第三十七話 展覧試遊会というもの
【これで快適になりそうか?】
「だね。大変な作業だったけど少しマシだと思う」
プールが人気を博してから早数日。
いまだに大盛況なあそこへは今日行かなかった。フォルドとアニー、ステラも来れないからだそう。
フォルドを通じて数人、似たような世代の子とも話すことがあったけど向こうの親が僕の正体を知って委縮してしまったのであまり近づいて来なかったからだ。
兄ちゃんズも学校へ行くようになってしばらくはそんな感じだったらしいからしょうがない気もするけどね。
今では気さくに話せる人も増えているから時間と親がいない時にどれだけ仲良くなれるかってところかな?
ま、それはそうと今やっているのは池の水を利用して新秘密基地……いや、旧秘密基地は隠れ家って呼ばれているから分けよう。
とまあ、新秘密基地を涼しくするための改造を施すため作業をしているんだけど壁を掘り、地面に穴を開けて池の水をこの基地に流そうという計画だ。
水冷パソコンの要領で床なり壁に冷たい水を通せば涼しくなるんじゃないかと思ったから。
【壮大だなあ。氷柱を生み続けていた方がいいんじゃないか?】
「どうせ今日は暇だしね」
「にゃ」
「こけ」
「わふ」
「うわあ!? お前達どっから入ってきたんだよ!?」
水を通すための穴を掘っていたらいつの間にかワクワクな動物達が勢ぞろいしていた。すると僕の言葉に反応した動物達が一斉に入り口へ目を向けた。
「開いてたのか……というか匂いでついてきたのか?」
「うぉふ♪」
肩を竦めてシルヴァを撫でると嬉しそうに鳴く。だけどすぐに僕の袖を咥えて背中に乗るように示してくる。
「なんだい?」
【……屋敷に戻れってことみたいだな。ここが見つからないように先に呼びに来たんじゃないのかい】
「本当? ま、いいや。シルヴァ頼むよ」
僕はジェニファーとタイガを抱えてシルヴァにまたがり、身体強化を施すと力強く足を踏みこんで秘密基地の外へ。
【ほいほい、戸締りはしっかりねっと】
「ありがとうゼオラ」
物に触れるようになったゼオラが扉を閉めてすぐに追いついてきた。そのまま風を切って森を抜けると途中でハリヤーに乗ったウオルターさんと遭遇する。
「おお、ウルカ様ではありませんか」
「ウオルターさん! どうしたのこんなところで」
「ウルカ様を探しておりました。ロドリオ様が呼んでいるのであの『ぷうる』というところかと」
「うん、ちょうど戻ろうとしていたところなんだ」
「それは良かったです。行きましょうか」
ウオルターさんがにっこりと微笑み踵を返して歩き出す。そのまま屋敷へ戻ると一家そろって待っていた。
「あれ? みんなどうしたの?」
「あ、戻ってきたわね。どこ行っていたのウルカちゃん? 今日はゲーミングチェアのお披露目をするって言ってたじゃない」
「そうだぞ。気づいたら居なくなっていたからびっくりした」
「あ」
そういえばこの前そんな話をしていたと、母さんとギル兄ちゃんの言葉で思い出す。
「はっはっは! 主役が居ないのはさすがなあ! それじゃ行こうぜ」
「その前に着替えないとな。……お前達も行くのか?」
「わふ」
「こけ!」
「にゃー」
父さんが肩を竦めて聞くと僕の横にお座りをしている動物達がそれぞれ鳴き、外では珍しくハリヤーが嘶いていた。折角だしおめかしするか。
◆ ◇ ◆
「――本日はお越しいただきありがとうございます! 今回は私の息子、ウルカティヌスが考案し、我が町の職人たちが一丸となって作った椅子。その名も『ゲーミングチェア』と言います」
というわけで僕達一家は壇上で父さんの演説を聞く。
「それではどうぞ!」
ひとしきり終わった後、ザトゥさん達が父さんの前にあった布を取り払うと都合した三台のゲーミングチェアがその姿を現した。
赤・青・緑という基本色は見栄えが良く、僕も乗ってみたけど全てそん色なく同じ座り心地だったと言える。
「椅子かあ」
「貴族を招待するからどんなものかと思えば……」
「まあいいではないか。ロドリオ殿の顔を立ててやろう」
「なんで動物がいるんだ……? 魔物、じゃないアレ」
「首に蝶ネクタイ……可愛いけどなんでだ」
「食事をして少し会話をして帰ろうではないか」
「そうですわね」
【なんでえ、座ってから言えってんだ!】
さて、そんなゲーミングチェアだけどいいものだと思っていた貴族たちに落胆の色が見えるね。
ゼオラが吠えているけど実際試してみないことには分からないと思うので正しい反応だと思う。
それは父さんも思っているようで余裕たっぷりの顔でどよめきを鎮める仕草をしていた。
「まあまあ。私も最初はたかが椅子、そう思っていました。ですが、これは違うのです。今まで座っていた椅子はなんだったのか……そう思わせるもの」
「ほう……」
「そこまで言うか」
食いついてきた。
ここで一気に畳みかけるべきだと次の話へ進む。
「そこで今回はこのゲーミングチェアの凄さを知っていただくためにお越しいただいたのです。もし気に入っていただければオーダーメイドですが購入していただくことも可能」
「なるほどいわゆるプレゼンテーションというやつか、商人上がりの貴族は考えが小賢しいものだ」
「「「むっ」」」
「あらぁ、パパを悪く言うのはどなたかしらあ?」
僕達一家の機嫌が悪くなる。やっかみをもつ人間がいるのはどの世界でも一緒だろう。ここは静観しようと兄ちゃんズの膝を叩いておく。
そして――
「じゃあ私からいこう」
「む、キールソン侯爵がいったぞ」
「ふふ、ロドリオめ、あえて恥をかくか」
キールソン侯爵って確か王様が居る王都だっけ? その近くに住んでいる貴族だったはずだ。ウチより位は上だ。
その結構かっこいい侯爵様が壇上にのぼり父さんと握手を交わした後に椅子へ腰かける。
「……! これはっ!!」
「いかがですかキールソン様」
手ごたえありと見た父さんがにやりと笑い問いかけると、キールソン様がカッと目を開いて口を開く。
「うむ、この背もたれのクッションはまるでソファ。しかも硬すぎず柔らかすぎず程よい弾力。しかもこの革もきれいになめしていて非常に手触りが良い! これは長時間座っていても疲れない可能性があるぞ」
「「!!」」
「キールソン様、それだけではありませんよ。椅子の支えにあるレバーを上にあげながら背を預けてみてください」
「なに? こうか? ……おおっ!?」
背もたれが倒れてお昼寝モードになるとさらにキールソン様が言う。
「なんと! この頭のところにあるクッションはなにかと思えば枕か!! これなら書斎仕事をしてちょっと疲れたと思えば横になれる……!! え? 足も延ばせるのか? 凄い!」
好きなものを語るオタクのように早口になる侯爵様。
その後も高さ調節を説明すると目を輝かせて喜んでいた。
そして――
「いくらだ」
凄くいい笑顔で即決していた。
さらにどよめきは大きくなり、父さんに声を張り上げる貴族たち。
「なにぃぃぃ……! 即決……即決だと!!」
「そ、そんなにいいものなのか!? わ、わしにも使わせてくれぃ!」
「わ、私はあの青いのがいいな……!」
「順番! 順番にお願いします!」
「うぉふうぉふ!」
「こけー!!」
「にゃーん!」
「よーし、仕事すっか!」
「そうだな」
さて、こうなると今度は僕達の出番だ。
兄ちゃんズと動物達で整列の手伝いをするかと立ち上がる。
するとゼオラが違うところを見ていることに気づく。
【……】
「どうしたの?」
【ん? あ、いや、なんでもないよ。いい感じそうじゃねえか、しっかり売ろうぜ!】
「そうだね! あ、これはですね――」
という感じでお披露目は進み――
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