に一歩近づいたぜ!」
持っているものが危ないものだと諭すロイド兄ちゃん。粗野に見えてこういうところはちゃんとしているから頼りになる。
「ちょっと陽が傾いてきたからそろそろ屋敷に戻ろうか。父さん、この金貨と素材はどうする?」
「お前が貰ったものだから大事にしまっておきなさい」
「いいの? お店で売るとか?」
「ははは、息子から奪う真似はしないよ。大人になったらお金も使うだろうし」
そう言って僕の頭を撫でてくれた。
確かに……フォルド達と学校へ行くならお金を肩代わりしてもいいかもしれない。
「夕食はみんなで食べようよ。お金は僕のを使ってもいいし!」
「ふふ、そんなことをしなくてもいいわよウルカちゃん。ウオルター、この子達の親御さんに夕飯はウチで食べると伝えてきなさい」
「は」
「やったー! 一緒だー!」
母さんの言葉にアニーがはしゃぎ、つられてステラや動物達も小躍りする。
僕も混ざって笑いながら屋敷へと歩き出す。
◆ ◇ ◆
「相変わらず、というところか」
「恐ろしい子でした」
「くっく、おみやげをもらって満更でもないんじゃないかザイード」
「そんなことはありません! しかし、ヴァンパイアロード・クラウディアの子な、あのままで問題ないのですかね」
肩を竦めてザイードがそう尋ねると国王フレデリックはにやりと笑って口を開く。
「問題があるか? あの町は最強戦力が二人も居る。敵対しなければこれほど心強い味方はいないだろう。息子二人を城に呼べば間違いない」
フレデリックは『実際、強そうな感じがあった』と口にする。
別になにかを企んでいるわけではなく、敵対しないためにどうすればいいかという解を言っているに過ぎないのだ。
「三兄弟が城へ来れば色々刺激もあろう。来るようであれば丁重にな」
「そうですな……」
あんな化け物が来たらどうなるのか……ザイードはため息を吐きながら遠くなっていく町を見るのだった――
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