第四十二話 いつもの日常かと思ったらというもの
夏休み。
それは前の世界であった魅惑の時間。
しかし、今の僕は五歳。学校というものに縛られない自由人。毎日がエブリデイ……!
「うひょーい!」
「うおお、ロイド兄ちゃんすげー!!」
「うははは! フォルドも冒険者を目指すなら体は鍛えておけよー」
そんな僕達はさておきこの世界の学校も夏休みがあるらしく、だいたい十五日程度休みがあるそうだ。そういえば暑い日はずっと家に居た気がする。
今は灼華の月で兄ちゃんズの休みが終わるころには次の月、いわゆる秋に変わる。
ただ、残暑もあるのでそれまでは今、ロイド兄ちゃんが飛び込んだプールはまだまだ活躍するに違いない。
「……」
「わふーん」
「ウルカ君のお母さんかっこいい」
「ふふ、ステラちゃんはお母さんと違って見る目があるわね」
あのイベントから数日が経過したそんな夏休み初日。
僕達はプールで休日を満喫していた。母さんは前に作った即席ビーチパラソルの下でステラとおしゃべりをし、
「ふむ、これはいいな」
「わふ」
ギル兄ちゃんもプールに入り、シルヴァと顔だけ出して涼んでいた。
一応、サテン生地らしきものを町で見つけたので全員の水着を作っているから泳ぎやすくなっていたりする。
お着替えは旧秘密基地で行い、部屋を追加して荷物を置けるようにした。
「ウルカ君ー、父ちゃんがお昼ご飯持たせてくれたから後で食べようね!」
「うん。後でお礼を言っておかないとね」
ちなみに父さんは来ていなかったりする。
何故かというと例のゲーミングチェアの注文が増えて対応に追われているからである。
あの時は妙なプライドから買わない選択をしたけど、試用した心地は良かったらしくこっそり執事や部下に取り次がせている人が居るそうだ。
最初に注文した人たちの内、五台は急ピッチで仕上げて納品済み。
あの早口になっていた侯爵様は展示品でいいからすぐ持って帰りたいと言っていたので彼は一番最初に使い始めたはず。
取り分はザトゥさんが製作費として持っていき、父さんが販売手数料で受け取る。
後は材料費を支払って残ったお金が僕の下へ来るようになっている。
材料費が高騰すれば僕の取り分が減ることもあるけどアイデア料だしそこはあまり考えないでいいかと思っている。
ザトゥさんに回してもいいと言っているけど、普通の椅子の10倍くらいもらえているから問題ないそうだけども。
まあ数が売れればお金になるし、すぐ飽きるだろうからボーナスだと思えば気が楽だしね。今度このお金をもって町で買い物をしようかな?
「<ミズデッポウ>!」
「お、なんだその魔法? ウルカが考えたのか?」
「そうだぜギル兄ちゃん! あいつ本当に凄いよ、魔法もたくさん使えるし」
「……確かに。あのベンチもウルカが作ったし隠れ家も見事だ。散歩をする人のために氷柱を置いているし。なあウルカ俺にもミズデッポウを教えてくれ」
「ん? いいよー。ギル兄ちゃんは魔法が得意だしすぐ使えると思うよ。氷柱も覚える?」
そうだなとギル兄ちゃんが不敵に笑いながらプールから上がると、不意に僕の背後へ視線を向けた。僕も振り返ってみるとハリヤーではない馬に乗った父さんが慌てた様子で向かってくるのが見えた。
「あれ、父さん? お仕事は」
「そ、それどころじゃなくなったんだ! フォルド君達には悪いが私達一家はすぐ屋敷に戻るんだ」
「どうしたんだよ親父?」
「それが――」
父さんがなにかを言おうとしたところで、その後ろから豪華な馬車がゆっくり登ってきた。
「あれは……え、本気で? パパ、一体どうしたのこれは」
「こっちに来てしまったのか!? いやあ、私も驚いたのだが……」
「どういう……あ!?」
母さんとギル兄ちゃんはなにかを悟ったらしいけど、僕とロイド兄ちゃんは顔を見合わせて首を傾げる。
もちろん僕の後ろに居るフォルド達もよくわかっていない。
しどろもどろになっている父さんの後ろで馬車の座席がある扉から丁寧な所作をする男の人が出てきて膝を突く。そしてさらに人が降りてきた。
「誰なの?」
「ふむ、一家揃っているのかロドリオ殿」
「え、ええ。ですがこう肌を見せたりしているので屋敷の方がいいかと……」
随分と尊大な雰囲気を出すおじさんが、焦る父さんへ微笑みながら『問題ない』と返した。そのまま僕達の方に顔を向けて咳ばらいを一つ。
「初めましての者もいるな。私はこのワイゲイル王国の国王フレデリックだ。よろしくな皆の者」
「な!?」
「ええ!?」
【ほー】
そりゃ尊大なはずだよ!? なんでというかなんでこんなところに国王様が……?
◆ ◇ ◆
「急に押しかけてすまなかったな。これは日よけか? 見たことが無いデザインだな」
「ええ、ウチのウルカが希少魔法の<クリエイト>で布と木から作ったんですのよ」
「あ、ちょ、母さん……」
国王様の言葉でにっこにこの笑顔で僕を前に出す母さん。
とりあえず閑話休題となり、水着で応対はまずいであろうと急いで着替えてから今に至る。ちなみにフォルド達も流石に国王様の前ではということで着替えてから遠巻きにこちらを見ていたりする。
まあそれはともかくどうしてここに王様がここに来たのだろうか……?
するとその答えをあっさりと口にしてくれた。
「陛下はどうしてまたこんな田舎町に?」
「うむ。先日、月報告があったのだがその際、この地の領主であるキールソン侯爵があるものを私に見せてくれたのだ」
「……」
その瞬間、この場に居る全員が『キールソン侯爵』というワードですぐに察することになった。
それでも違うかもしれないということで父さんが深呼吸をしたあと口を開く。
「その、あるものとは?」
「ふふん、言わずもがなだろう。あれだよ、ゲーミングチェアというやつだ」
やっぱりか……!?
まあ、別に口止めしていたわけじゃないからあり得なくはないけど。王様自ら来るほどじゃあない気がするんだけどね。
【ま、話を聞いてみようぜ】
ゼオラが空中で寝っ転がりながら暢気にそんなことを言うのだった。
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