第四十話 最強の味方というもの


 ゼオラが奥さんのロープをほどいているのが見え、僕はこいつらを引き剥がすため工房の外に出た。


 「<ミズデッポウ>っと!」

 「ぶあ!? ま、魔法か!」

 「兄貴! ……ぶへあ!?」

 「ちょっといつもより威力を増してるけど勘弁ね! ゼオラ!」

 【ほいほいっと。触れるの便利だなやっぱ】

 「あ、あら? ロープがほどけて?」


 カブトムシを触れるゼオラならやれるんじゃないかと思って合図をしたけど上手くいったな。

 

 「あ!?」

 「ガキが転んだ! 今だ!」


 ちょっとよそ見をしたのがまずかったか、僕はかかとを少し盛り上がっていた石畳に引っかけて尻もちをつく。


 「いたあ……」

 「掴まえろ!」

 【いやいや、このゼオラさんがそれをさせると思うかね?】


 手を伸ばして来た男達に迫るゼオラ。だが、その前に男達は動きを止めた。


 「あ、な、なんだ?」

 「ん?」


 その瞬間、僕の背後に何かが立っていることが分かり、その影が僕達のところまで伸びていた。

 首だけ動かして後ろを確認すると、月を背にしているので姿は見えないがかなり大きいと思う。


 「これは」

 「よくわからんがこのまま捕まえて逃げ――」

 「#$%&!&$#!!」

 「うるさっ!?」


 その瞬間、背後の影が騒ぎ出した!

 声、というより騒音といった感じの音が僕達の耳に入り委縮する。


 さらに――


 【うりゃ】

 「うおおおおお!? 悪寒がするっ!? く、くそ! なんだってんだ! 逃げるぞ!」

 「あ、ま、待ってくださいよあにきぃぃ!!」

 「待て……!! 痛っ」

 【どうしたウルカ!】

 

 立ち上がってアクセラレーションで追うつもりだったけど、転んだ時に足をくじいたらしくすぐに追えなかった。

 

 【驚かせるなよ。それより、あいつらをなんとかしないと】

 「え?」


 ゆっくり立ち上がって振り返ると大きな影がゆっくり近づいてきた。目を凝らしてよく見ると――


 「わんわん!」

 「こけー!!」

 「にゃーん」

 「あ!? お前達! それにいつの間にかハリヤーが居る!?」


 僕がそう言うとハリヤーが『心配で来ました』といった感じで鼻を鳴らしていた。

 ついでに言うとそのハリヤーの背に、シルヴァ、タイガ、ジェニファーの順番で背中に乗っていて正に、


 「ぷっ! あはは! お前達それじゃまんまブレーメンの音楽隊じゃないか!」

 

 そんな感じになっていた。

 シルヴァは僕の眷属だけど、他の動物も心配して駆けつけてくれるとはね。


 「わふ?」

 「こけー?」

 「ふにゃあ?」

 「はいはい、後でもっといい餌をあげるよ」

 

 ハリヤーの背から降りた動物達が僕の足元に集まってきたのでしゃがんで撫でてやる。すると工房から出てきた奥さんが声をかけてきた。 


 「ウルカ様、大丈夫ですか!?」

 「あ、おばさん! おばさんこそ大丈夫ですか?」

 「ええ、ええ。一人で来たの?」

 「うん、きっとすぐにザトゥさん達が来るよ」

 「賢いねえウルカ様は。ありがとうね。それにしてもよく気づいたわね?」

 「あはは」


 僕は適当に愛想笑いをしているとザトゥさん、それとフォルド達がやってきた。


 「無事かぁ!!」

 「おお、ハリヤーも居るぜ!」

 「こっちだよ! ……あれ? 他には?」

 「お兄ちゃん達は途中で別れたよ、遠くだったんだけど見えたって言ってた。無事みたいだからって」

 「ええ?」


 どこ行ったんだろ? とりあえず誰かとくれば良かったな……逃がすことになるとは。ここはきっちり捕まえておかないとまたやりそうだし。


 ◆ ◇ ◆


 「まったく、あいつらはウルカが好きすぎるよな」

 「いいじゃないか、おかげでこうやって賊を追える」


 ギルバードとロイドの二人は遠目から動物達がウルカを守るために威嚇し、盗人が逃げたのを確認していた。

 その瞬間、二人は頷きフォルド達と別れたのだ。


 ロイドの手には刃を潰したロングソード。ギルバードはグリーンの水晶が先端についたロッドを持つ。

 ウチの財産を盗もうとするとは……そう考えながら捕まえるつもりで、追う。

 

 三男のせいでなかなか目立たないが学校での剣技は一番のロイド。

 魔法を操る力は城仕えの魔法使いに匹敵すると言われるギルバードという感じで、双子もとんでもない力を持っていたりする。


 「……あれか」

 「だな。俺が足止めをする。回り込んでくれ」

 「あいよ! って、ありゃあ――」


 前に見える賊二人。だが、様子がおかしいとロイドが目を細めて見ると、その瞬間に賊二人がその場で崩れ落ちた。


 「なんだ? こけたわけじゃなさそうだが」

 「……ああ、オレ達の出る幕は無かったみたいだぜ」

 「む? ……なるほど」


 崩れ落ちた二人の居る場所へ追いつくと、そこには長い紫の髪を風になびかせている鎧を着た女性の姿があった。


 「お、クラウディアの子か?」

 「ええ。お久しぶりですね」

 「忙しいからなあ私。なんかお前達と酒が飲めるって聞いたから、ウチの娘がお熱になっている三男を見ようと思って急いで帰ってきたんだ。そしたら怪しい奴らが目の前に出てきたから殴っといた」

 「そりゃ運がいい。そいつはウルカの作った椅子を盗もうとしたやつらなんでね、とっ捕まえてくれて助かりますよ」


 双子の顔見知りらしい女性にそう語ると、女性はくっくと笑いながら賊の頭を掴んで持ち上げる。


 「そうかそうか。ならこいつらは警護団に引き渡してこようか。まったく、クライトのヤツめ、こんなのを入れるとはたるんでいるな」

 「ま、平和な町ですからね。賊なんて何十年ぶりですか」

 「年のことは言うな」

 「おっとすみません」


 女性はそういって踵を返して歩き出す。


 「ああ、そうだ。どっちか一緒に来てくれないか? 事情を説明できるやつが居た方がいい。もう一人はクライト達に報告へ戻ってくれ」

 「なら俺が行きます。ロイドはウルカ達を頼む」

 「オッケー。任してくれ」

 「まったく……折角帰ってきたのにこんなのに時間を取られるとはなあ……」

 

 そんな調子でぶつぶつ言いながら紫髪の女性は自警団へ向かうのだった――

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