第二十五話 暑くなっていくと欲しくなるというもの


 新しい秘密基地の作成を決意して早半月が経過した。

 その後、アニーあたりは来るかと思っていたけど来ていなかったな。来た時に猫が居ないと寂しいだろうと旧・秘密基地へ様子を見に行ってみたけど姿を見ることは無かった。

 フォルドはこっそり来そうだったけど、兄妹揃ってになるだろうから二人とも来れないのかもしれない。

 まあ、ギリアムさんに連れられて帰宅した後、叱られたのだろうと思うけど……。


 そんなこんなで預かっているニワトリのジェニファーも町へ帰る様子はなく、夜は屋敷、昼間は僕の後をついてくるようになった。寝るときはハリヤーと同じ厩舎で寝ていたりする。

 猫は自分の家、イコール旧・秘密基地と認識しているようで夜はそっちへ帰っていく。

 扉は残しつつ猫が通れるミニ扉を別に作っておいたから、魔物も簡単には入れないので安心して寝ているようだ。

 餌はウオルターさんに言って食べられるものを与えている。夜ご飯までは屋敷にいるのでちゃかりしたヤツである。

 ちなみに汚かったのでロイド兄ちゃんがめちゃくちゃ洗っていた。


 「うはははは! 猫だ猫だ!」

 「にゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 「猫が禿げるぞロイド……」


 という周囲の近況はこんな感じで、新・秘密基地は最近完成したばかり。

 岩を削って洞穴のような感じに掘削した後、リビングを作ってから僕の部屋とゼオラの部屋を左右に展開。

 ベッドもテーブルも作成し、後は向こうからゲーミングチェアを持ってくるだけとなった。


 しかし、トイレを作ろうとしたところで問題が出てきた。


 「いや、暑いな……!」

 【え? そうか?】

 「ゼオラは幽霊だから感じないんだろう!?」

 【ああ、それもそうか。これならどうだ?】


 そう言って僕にまとわりついてくると、


 「悪寒がする!?」

 【お、いい感じ?】

 「良くないよ……そういうのじゃなくて扇風機とかクーラーみたいなのが欲しいんだ」

 【魅力的なワードが出てきたね】


 ああ、こっちの世界には存在しないものを口にしてしまった。

 とりあえず、まずは窓を作った方がいいかと外に出て風の流れを調べてみることにする。


 「……日差しが強くなってきたなあ。もう夏も五回目だけど、屋敷は比較的涼しいんだな」

 【この時期はあたしも苦手だったよ。薬草が腐りやすかったし】


 珍しく賢者らしいことを口にするゼオラに苦笑しながら指に唾を付けて風の流れを確かめる。

 ここは森で木陰が多いからまだ陽が当たらないからいいけど池付近だと遮るものがないから多分もっと暑いだろう。移住は正解だったのかもしれない。

 それはともかく、これでだいたいの流れは分かったから吹き抜けできる窓の作成に移る。

 

 「とはいえ、穴を空けるだけだけど」


 折角穴を空けるなら冬に備えて暖炉も作ろうかな? リビングの中から魔法で外に向かって削っていく。玄関の横に穴を空けて、玄関から向かって右側の部分にも数か所開けておく。


 僕の部屋も右手に窓穴をつけておこう。風の流れがこっちで良かったよ。部屋と外まではそれほど厚くなっていないからすぐに穴は開いた。


 「よし、これで少しは変わるといいけど」

 【ウルカ、ウルカ】


 腰に手を当てて満足しているとゼオラから声がかかったのでリビングへと戻ると――


 【ほら、カブトムシ!】

 「うわあ!?」

 【あ、こら、はたき落とすんじゃない】


 急に顔面近くへカブトムシを近づけられたらこうもなろう。僕は慌ててカブトムシを拾うと外へ逃がしてやった。


 【カブトムシ……】

 「要らないからね? どこで採って来たんだよ」

 【いや、窓から入って来たから。ほら】

 「あ!?」


 見ればカマキリとかアリなども入っていた。そうか、網戸という習慣がこっちに無かったから失念していた。虫、入り放題だ……。


 「と、とりあえず塞いでおこう……」

 【まあ森の中だしなあ。虫は苦手か?】

 「虫が苦手というわけじゃないけど、ムカデとか毒のあるヤツはやっぱり怖いかな。昼寝している時に刺されたら大変なことだよ」

 【そう? 解毒魔法でいいじゃないか】

 「あるんだ?」


 あっけらかんと解毒魔法キュアについて説明してくれる。

 病気には効かないけど、毒蛇に噛まれたり、葉っぱでかぶれたりするといった外的要因による毒は治癒できるそうだ。

 食中毒はダメらしい。


 「便利だね。僕にも使えるかな?」

 【そんなに難しくないから、軽いケガをした時にでも教えるよ】

 「あ、回復魔法も? それは助かるよ」


 命の危険がある世界で回復魔法というのはかなり安心のできる保険だと思う。お医者さんも回復魔法を使っている人も居るらしい。


 【内臓の切った張ったは魔法にゃ無理だけどな】

 「病気は仕方ないかもね」

 【冷たくするなら氷の魔法なんかどうだ?】

 「どういうの?」


 僕の言葉にゼオラが背中に憑りついてから魔法を使う。


 【<アイスクラスター>】

 「おお!」


 魔法が完成した瞬間、リビングの真ん中に氷柱が完成した! ほのかに伝わってくる冷気がこもった空気を快適に変え……


 「るほどじゃないか……」

 【まあ、たくさん作ればいいじゃないか!】

 「水浸しになりそうだしなあ……ちょっと考えよう。でもありがとう」

 【おう!】

 「それはそれとして虫が入ってくるはどうするかな……。あ、そうだ」


 氷柱は今後の課題として、今は虫だと僕は旧秘密基地へ赴きジェニファーを抱えて戻ってくる。


 「こけー?」

 「にゃー?」

 「お前も来たのか。まあいいや、ジェニファーこの基地に入り込んだ虫を食べてくれるかい?」

 【なるほど、駆除か】


 僕が背中を撫でてやるとジェニファーは理解してくれたのかピンと足を延ばしてゆっくりと部屋を歩く始めた。


 「こけー」

 「にゃ!」

 「猫もやってくれるのか、助かるよ」


 瞬間、カカカカとくちばしが動いて虫を食べ始めてくれた。

 猫が追いまわし、ジェニファーが捉える。いいコンビネーションだ。

 

 猫がニワトリを捕食することがあるのだが、やはり食い物があると襲わないものなのだろうか。田舎という風潮もあるのかもしれない。


 程なくして秘密基地に平穏がもたらされ、網戸の検討を考えねばと僕は中途半端になった暖炉を見た後、再び旧秘密基地へと戻る。


 するとそこには――


 「ありゃ? あの椅子どこに行ったんだ? それにウルカも居ない」

 「父さん? どうしたの?」

 

 ――父さんが居た。

 声をかけるとにわとりと猫が父さんの足元へとジェニファーと猫が駆け寄っていく。

 

 「こけー」

 「にゃー」

 「お、なんだお前達もここに居たのか。それとウルカ、ちょうどいいところに! あのいい椅子はどこに持って行ったんだい?」

 「ゲーミングチェアなら……」


 『新しい秘密基地へ』と言いかけて飲み込む。ここでばらしたらまた移住先を探すことになる。それは面倒くさい。


 「えっと、ちょっと気に入らなかったから一旦クリエイトで素材に変えたよ」

 「えー!? も、もう一度作れるかい? 職人さんに話したら『ぜひ見てみたい』と言われたんだよ。……もし気に入れば販売権利で儲かるかも」

 「行こう父さん」


 僕はすぐに返事をするのだった。今後もお金は必要だもんね?

 

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