第四十五話 素材を活かしたというもの
さて、着手から四時間ほどが経過した。
思ったより疲れやすく、高級素材はイメージを形にするにはそれなりに力が必要というのが分かった。
少しずつ休憩を挟みつつ作業を続けていたけど魔力消費に加えてとにかく暑かった。
そんな中、ウオルターさんとバスレさんもやってきて国王様や騎士さん、僕達に飲み物を提供するなど給仕をしてくれ事なきを得ている。
「む、お前はガイアス家のメイドか美人だな。私の女にならんか?」
「ウルカ様がいるので結構です」
「な!? お、お前、現国王の弟の息子である私の誘いを断るというのか!?」
「ヴァンパイアロードの息子で希少価値の高い魔法が使えるウルカ様が私には居るので結構です」
「具体的……!」
という一幕があったものの親の威光を借りるだけのザイードさんはバスレさんに興味をもたれることは無かったとさ。
そして――
「できた!」
「おお……!!」
なんということでしょう、というナレーションがつきそうなくらいアダマント鉱石を軸にしてマホガニーっぽい木でできた椅子は見事だった。
クッションにはリラクルシープという大人しい羊魔物の毛を使い、洗練された体を持つグレイブキングという名前の牛魔物の皮を丁寧になめした革を採用。
視覚の高級感とリラクゼーションが一体化した王様の椅子に相応しい一品となった。
「……羽がついていないようだが……」
「飾りは必要ありません。この形がゲーミングチェアなんです」
下手に意匠を施してバランスが悪くなって転倒したりする危険性などを伝えると納得してもらえた。
キャスターがついているからこけたときにとんでもないことになりそうだしね。
ただ、この椅子については他に魅力的な機能をつけたので勘弁してほしい。
「それでは王様、少し使い方をお伝えしますからお座りください」
「む? 一応、キールソンから聞いているぞ」
「今回は豪華な素材を使わせてもらいましたから特別仕様です。キールソン様から聞いたということはこの昇降と背もたれは分かりますね」
「問題ない」
そのあたりの仕様は同じなので、問題ないと思っていると。大丈夫だと国王様が笑う。
では次だ。
「キールソン様に撃った者とは違い、魔石を使っていまして特別な措置を施しました。この赤く丸い石を触ってもらっていいですか?」
「ふむ」
国王様が腰かけて左手のひじ掛けの側面に突起している赤い石……魔石を触ってもらうと――
「む!? なんか暖かくなってきた!」
「はい。その魔石を一度触ると熱が出ます。二回目で中程度、三回目でかなり暖かくなり、四回目で切れるようになっているんです」
「ほほう! これはすごいな、寒い時に使えば腰が冷えなくて済む。ということはこっちの青いのは……」
国王様が赤い石の電源をオフにし、今度は青い石へと手を伸ばす。
「やはりこっちは涼しくなるやつだったな! おお、ちょうど今は暑いからちょうどいい……」
「いいですね陛下! ええ、これは俺も欲しいなあ。書類仕事あるからな俺達も」
そういってお付きの騎士さんが羨ましそうな顔で国王様へ話かけ、当の本人はご満悦だった。
「後は大した機能ではないですけど、ひじ掛けの先にあるボタンを押してみてください」
「こうか? ほう、光るのか……!!」
ボタンを押すと一部がライトの魔法で光るように設定した。ゲーミング的なものって何故か光るんだよね。
ただそれだけなんだけどこれはこれで満足のようでなによりだ。
後は使いすぎると魔力を消耗するので使ったら定期的に魔力を補充することや適度に拭き掃除などもすると長持ちすることを伝えて完了だ。
「これは見事な椅子だ。キールソンのものより格段に上。寒暖機能を考えたら確かに羽のオブジェなど意味がない。気に入ったぞウルカ」
「良かったです!」
椅子から降りて僕の頭に手を乗せて笑顔を見せる国王様。
「すまなかったな無理を言って。ここにある材料は持って帰ると言ったがお前にやろう」
「え!? こ、これは貴重なものですよ、全然残っていますし……」
「いや、いい。ウルカに渡した方が色々作ってくれそうだしな。おもちゃとしては高価だが見返りの方が大きそうだ」
マジか……!?
金貨は持って帰るみたいだけど素材は全部僕のものでいいらしい。魔石もまだたくさん残ったし想像が捗る。
「ありがとうございます! あ、騎士さん、こういうのとかどうですか」
僕はさっと木と鉄、それと小さい魔石を使って卓上扇風機を作ってみる。魔石を動力源、いわゆるモーター部分にして風魔法でプロペラを回すという仕組みならと今、考えたものだ。
「え、いいのかい? へえ、自動で風を出すのか。風魔法だと出しっぱなしにするのが難しいからこりゃいいな。鎧の隙間に風を送れるぞ」
「団長、いいものもらいましたね」
「馬鹿、ちゃんと買うよ」
「鉄と木、魔石が使われているけど……魔石って相場がわからないや」
騎士団長さんらしい人が買うと言ってくれたけど魔石の価値が不明だと伝えると、父さんが僕を抱っこしながら口を開く。
「魔石は大きさで価値が変わる。その風を送るものには手のひらサイズを使っているようだからから金貨一枚と銀貨五枚くらいだな」
「なるほど」
「はは、お父上は商家でしたね、よくご存じです。ではこれで」
懐から取り出した革袋に入っていたお金を僕の手に握らせて騎士団長さんは涼みながら下がる。
「ふん、折角貴重な素材を分けたのだ。粗末にあつかうなよほぅ!?」
「いらんことを言うな」
「あはは……あんまり怒らせない方がいいんじゃないですか? それじゃザイードさんにはこれを上げます」
「む? なんだ? これは」
「お守りです。アダマント鉱石で作ったものなのでご利益があるかも?」
お守りと聞いてきょとんとした顔をするザイードさん。それを手に取ると、顔を赤くしてそっぽを向いて口を開く。
「ふ、ふん、仕方がない私の! ために! 作ったのなら無駄にするわけにはいかん。ありがたく受け取ってやろう」
「素直じゃないなあ。子供相手にくらいは愛想よくしなよ」
「うるさいぞグリーズ! ……フッ」
お守りは気に入ってもらえたらしい。
とりあえず急の来訪は驚いたけどなんとか上手くいったかな?
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