第四十四話 特注品というもの


 「まったく……帰ったら説教だぞ」

 「うう……申し訳ありません……」


 父さんとギル兄ちゃんが止めてなんとか事なきを得た。

 というかよく見たら後ろに護衛の騎士達がたくさんいるのに誰も止めなかったのか。


 「なんで騎士さんたちは止めなかったの?」

 「大人になればわかるよ」

 「すまない、俺達は……無力だ」


 僕が訝しんだ目を向けるとずるい答えが返ってきた。おおかたザイードがしばらく痛い目に遭ってから止める気だったのだと推測する。嫌われてそうだもん。


 それはともかく国王様が直接来たのは母さんとリンダさんのこともちょっとありそうだなと思った。リンダさんの謎が深まったのも興味深いけ。

 で、材料にお金、それに国王様の直接交渉という破格な条件に断る理由も無いし、母さんも本気で敵対するつもりはないだろう。


 「……」

 「なあにウルカちゃん♪」


 ……多分。

 というわけで、国王様の顔に泥を塗るのも申し訳ないし、ゼオラも止めてこないから隠す必要もないようだ。


 【大きくなってから楽になるんじゃないかな。僕はこれだけできますってな】

 「大丈夫? それで狙われたりしないかな」

 【その前にあたしの魔法を教えるから大丈夫だって】

 

 ゼオラが『あたしみたいに幽霊にするわけにゃいかないからな』と不敵に笑う。 

 まだ短い付き合いだけど大雑把に見えて色々考えているんだよね。

 というかホント、何者なんだろうなあ。


 「どうしたウルカ?」

 「あ、いえ。では国王様のゲーミングチェアの制作をしますね! これだけの材料を扱えるのは楽しそうです」

 

 上空を見上げていた僕に話しかけてきた国王様へ依頼として受ける話をする。

 すると国王様はパッと明るい顔で握手を求めてきた。


 「よろしく頼むぞウルカ。一応、私の希望があるのだが取り入れてもらえるか?」

 「え? どういう感じがいいのかな……ですか?」

 「フッフッフ、そう来るだろうと思って絵にしてきたのだ。これを見てくれ」


 クリエイトで作ったテーブルに国王様が折りたたんだ紙をスッと僕達の前に差し出してきた。母さんがそれを取って開き、覗き込むと――


 「「「こ、これは……!?」」」


 めちゃくちゃ絵が下手だ!?

 よくわからないごちゃっとした線がかろうじて椅子って感じには見えるんだけど、ギザギザしたなにかやオーブ? みたいな玉とかが書かれていて非常に見にくい……。


 「う、うーむ……」

 「陛下、下手です」

 「下手」

 「ハッキリ言う!?」


 困っていた父さんをよそに母さんとステラがぴしゃりと言い放ちトドメを刺していた。


 「かっこいい武器なのー」

 「いや、これは多分……なんだこれ……」

 「ぐぬぬ……」


 いつの間にか近くに来ていたアニーとフォルドもなんの絵か分からなかったようだ。


 「わふ」

 「こけ」

 「にゃ」

 「な、なんだおぬしら……同情か? 私は動物に同情されているのか?」


 さらにジェニファー達が国王様を取り囲んで慰めていた。そろそろ怒りそうだけど我慢強いなあ国王様……。やっぱり母さんが怖いのか、優しいだけなのか。


 「ま、まあまあ……。僕はいいと思いますよ。このひじ掛けもかっこいいですし」

 「それはオブジェの羽だ」


 そうですか。

 このままだと泥馬……じゃない泥沼になりそうなので仕事をすることに決めた。

 

 「では広いところでやりたいので素材を持って行っていいですか?」

 「うむ。ザイード、運んでやれ」

 「承知しました……」

 「あ、国王様はこれで涼んでいてください」

 「おお」


 僕は<クリエイト>でビーチパラソルとちょっと長めの椅子を作成。氷柱をいくつか設置してその場を離れる。


 「あっさりやってのけたが希少魔法<クリエイト>を使えるとはな……百年ぶりくらいか?」

 「そうですね。自分は半信半疑でしたが来て正解でしたかね」


 ――とか聞こえたけどなんだろ? 賢者はもしかしてゼオラ……?


 まあ、尋ねるのもあれだしとりあえず仕事仕事!

 さっそく鉱石と


 【アダマント鉱石は兄ちゃんズが言うように硬さと弾力性が非常に良く、武器や防具に適している。椅子にしたら孫の代まで余裕で使えるんじゃないかね】

 「凄いなあ。この木もマホガニーっぽいし絵はともかく調べてきたのは間違いないね」

 

 という感じでいつも通りの作業を始める僕。だけど金属加工を進めていると少し違和感が出てきた。


 「鉄と違って魔力の通りはいいけど加工が難しいな……」

 【ああ。だけどこれで魔力の底上げができる。強力な魔法を覚える土台になるからしっかりな】

 「ウルカ君、凄い。硬そうな金属がぐにゃぐにゃ曲がる」

 「いいなあ、俺も魔法を覚えたいぜ」

 「アニーも!」


 いつの間にかやってきた子供たちと動物。フォルドがクリエイトを見ながらミズデッポウ以外にも魔法を覚えたいと言う。

 しかしそこでロイド兄ちゃんがフォルドの頭に手を置いて笑いながら答えた。


 「学校に行くようになれば嫌でも覚えるぜフォルド。まあ、ウルカの特殊な魔法を教えてもらった方が学校に通う時に面白そうだけどな」

 「……学校、行けるかな俺」

 「あー、悪い」


 フォルドが落ち込む理由。それは学校に行けるかどうか分からないかららしい。当然だけど学校に行くにはお金がかかるため経済事情によっては行けないこともあるらしい。親の勉強を教わり、商売をしているなら手伝いで生きていくようになるみたいだ。

 仕事自体はあるけど、計算とか必要な仕事は難しくなるから勿体ないかもしれないな。


 「がっこう?」

 「アニーはいけそうだけど、私達よりひとつ下だから一緒に勉強できないわね」

 「えー!? やだぁ、みんなと一緒がいい……」

 

 ステラに一緒じゃないと言われてステラにしがみつくアニー。まあ、年相応になれば理解できると思うけど……。というかステラはすっかりお姉ちゃんだな。


 それはともかく僕はクリエイトの魔法に集中する。

 

 「魔石はどうやって使うんだろ」

 【それは魔力を込めて爆発させたり、魔法を封じ込めたりと用途は広い】

 

 なるほど。

 ならゲーミングチェアっぽいことができるかな?


 「ゼオラ、光を出す魔法ってどんなやつ?」

 【ん? ライトという魔法になるかな?】

 「オッケー、ありがとう!」

 

 よしよしと僕は魔法を使って光が出ることを確認し、作業へと戻る。これだけのお宝を使わせてくれたし王様専用っぽい感じにしようっと!

 

 「まずは熱を持たせるところから……」

 「わ、石が赤くなったよー」


 フォルド達とわいわいしながら作業。

 無理なく休憩しながら進めていくことで確実に完成へと近づき――

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