第三十八話 貴族の顔合わせのようなもの


 「いやあ、凄かった……」

 「たかが椅子、されど椅子というところか。金貨二枚なら悪くない」

 「私は使うところがないので見送りですな。しかし物は悪くない」

 「ありがとうございました!」

 「こけー」

 「あら、可愛いですわね」


 次々と試用していく貴族たちに挨拶をする僕とジェニファー。

 頭を下げるジェニファーは女性に人気で、そういうところでも注目されていた。

 周辺の貴族が集まっているそうだけどだいたい五十組くらいかな? 九割ほど捌いたところで、父さんが商談に入っていた。


 「受付はこちらで。一脚、金貨二枚ですよ」

 「ふっふ、一つ貰おうかのう。ロドリオの息子が発案か? 面白い子ができたのう」

 「はは、これはフェルゲン様。いらしていたんですね」

 「商家のお前が大々的に触れ回ったのだ、面白いものが見れると思っての。だいたい嫁さんからして特殊じゃろ」


 おや、父さんと親しい人かな? 若い執事と一緒に居るお爺さんが母さんを見て笑いながらそんなことを言う。

 

 「意外と母さんの種族は知られているような感じっぽいね。僕がヴァンパイアハーフだって知られても困らないかも」

 【隠す必要はないからそんなものじゃないか? 言葉が通じない相手なら相手も警戒するだろうけど意思疎通ができるなら種族は気にならない】

 「いやあ、僕の世界だと魔物扱いだからねヴァンパイア」

 【へえ、その理屈だとエルフも魔物だよな】


 言われてみれば確かに。

 人間しかいない中で別の存在だと「違う」ということに違和感を覚えるのは地球だけの感覚なのかもしれないな。

 なんだか「良いもの」と「悪いもの」に分けている子供のころの方がシンプルなのかもと思う。悪さをしなければ言葉が通じる以上避ける理由にはならないもんね。

 とりあえず購入してくれたフェルゲン様に挨拶をしておこう。


 「ありがとうございます!」

 「息子のウルカです。ウルカ、フェルゲン公爵様だぞ」

 「おお、賢そうな子じゃな。文武は兄たちが良い成績を修めていると思っていたら別の方向で才能を見せるか。頑張るのじゃぞ」

 「はい!」

 「旦那様、そろそろ行きましょう」

 「うむ」


 そう言って僕の頭を撫でた後、フェルゲン様は片手を上げて執事さんと一緒に帰っていった。父さんも他の貴族の人に話しかけられ商談へと戻る。

 そこへ他のお客さんの相手をしていたギル兄ちゃんがやってきた。


 「フェルゲン様はいい人だ。俺が小さい頃にも会ったことがあるんだけど、気さくな方だ。……ただ、怒るとめちゃくちゃ怖いって話だな」

 「へえ。ギル兄ちゃんは怒らせたことあるの?」

 「俺は無いけどロイドがな」

 「ああ……」

 「ほら、タイガお前もニワトリに負けずに愛想を振りまけ!」

 「にゃー……」


 なんでも三歳くらいの時に野良犬と喧嘩したとき、危ないことだからと叱られたらしい。悪さをして怒られたわけじゃないあたりロイド兄ちゃんらしいや。


 そんな感じでイベントは進み、最初のキールソン侯爵の語りもあったせいかなんだかんだで二十台くらい予約が入ったらしい。


 「おーい! ウルカー!」

 「ウルカくーん!」

 「あ、フォルドにアニー!」

 「わたしも居る」

 「あはは、ステラも!」


 少し遠くからフォルド達の声がすると思ったら手を振っているのが見える。

 貴族が集まっているから平民は近づけないらしいけど、冒険者の護衛の外からなら遠巻きに見ることは許されているらしい。


 今日は遊べないかとちょっと残念に思っていると、


 「後でなー!」

 「ウルカ君かっこいい!」

 「待ってる」

 「んん?」


 アニーはともかく良く分からないことを言うフォルドとステラ。彼らは笑いながらすぐその場を離れていき姿見えなくなった。

 そして予定通りに無事終了すると片付けもそこそこに、僕達はどこかのお店へと連れていかれた。


 「おう、待ってたぜ! お疲れさんガイアス家の皆さんはこちらへどうぞー!」

 「ありがとうオウル。さ、みんな座りなさい」

 「シルヴァ達は?」

 「料理屋だから悪いけど外だよ。後で食べ物を持っていってあげよう」


 お店は酒場兼食堂で、僕達の他にザトゥさんや町長のレニードさん、クライトさんに鍛冶屋のイデアールさんなどが先に来ていた。


 「ロドリオ様とクラウディア様に酒を持ってきてくれ! 新鮮なフルーツジュースもな!」

 「助かる。いや、レニードのおかげで大成功だった」

 「はっは、なにをおっしゃいますか。ウルカ様とゲーミングチェアのおかげですよ。こちらも貴族の方が商店街に足を運んでくれたので商品も売れたと喜んでおりました」

 「それは良かった。こっちも合計二十は売れた。なあザトゥさん」

 「……良かった。良かったけどよう。二十は聞いてねえ……作るのは誰だと思ってんだよ!?」

 「まあまあ、僕達も手伝いますよ」

 「やっぱ職人は増やすか? ウチの取り分は多いからな――」


 どうやらイベントが成功したため町長自らパーティを開いてくれたらしい。だけど今後のことを考えるとザトゥさんの仕事が増えるので彼にしてみれば気が滅入ることだろうね。

 だけどお金はかなり入るのでお酒を飲みながら複雑な心境を吐露していた。


 「ママは鼻が高いわぁ~♪ お兄ちゃん達もこれから楽しみだし生きててよかったわ」

 「それは洒落にならないから……」

 「ウルカに負けないくらい騎士としていい功績を残したいぜ。ドラゴン退治とかやりてえ」

 「ロイド兄ちゃんならやりそうだよね」

 「お前はわかってんなウルカ!」

 

 お酒が入った母さんが僕達を抱きしめながら自慢の子だと嬉しそうに言う。そういえば飲んだのを見たのは初めてだけど強いのかな?

 料理が来るまで家族でそんな話をしていると大皿が運ばれてくる。


 「さ、串焼きだぞ」

 「あれ、フォルド?」

 「おう! 後でなって言ったろ! ウチの親父も手伝いで来ているんだ。アニーとステラもいるぞ」

 「やっほー!」

 

 僕のところに来て手を上げるアニーだけど、フォルドの妹じゃなかったはず。


 「アニーは親の言ってきているの?」

 「え? あれ父ちゃん!」

 「え?」

 「はっはっは、ウルカ様いつもアニーと遊んでくれてありがとうございます」


 そういって別の皿を持って来たオウルさんを指さすアニー。串焼き屋と酒場で親父さん同士の中がいいって感じかな?


 「遊んだ日はウルカ様がウルカ様がってずっと言ってるんですよ」

 「もー、父ちゃん言ったら駄目なのー!」

 「おっと、すまんすまん」

 「ウルカ君、こっちでお話しよう」

 「うん」

 「俺はもうちょっと手伝ったらいくぜー」


 膨れるアニーとステラに連れられ別のテーブルで話を始める。

 フォルドはちゃんとお手伝いをしていて偉いな……。最初の印象は悪かったけど、子供らしいと言えばそうなんだろうなと苦笑する。


 そして宴会もいい感じになってきたのだけど――

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