第四十一話 考えるのはみんなでというもの


 あれから程なくしてロイド兄ちゃんが工房まで来て合流し、足をくじいていた僕はシルヴァの背に乗り酒場へと戻っていた。


 「盗人をやっつけたんだろ? すげぇなウルカは! 俺もいつかそういう活躍をしたいぜ」

 「どちらかと言えば動物達だけどね」


 実際、退散させたのはブレーメン……もといガイアス家のペットたちなので、そう言っておく。


 「よしよし、ウルカ君を守ったの偉い偉い」

 「ジェニファーの蝶ネクタイ可愛い」

 

 女子二人もタイガとジェニファーを撫でまわし、僕もハリヤーの首を撫でてやる。

 大きくなったら僕専用の馬にしよう。

 

 「むう……申し訳ありませんウルカ様。片付けに手間取っていなければ危険な目に合わせることなどなかったのですが」

 「申し訳ありません」

 「会場の片づけをやってくれていたんだしそれはいいよ」


 そんな僕達の近くには後から同流してきたウオルターさんとバスレさんが頭を下げるけどこれは僕が単独で動いたせいなので気にしないで欲しいものだ。

 で、何気にステラ達と別れて行動していた兄ちゃんズは犯人を追っていたらしい。

 今はロイド兄ちゃんだけ帰ってきているけど、すでにあの二人組は捕まえてギル兄ちゃんが警護団へ引き渡しに行っているのだとか。


 「ステラのお母さんが捕まえたのか」

 「ママは強い」

 「こっちに来るかな?」

 

 ふんすと鼻を鳴らすステラをよそにロイド兄ちゃんへ尋ねてみると、腰に手を当てて笑いながら僕へ言う。


 「お前に会いに帰って来たって言ってたから戻ってくるんじゃねえか?」

 「でもママはいつも忙しい」

 「いつも居ないもんね。もう夜だし、今日は帰ってくるんじゃない?」

 「いや、リンダさんはもう行ってしまったよ」

 「あ、ギル兄ちゃん」


 警護団からギル兄ちゃんが戻って来た。どうやらリンダさんは酒場に顔を出さずそのまま依頼を受けにどこかへ行ったそうだ。


 「うーん、ちょっと会ってみたかったな」

 「あの人は忙しいですからね」

 

 そう言って笑うウオルターさんもリンダさんを知っているようだ。いつも居ない感じがするけど娘と顔を合わせているのだろうか?


 「ステラはちゃんと会ってるの?」

 「うん。二日に一回くらい」

 「なるほど……いったい何をしている――」

 「お、戻ったか!? 飛び出して行ったから心配していたんだ。ほら、冷たいのみもの出してやるから入んな」

 「はーい!」


 僕が質問を投げかけようとした瞬間、騒ぎを聞きつけたアニーのお父さんが店から出てきて中へ入るように言ってくれた。

 

 「僕はシルヴァ達と……痛!?」

 【治療してもらっておきな。動物達はあたしが見ていてやるから】

 「あ、うん。後でいい食べ物を用意してやるからな!」

 「ばうわう!」

 「こけー!!!」

 「にゃああん♪」


 動物たちはお座りをして興奮気味に鳴く。夜だから大人しくするんだと言って撫でてやった。


 ――それから宴は少しだけ続き、ウオルターさんとバスレさん、それとザトゥさんの奥さんも参加。


 「バスレはまだ十四だからお酒はダメだぞ」

 「チィ」

 「だいたい俺達より年下なのに堂々と飲もうとすんなよ……」

 「強気だよねバスレさんって。ウオルターさんがみんなと騒いでいるのも初めて見る」

 

 ロイド兄ちゃんにお酒を取られているバスレさんを横目にウオルターさんに質問をすると、


 「そうですね。さすがに執事とメイドが席を一緒にするわけにはいきませんから」

 「ウチで働く前はなにをしていたの?」

 「王都のギルドで働いていましたね。私も冒険者をやっていたことがあります」

 「そうなんだ! 投げナイフとか上手そうだよね」

 「さあ、どうですかね」


 フフフとグラスを傾けながら笑うウオルターさんはカッコいい執事だと思う。結構強かったのかな?

 ロイド兄ちゃんと仲がいいし知らないところで訓練とかしているのかもしれないね。


 「ウルカ君ー、みんなのおやつできたよー!」

 「あ、みんなにあげに行こう」

 「行こう行こう」

 「ちょ、ちょっと待って……串焼きを食ってる途中だって」


 慌てるフォルドに苦笑しながらシルヴァやハリヤーに追加で食べ物を与えて夜は終わり、用意した馬車で父さんたちを回収して屋敷へと撤収。

 お風呂に入ってから部屋に戻るとベッドの上に浮遊していたゼオラが声をかけてきた。


 【お疲れさん】

 「ありがとうゼオラ。でも今日は反省することが多かったよ」

 【どうしてだい?】

 「……僕があの二人組に突っかかって危ない目にあったのは自業自得だけど、僕の作ったゲーミングチェアがここまで大々的に発表されなければ盗人も来なかったかなって思ってさ」

 【ふむ】

 「僕が楽しむだけに留めておくだけで良かったんじゃないかな」


 ベッドに座り込んで語る僕。

 あまり犯罪者の居ない町で空き巣は久しぶりだったらしいんだ。だから今回の件はある意味僕の――


 【そりゃ違うぜウルカ】

 「え?」

 

 僕のミスだと言おうとしたところでゼオラが僕の目の前にさかさまになって降りてきて指を鼻先に突き付けてきた。


 【新しいモノを創造したことに対してイレギュラーが起こるのは当然だ。しかも確実に価値がある。それが狙われるのは当たり前だと思う】

 「う、うん……」

 【もし落ち度があるとすれば、護衛なんかをもっと増やして運んだ後のケアまでしっかりできなかった大人たちだろう? お前が作った、提供した、製法も伝えて量産体制を整えた。そこから先は父親や職人の仕事。正直、外敵に対する見積もりが甘かったと思わざるを得ない】

 「な、なるほど……」


 転生者と言ってもこの世界で僕はまだ五歳の子供。そこを間違えるなとゼオラは言う。


 【気持ちはわかるが一人で出来ないことの方が多い。今日のことを反省するなら事前に伝えておくくらいだろうな】

 「うん……そうだね」

 【死にたくないんだろ? なら頼れよみんなを】

 「はは、そうするよ。というかゼオラは一人でなんでもしそうなのに、そういうことを言うのは意外だったかも」

 【ふん、賢者ってのは知恵を出すもんだからな。それを一人だけで使うのはちょっと違う。人間は一人で生きていくには厳しいからな。協力できるならすべきだ】


 そう言いながら逆さまになったゼオラはスススっと上昇していく。

 まあ奥さんが危なかったかもしれないから結果的には良かったけど、もう少し注意すべきか。

 クリエイトは楽しいから都度色々作っていきたいけど。


 そんな一日が幕を下ろす。明日はなにをしようかな――

 


 ◆ ◇ ◆



 ――数日後

 

 「――ということで、我が領は安泰となっております」

 「そうか。月報告、ご苦労キールソン侯爵。それはさておき、少し前にライジェルの町に貴族を集めてなにやらイベントをしていたと聞いている。なにがあったのだ?」

 

 領主であるキールソン侯爵が王都にて定例報告を終えた後、この国の王より質問が入る。


 「……陛下もご存じでしたか。いえ、我が領の貴族を集めてロドリオ殿が新商品のプレゼンをしておりました」

 「貴族を? あのヴァンパイアと結婚した変わり者が商家を営んでいるのは知っているが高価なものでも手に入れたのか?」

 「……」


 国王の言葉に周囲に目を向けた後、咳ばらいを一つしてから口を開く。


 「後ほど陛下お一人の時にお話をしたいと思います」

 「ふむ……では後ほど――」


 そして定例報告が終わり、キールソン侯爵だけが残された。


 「して、なにがあった」

 「ロドリオ殿の一番下の息子がもしかすると天才かもしれません。というのも新商品のプレゼンだったのですが、今まで見たことも無い椅子だったです」

 「椅子……珍しくもないが……見たことが無い椅子だと?」

 「ええ。こればかりは体感してもらうしかありません。ようやく納品された一台を極秘に運び込んでおきました」


 そう言ってキールソンが指を鳴らすと、厳重に保管された木箱が運ばれてくる。

 封を開け、国王へ試用するよう告げた。


 「変わった形の椅子だな。どれ――」


 国王が背を預けた瞬間、目がカッと見開かれ背中の柔らかい感触に驚きを見せた。


 「これはなんと気持ちのいい……」

 「さらにこういう機能も」

 「なんと……!」


 高さ調節とリクライニング、さらに収納自在のオットマンを説明すると近くに居た側近の騎士と大臣も目を見張り驚いていた。


 「むう、凄い椅子だ……これなら長時間書類作業をしていても苦にならん。これを献上しに――」

 「いえ、試してもらっただけです。これは私の物なので持ち帰ります」

 「ええー……」


 ここまでしておいてそりゃないだろと国王が難色を示すがキールソンは頭を下げながら口を開く。


 「申し訳ありません。金貨二枚は惜しくないのですが、発注しても次がいつ届くか分からないもので」

 「え、金貨二枚なのこれ? 安くない?」

 「はい。それでも儲けは出るそうです。が、職人が一人だけなのでなかなか手が回らないのが現状。取り急ぎこういうものがあることをお伝えした次第であります」

 

 加えてウルカが他にも色々と発明していることを父のロドリオ殿から聞いたと教える。


 すると――


 「……行くか」


 ――国王は一言、そう呟いた。

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