第二十三話 すでに秘密ではないというもの
「でも、もう決まったことだからなあ。こればかりは町の人達も関わってくるから」
「ええー……」
「そうねえ。残念だけど池の周りは巡回するし、町の人も来れるようにしないといけないから」
翌朝。
池の周辺は来れないようにして欲しいという僕の願いは割とあっさり却下された。
計画書はすでに出ているからそれは流石にその通りに進めないといけないのだと至極当たり前の事実を返されぐうの音も出なかった。
仕方がないと僕は一人で秘密基地へと向かう。
「困ったなあ。そんなに人が来るとは思えないけど、あのままだと扉に気付く人も絶対いるよね」
現にギリアムさんが尋ねてきたし。
顎に手を当てて考えながら歩いていると、ゼオラが声をかけてきた。
【そろそろあたしの部屋を作ってくれよ。椅子とテーブルだけあればいいからさ】
「結構ぐいぐい要求してきたなあ。まあそれはいいんだけど、今後のことを先に考えないと」
【えー、まだ大丈夫だろ? へーや、へーや】
「一緒に考えてよー。まあ練習で拡張するのはアリだけど」
程なくして秘密基地へ到着し、入り口の位置を別のところにして部屋の構造を変えてみようかと考えながら扉を開けると――
「こけー」
「にゃー」
「なんでさ」
猫とにわとりが寛いでいた。
両方とも干し草のベッドがお気に入りのようで僕と目があったにも関わらず怯みもしない。
「扉を開けて入って来たのか……?」
【まあ鍵があるわけでもないし、押したら開くだろ。野良猫だろう、部屋を作ろう】
「それはそうだけど。でもこのにわとり、どっかでみたことがあるような……」
「こけー」
間延びした鳴き声で僕はポンと手を打つ。そうだ、串焼きの屋台にいたヤツだ!
近づいていくと体をこちらに向けてまた一声鳴いた。
とりあえず大人しいので持ち上げて目線を合わせて聞いてみる。
「お前、屋台のおじさんの飼っていたヤツだろ? なんでここに居るんだ? おじさんが心配するだろ」
「こけ」
「ふにゃあ……」
「お前はどこの猫なんだよっ!」
【なー、部屋を作ろうぜー】
猫もあくびをして微動だにしない。まだ子猫っぽい茶トラだけど随分堂々としたもんだ。
「ほら、ここは僕の家なんだから出て行くんだ」
「こけー!」
「にゃー!」
【部屋……】
追い払おうとしたら大声で抗議してきた。にわとりに至っては入り口に置いたのにベッドまで戻って来てダイブし、居座る方向に決めたようだ。
「気に入られちゃったか……まあ、飽きたら出ていくだろうしいいか。とりあえずこいつらは放っておいてゼオラ、なにかいい案を――」
【……】
見ればゼオラは椅子を倒して不貞腐れていた。むう、今日は色々と上手くいかない日だ。
「悪かったって。部屋も考えるからほら、一緒にやろうよ」
【ふぐ……ベッドも作ってくれ】
「はいはい」
子供か! と思いながら交渉に応じると元気に立ち上がって笑いだすゼオラ。
【ふはは! よおし、まずはだな――】
「おい、ここに居るんじゃないか?」
「っぽいねー。行こうおにいちゃん!」
「い、いや、怪しいだろ? 中にやべー奴がいるかも――」
「こんちわー! 誰かいますか? 居ませんね、はいりまーす!」
「おや!?」
急に外で子供の声が聞こえたと思ったら小さい女の子が突撃してきた。茶色のおかっぱにスミレ色のワンピースを着た子が僕にぶつかり尻もちをつく。
「ダメだよ勝手に人の家に入っちゃ」
「わ、人が居た!」
「ほら怒られた!? す、すみません勝手に……ってお前は!」
「え?」
さらに男の子も入って来て女の子を立たせながら頭を下げて謝罪してきたものの、僕の顔を見て声を上げ、すぐにふんぞり返って口を開く。
「お前、丘の上にある屋敷の子だな? この前、町に来たのを見たぜ。ちやほやされていたな!」
「ああ! あの時の!」
そういえば町の人たちと握手をしている時に見かけた二人だと手を打って思い出す。
「町からここまでそれなりに距離があるのによく来れたなあ。どうしたんだい? あ、もしかしてあのニワトリと猫の飼い主とか?」
「ふん、お前に言う必要は無いね!」
「じゃあお帰りはあちらだから」
「「ええ!?」」
僕は二人に回れ右をさせてから背中を押して入口へと向かう。勝手に入ってきたうえにそんな態度じゃお客さんとして招き入れるのも難しいよ。
「おにいちゃんのせいで気分を害したじゃない! 貴族の人は怖いんだよ!」
「おま、お前が勝手に入るから!」
「いや、兄ちゃんのせいだよ」
「マジ!? わ、分かった、謝るから押すなって」
「よし」
とりあえず押すのを止めて一歩離れると、女の子がスカートの裾をつまんでお辞儀をしながら口を開く。
「はじめまして! わたしはアニーです! 四歳です!」
「ああ、はじめまして。僕はウルカ、五歳だよ」
一つ下らしい彼女は可愛らしい顔立ちをしているので将来有望な気がする。
で、もう一人の兄はというと……
「俺はフォウルってんだ! そこのニワトリはウチのなんだぜ」
「歳は?」
「……五歳だ」
「おお、同い年だ」
これは友達フラグというやつだろうと手を取ってぶんぶん振ると、フォウルは『てやんでい』という感じで振り払う。
「俺は貴族のお坊ちゃんと慣れあうつもりはねえ。ニワトリと猫を連れて行ったらすぐ帰るぜ。なあアニー」
「えー?」
「にゃーん」
すでにアニーはベッドに座っており寛いでいた。なるほど飼い猫なら懐いている理由も分かるか。
「まあ、連れて行ってくれるのはありがたいけど。今から秘密基地を改造するんで」
「うーん、ニワトリさんは兄ちゃんちのだからいいけど、ネコさんは野良なんだー。ここに置いたらダメかな?」
「え、こいつって野良なんだ」
「ふにゃーん」
急に甘えた声を出す猫。ここを追い出されないようにしたいらしい。抵抗が激しかったのはそのせいか。
「こけー」
「お前には帰れる場所があるだろ?」
「あ、そっぽ向いたね」
「まあなんでもいいやフォルドだっけ、にわとりを連れて行ってよ。というか屋台のおじさんの子供?」
「う、なぜそれを……!?」
僕は屋台で買い物をしたこととその時にいたニワトリであることを告げる。するとフォルドはぐぬぬと拳を握りながら言う。
「親父は屋台だけど俺は大きくなったら名のある冒険者になるんだ! 貴族の甘ちゃんには無理だろ!」
「へえ将来を考えているんだ。まあ、僕はなるつもりはないけど」
「なんでならねえんだよ!? カッコイイだろうがよ!」
「どっちなんだよ!?」
力強く僕の両肩を掴んで来たので慌てて振り払い、ウトウトしているにわとりを差し出して言葉を返す。
「どっちでもいいけど探し物はこれだろ? 僕は忙しいんだから二人とも帰って帰って」
友人枠かと思ったけど3秒で相容れなさそうだと思ったので兄妹ともどもお帰り願おう。すでに寛いでいるアニーには悪いけど。
するとフォルドが訝しむ。
「忙しいって貴族は楽しているんだろ? 子供がなにをするんだよ」
「この部屋を作り変えるんだ」
「工事の人もいないのにできるわけねえだろ」
「魔法でやるんだよ<クリエイト>」
「あ、すごい」
「……!?」
魔法で壁をくり抜いてやると、アニーが僕の背中によじ登り、フォルドが目を見開いて驚いていた。
そこでフォルドがギギギ、と首をこちらに向けて口を開く。
「お、お前、魔法が使えるのか!?」
「まあね。暇だからいっぱい覚えられるんだよ」
「マジか……! じゃ、じゃあ――」
「おーい、フォルドとアニー、ここに居たりするかー?」
と、身を乗り出してきたところでまた入り口から声がかかった。あの声はギリアムさんだな。
ふうむ、この二人にも知られたし秘密でもなんでもなくなっちゃったな……やっぱり入り口を変えるかここを放棄して別の場所に作るかな?
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