第二十二話 可能性がたくさんあるというようなもの


 「わ」

 「さて、ウルカちゃんはどんなスキルが手に入るのかしら!」

 

 すると頭の中にふわっとした感じの声が聞こえてきた。


 『あなたのぉ……スキルはぁ……』

 「なんかどっかで聞いたような……」

 『【金運】と【英霊使役】に決定しましたぁ! パチパチパチ!』

 「というかこれユキさんだろ!?」

 「どうしたウルカ!?」

 「あ、いや、なんでもないよ父さん」


 あの気の抜けた声は間違いなくそうだ。

 消える瞬間『皆さんそうおっしゃいますぅ』って聞こえた気がする。


 それはともかくだ――


 「……」

 【? えへへ】


 顔をぐるりと曲げて壁を背に立つゼオラに視線を合わせると、なにを思ったのかへらっとした顔で手を振って来た。たまに可愛い仕草をする幽霊である。

 というかもしゼオラが『英雄』だとしたら? と考えたわけだけど、スキルが先か憑りつかれたのが先か不明だなと思いなおす。

 卵が先か鶏が先かみたいな話をしても仕方が無いか、もうすでに憑りつかれているのだから。


 逆に彼女の力を使えたからあの蛇を倒せたわけだし、僕にとっては恩人かつ師匠ということは変わらない。

 

 さて、とりあえずスキルが判明したわけだけどなんとなく英霊使役は話さない方がいいような気がする。

 ここでなんか見えているの! とか、英雄ゆかりの地などに連れて行かれたりしても面倒臭い。


 「なんか金運っていうのが頭に入って来たよ」

 「金運ということはお金持ちになれるスキルってことかしら?」

 「多分。でも楽してお金が増えるならいいかなって感じもするけど。僕って戦いには向かないし」

 「そうだなあ。なら将来はパパのお仕事を手伝ってもらおうかな!」

 「いいわね! それじゃ今日はお祝いをしましょう。バスレ、ウオルターと一緒にパーティの準備を」

 「ラジャー」


 というわけで僕はどうやらただの人間ではないということが判明し、スキルとやらももらった。

 スキルホルダーもいないわけではないそうなので血とは別に、突然授かる人もいるのだとか。

 父さんは元々ただの平民だったけど母さんと結婚してヴァンパイアの脅威をやわらげたという功績により貴族にしてくれたとか。だけど大きな町で過ごすのはちょっと……と声があがり、この田舎町に居ることになったんだって。

 だから半分くらいは平民みたいなもんだよと父さんが笑っていた。


 身分はあまり必要ないしウチは丘の上で平和だし、これ以上望むものはないかな? 

 さすがにヴァンパイアハーフ以上の驚きはもうないはず……。


 そんなことを思いながら今日のパーティは大いに盛り上がった。

 来年はお酒が飲めるんだぜとはロイド兄ちゃんの弁である。


 母さんとお風呂に入ってから部屋に戻るとゼオラが椅子に座って窓の外を見ていた。黙っていると美人なんだけどねえ。


 【お、戻って来たのか】

 「うん。ゼオラはなにをしてたんだい?」

 【いや、お前達の話を聞いていて、あたしはなんだろうなあって考えていた】

 「どういうこと?」

 

 記憶が曖昧なので不安になってきたとかかな? 幽霊ってことはなにか未練があったのかもしれない。浮かれていたけどゼオラに気を使ってやれなかった――


 【……いや、ウルカが英霊使役のスキルがあるならあたしは実は英雄だった、とか! 忘れているだけでかなり凄い人物なんじゃないかしらね!】

 「全然気遣いいらないレベルで気が大きくなってる!? まあ、僕もそれは考えたよ。クリエイトの魔法だけでも凄いし、あの蛇を倒したのも実質ゼオラだし」

 【うーん、素直だなあウルカは。かわいい、かわいい】

 「ちょ、まとわりつかないでよ!?」


 騒ぎにあてられたのかゼオラが笑いながら僕の身体をぐるりと包む。いつか成仏するかもしれないし、とりあえずは好きにさせておくかな。

 

 「なにか手掛かりでもあるといいんだけどなあ。あ、英雄なら教科書とかに載ってたりして」

 

 高名な人物なら名前くらいは知っている人が居てもおかしくないし、クリエイトの魔法が指折りレベルでしか使えないなら、相当な魔法使いだと思うんだよね。

 

 【まあ、英雄だったとしても今はこんなんだし、ウルカの成長を楽しみに生きるしかないんだけどな】

 「もう死んでいるけどね。さて、明日はうやむやになったけど秘密基地周辺の徘徊を止めてもらうように言わないとな」

 【ま、あの椅子があればあたしはなんでもいいけど。よおーし今日は一緒に寝るぞー】

 「はいはい……」


 僕は春より少し夏寄り生まれなのでそろそろ暑くなってくる時期にさしかかる。なんとなくゼオラが横にいるとひんやりするからありがたいなと思いつつ僕は眠りについた。また、町にでも行きたいな――


 ◆ ◇ ◆


 「ふう……今日は凄かったな……」

 「ええ。ウルカちゃんがヴァンパイアの血を残してくれることになってホッとしたわ」

 「ヴァンパイアの中でもトップであるロードの称号を持つママだからね、気持ちは分かるよ」

 「ありがとうパパ。リンダに危うく首を刎ねられかけたのを助けてくれたことがこうして子孫の繁栄に繋がった……」

 

 クラウディアは赤いワインを口にしながら優しい瞳でそう口にする。

 

 「僕で良かったのかとたまに思うけどね」

 「違うわ、パパだから良かったのよ。……この家庭は守り抜くわ、命に代えてもね? だからあの蛇がウルカちゃんを襲った時は焦ったわ」

 「あの時、覚醒したのかな」

 「多分……でも、魔力の残滓はウルカちゃんとはちょっと違ったような気がするのよ。調査はほぼ終わっているし古代種の蛇も完全に死んでいるから脅威はもうないんだけど」


 ギルドからの報告で完全に死滅し、すでに素材となっている魔物を頭に思い浮かべながら、あれでウルカが覚醒したことと危機にさらしたことへの複雑な気持ちが浮かんでくるクラウディア。

 ロドリオはそんな妻に微笑みかけてから。


 「危ないことなんてなにもないさ。ほら、息子たちはみんないい子だ。戦争もこんな片田舎じゃおきやしないし」

 「そうね! ……ならもう一人くらい作てもいいかも?」

 「お、おい……」

 「娘も欲しいの……!!」


 絶滅しかけたヴァンパイアの王、クラウディアはそう言って夫に襲い掛かかるのだった。


 「(それにしてもお兄ちゃん達には発現しなかったのにウルカちゃんは五歳で覚醒するなんてねえ……。まあ、あの子は物怖じしないし、屋敷で暮らすことを望んでいるから結婚相手だけみつければいいかしらね? ……リンダの娘とは絶対有り得ないけど)」


 ……ヴァンパイアの王は器が小さかった……

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