第三十六話 気に入ってもらえたというもの
クライトさんと一緒にハリヤーに乗って再び池とプールへ向かう。
その間、僕は気になっていたことを尋ねてみることにした.
「ステラはギルドの部屋をよく抜け出すことがあるの?」
「ん? いや、そんなことはないよ。けど、ウルカ君に会ってから屋敷へ行きたいとせがむようになったかな」
「僕?」
クライトさんの前に座っている僕が顔を見上げると、彼は前を向いたまま頷いて続ける。
「そうだね。多分、君のことが好きなんだと思う。って言ってもまだ五歳の子には早いかな」
「うーん、好き……なのかな? 友達が出来て嬉しいとか」
「かもしれないね。初めて同年代の子と会わせたし」
恋愛というよりは友達だと返すと、クライトさんはそうかもねと笑う。まあ僕と結婚すれば今使っている<ミストシャワー>が手に入るのかなどと呟いていたので、ステラが完全な箱入りというわけではなさそうだ。
「それにしてもウルカ君は凄いね。聞いたけど、ヴァンパイアハーフなんだろ? そして発明家。将来は大物になれそうだからこの町も安泰だ」
「うん。僕は平和に暮らしたいからね」
「魔法の才能は冒険者にも向いているんだけど、貴族の子供は道楽以外で狩りには行かないしいいと思うよ」
わざわざ危ないところへ行く必要は無いからね(ステラちゃんが悲しむから)と言うクライトさん。
「母さんがリンダさんが嫌いみたいだし結婚は無理じゃないかなあ」
「ウチのステラちゃんを捨てるっていうのかい!?」
「まだその段階ですらないけど……。あ、そうそう、リンダさんってどういう人なの?」
「さ、そろそろ池が見えてきたぞ」
はぐらかされた!?
のかは分からないけど、クライトさんの言う通り池が見えてきた。
池が、というよりはステラが見えてきたから僕の言葉は届いていなかったのかもしれない。親ばかというやつだし。
「あー! ウルカ君だ!」
「……」
「あれ、パパ」
即座に気付いたのはアニーでプールから上がって手を振ってくる。片手にジェニファーを持っているので見えていないが……うん、全裸は止めさせよう。
そして入れ替わりに戻って来たのがクライトさんだと気づき、ステラが首を傾げていた。
「『あれ、パパ?』じゃないよステラ。勝手に居なくなったらパパ心配で死んじゃうだろう」
「ん。でも、受付のメルお姉ちゃんに出てくることは言っておいたよ? 聞かなかった?」
「……」
目を逸らす。
多分、誰にも聞かず出てきたのだろう。さらに言えば――
「……クライトさん、もしかして黙って出て来たんじゃ……」
「……」
【あ、滝のような汗が出てきたな。そんなに暑いのか】
天然ゼオラはスルーし、どうやらビンゴのようだ。まあ、ステラの無事もわかったことだしもう大丈夫だろうと声をかける。
「ステラはこのとおり元気だし、クライトさんはギルドへ戻った方がいいんじゃない?」
「ステラと遊ぶんだ……俺は……」
「仕事を放棄したらダメ」
「あぐ……」
五歳の娘に諭されていた。
「ちゃんと家に送るから一緒に遊ばせてよクライトさん」
「ぐぬう……仕方ない。仕事もあるし、無事も確認できたから帰るよ……」
「ご息女はお送りしますよ」
何故か膝の上にステラを乗せているバスレさんがキリっとした顔で眼鏡の位置を直す。
「それじゃ頼むよウルカ君」
「あ、ハリヤーは置いていってね」
「この暑い中を歩き!?」
ウチの馬だしね。
クライトさんは一瞬、フォルドが楽しげに泳いでいるプールを見た後、トボトボと寂しそうな背中をしてこの場を離れていった。
「これ気持ちいいねー! 涼しいー」
「うわあ!? ……なんか布が無いかな? あ、バスレさんそのエプロンもらっていい?」
「ええ、支給品ですし構いませんよ」
メイド服の上につけているエプロンを受け取りクリエイトで加工していく。サイズはわからないけど隠せればなんでもいいだろう。
やがてエプロンが縮み、ビキニっぽい水着が完成する。
「はいアニー、これをつけて」
「パンツと乳当てだー!」
「ま、まあ、なんでもいいけど……大事なところだから隠してね」
「そうなの? ウルカ君が言うならつける!」
アニーが元気よくこぶしを突き上げて宣言してくれたので僕は慌ててタイガで股間を隠す。
「バスレさん、手伝ってあげて」
「もちろんです。これ以上点数稼ぎをされてはたまりませんし」
「そうね」
「なんのだよ」
「おーい、泳ごうぜー?」
なんか仲が良くなったバスレさんとステラ。そして能天気なフォルドがプールから僕を呼んでいた。
アニーとついでにステラはバスレさんから大事な部分を隠す意味を説明してもらったので今後はきっと大丈夫だ。
「ウルカ君ならいいのに」
「ね」
大丈夫……大丈夫……。
……とまあ、ひと騒動あったけどステラとバスレさんにも布水着を作り、僕もおやつの時間までプールを堪能した。
そして次の日――
「今日も涼もうかな。ロイド兄ちゃん、プールに行く?」
僕はタイガとねこじゃらしで遊んでいるロイド兄ちゃんに声をかけた。今日は休みな二人だけどギル兄ちゃんはお出かけで居ない。
「お、昨日作ったってやつか。親父が絶賛してたな、暑いし行ってみるか!」
「おー」
「にゃー」
暑いのによくタイガを抱っこできるなあと思いながら二人で外に出ると、動物達が寄って来てそのまま池へ。
だけど近づくにつれてなんだか騒がしいことに気付く。
「なんだろ、随分騒がしいね」
「この辺って池とウルカの隠れ家だけだよな。道が繋がってもそんなに人は居なかったと思うけど」
僕とロイド兄ちゃんは顔を見合わせて首を傾げつつ、現場に到着。
すると――
「あはは、すごーい!」
「つめたーい! ママ、ここなら泳げるよー!」
「段が斜めについているのか……これなら溺れにくいな確かに」
「あれ!?」
「なんか人がいっぱいいるな!」
――プールが人でごった返していた!
「え、なんでだ? これのことを知っている人は居ないはずなのに……」
そう呟いているとプールの水から見知った顔が出てきた。
「ぷは!」
「フォルド、ここは凄いな。池は危ないけどこれなら入れる」
「だろ?」
犯人はあいつか!?
勝手なことをして……ちょっと叱ってやるか。そう思って近づいていくと、
「ウルカはすげぇんだぜ? みんな暑さで倒れそうだったからなあ、ここならいいかと思ったんだ」
「今年は特に暑いからなあ。子供たちが心配だったんだよ。ウルカ様にはお礼を言わないと」
……見れば子供連ればかりか。どうやら子供たちがグロッキーになったのを見かねたフォルドが案内したらしい。
ふむ、そういう事情なら仕方がない。
「フォルド」
「ん? お、おおウルカ! これは……すまねえ」
「いいよ、聞いていたし。使ってもらう分には構わないからそのままで」
「あ、ありがとうございます。ウルカ様!」
「うん!」
そこでロイド兄ちゃんが苦笑しながら僕の背中に声をかける。
「どうすんだ? これはちょっと入れないぜ?」
「まあまあ、これを作ったのは僕だよ?」
「だな」
「なら……もう一個つくればいいんだ」
「ひゅう、ウチの弟は大胆だな! よし、手伝うぞー」
「わふわふ!」
「こけー!」
町の人には自由に使ってもらうよう言い、僕はもう一つプールを作成。まあ気に入ってもらえたなら作った甲斐があるよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます