第二十四話 次の場所を探すというようなもの
「ギリアムさんー、入っていいよー」
「お、ウルカ様が居るのか。お邪魔しますよっと……」
甲冑の音を鳴らしながら開けっ放しになっている扉から顔を覗かせて来たのはやはりギリアムさん。
すぐに二人を見つけるとホッとした様子で口を開く。
「ああ、良かった無事で。工事の人も居るけどここは森の中だ、子供だけで来るのは危ないぞ」
「こいつらを探しに来ていたんだ、家の裏にいた猫に餌を上げてたら親父がキレちゃって、逃げたから……」
「ごめんなさい」
「アニーはすぐに謝ったな? お前は言い訳か?」
「あ、ご、ごめんなさい」
まあギリアムさんがここに来たなら二人は連れて帰るだろうし、僕は黙って見ていようかねえ。
するとアニーが僕の背に飛び乗ってギリアムさんへ言う。
「もっと遊びたいなあ」
「今日のところは帰ろうアニー。パパが心配していたぞ」
「うーん。ウルカ君、また来てもいい?」
「え? ここは僕の秘密基地だし、今から作り変えるから分からなくなると思う。猫も一旦外に――」
「にゃぁぁぁん!?」
「うわ!?」
やっと見つけた安住の地だと言わんばかりに足元にすがりつく茶トラ猫。
そこでフォルドが後ろ頭に手を組んで僕に声をかけてくる。
「いいじゃねぇか。猫一匹くらいならよ。それにアニーが遊びにきたら嬉しいだろ、一応、女だし。いてえ!?」
「一応は余計だと思うの」
僕の背中から靴を投げて一撃を与えるアニーはなかなかやる。
少し考えているとゼオラが耳打ちしてきた。
【ここは場所的にもどうせ見つかるし、解放したらどうだ? で、別のところに作ればいい】
ふむ、面倒だけど確かに池に近いのは今後も人の往来を考えると発覚しまくるだろうし入り口を変えてもかなり遠くになる。そう考えればゼオラの案は妥当かもしれない。
「……よし、分かった。この秘密基地を誰にも言わないという約束ができるなら猫を住まわせてもいい」
「ホント!? やったー! ウルカ君すきー!」
「うわ、暴れないでくれよ!? 大人のギリアムさんやウチの家族がたまにくるかもしれないけどね」
「いいよー! 多分、誰かと一緒じゃないと来れないし。猫ちゃん良かったねー」
「にゃフフフ」
気持ち悪い鳴き声を出す猫。
とりあえずこいつの処遇は終わったのでアニーは満足気だ。
「よし、それじゃ二人とも戻るぞ! ウルカ様はまだこちらに?」
「うん、ちょっとやることがあるから。家も近いし大丈夫だよ」
「ちぇ、いいなあ。ほら、帰るぞジェニファー」
「こけー!」
フォルドがいつの間にか草のベッドに戻っていたにわとりを連れて行こうと抱えようとしたが、布団に爪を立てて抵抗する。あと、名前をつけていたらしい。
「名前をつけてあげてって言ったけど、お前はジェニファーって名前になったのか」
「こけ」
「あ、お前が余計なこと言ったのか!? 親父がずっと考えていたんだぞ。ほら、行くぞ」
しかしジェニファーはガンとして譲らず、ベッドの布が破れそうになったので慌ててフォルドを止める。
「破れるから!? なんか猫と一緒に落ち着いたみたいだし置いといてもいいけど。アレだったら寝ている時にこっそり連れていくよ?」
「マジか。まあ、こいつが一羽いなくても困らないけど、猫と一緒だと食われそうでさ」
「ああ。野良猫だもんな。なら帰るときジェニファーだけ屋敷に連れて帰れば安心だろ?」
「助かるぜ。お前、貴族なのにいい奴だな……いてぇ!?」
「ウルカ様にたいそうな口を利くんじゃない。親父さんに代わって罰だ。後で親父さんに会うぞ」
「まあまあ、同い年だしいいよ」
ギリアムさんを宥めると、そうか? と困惑気味に言ってから二人を連れて秘密基地から出て行った。
「町に来たら魔法を教えてくれよー!」
「またねウルカくんー」
一応、出口まで見送ってから基地に戻り、ゲーミングチェアに座ってから一息つく。
「ふう……」
【大変だったな。まあ、次がいつになるかわからないし早く新しいところを作ろう】
「アニーは猫を目当てに来そうだけどね。ていうかなんでそんなに乗り気なのさ」
【ほら、秘密じゃなくなったし】
そう言いながら壁に向かって話すゼオラを見ていると、ピンとくるものがあった。
「あ! もしかして新しい秘密基地に部屋が欲しいからか!」
【はい】
あっさり認めたなあ。
まあ、どちらにせよこの場所は放棄するしかないので先ほどの提案しかないんだけどね。
ひとしきり椅子で休んだ後、飛び降りてから外へ。
「こけー」
「にゃー」
「いや、ついてくるんかい!? 大人しくしててほしいんだけど」
どうも僕に懐いてしまったのかベッドから下りてついてくる一羽と一匹。ジェニファーは預かりものだから注意しないといけないけど、猫は邪魔しなければいいかとスルーすることに。
さて、とりあえず騒ぎが収まったから今度こそ誰にも教えていない秘密基地の建造をすべく少し森へと入っていく。
木々が多い中を進むと、崖に突き当たった。
「崖……」
【ここでもいいんじゃないか? 周りは木が多いし、入り口を工夫すれば地下じゃなくても作れそうだ】
「そう?」
【こういう感じで……】
そういって木の枝を使って地面に図説してくれる。ふんふんと思って見ていたけど重要なことに気づく。
「あれ? ゼオラって物を持てるんだっけ……?」
【お? ……おお!? 持てているな】
ゼオラが木の枝をプラプラさせながら驚きの顔を向けてきて、すぐに真顔になってこの状況を分析し始めた。
【ふむ、昨日判明したウルカのスキル『英霊使役』の恩恵かもしれないねえ。このまま成長したら他にもなにかできそうな気がするな】
曰く、スキルを自覚したからではないかとゼオラは言う。
【ま、それはともかく作ろうぜ! あたしはこの辺の――】
と、また見取り図を描くゼオラだが、僕は違うことを考えていた。
それはすなわち、やはりゼオラは英雄だったのではないかということである。
このお気楽な賢者は一体何をしていた人なんだろうな。
【その内、風呂も入れたりしてな! 作ろう作ろう!】
「ま、いいか」
別に英雄だろうがそうでなかろうがゼオラはゼオラだしと僕は苦笑しながら話を聞くのだった。
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