第二十一話 中途半端に転生したというなもの
母さんがヴァンパイアという衝撃的な真実を軽い感じで言われた僕達兄弟は両親の顔を見比べながら次の言葉を待つ。
深い理由があるということなのでもしかしたら厄介なことがあったのかもしれない。
「私とパパが出会ったのは深い森の中……そこで恋に落ちてから結婚したのよ♪」
「浅い……!」
「深いのは森の中だけじゃねえか!?」
「ツッコミが早い……!」
さすがは僕の兄ちゃんズだ。切り返すのが早い。しかしそのツッコミをものともせず今度は父さんが口を開く。
「まあ、母さんのは当たっているが詳しい話をすると、二十年くらい前だったかな。……元々、深い森の奥にある館の主として住んでいたヴァンパイアがお前達の母だ。冒険者が討伐に行くと一緒に着いていったのがきっかけだな」
「おお! 父さんも冒険者だったのかよ!」
「いや、荷物持ちだ」
「なんだよ!?」
当時から商家をやっていたらしい父さんは色々な道具を持たされたという不遇な人だった。物語ならなにか覚醒しそうな主人公タイプな立ち位置だけど、実際に母さんに遭遇した時そうなったらしい。
「で、母さんは冒険者との激しい戦いを繰り広げ、窮地に陥った。だが私には分かった。彼女は手加減していたのだと」
「それでパパが庇ってくれて事なきを得たんだけど、全然強くもなんともないのにヴァンパイアの私を身を挺して庇ってくれたのよー」
「ほら、その時のケガだ」
「ああ、うん……」
ロイド兄ちゃんが呆れたような顔で生返事をするのも無理はない。腕にちょっと縫い傷みたいなのがあっただけだもん……。
ま、まあ、戦う人じゃないのにそういう場所に行っただけでも凄いけどさ。
そう思いながら母さんに話を振ることにした。
「母さんはどうして手加減をしたの?」
「……同族が流行り病でどんどん亡くなっていってね。土地のせいだとか言って離れていき減ったの。それで生きていても仕方がないかもって感じてね」
「急に重いな! でも父さんのおかげで俺達が生まれたのだから感謝だな」
「そうだねギルバード兄ちゃん」
「まあ、ありがたいのは分かったけどよ、それと今日のウルカの隠れ家はなにが関係あるんだ?」
そういえばその話だった。馴れ初めの話が衝撃で忘れかけてたよ。
すると母さんがポンと手を打ってから続ける。
「そうそう。で、パパと結婚して子供を産んだら双子で大フィーバー! で、三人目のウルカちゃんを産んだわけだけど、多分ヴァンパイアの……ママの血を濃く受け継いだんだと思う。クリエイトをどこで覚えたのか分からないけど、魔力量と才能があれば自分でやっちゃうことは難しくないわ」
「ヴァンパイア……僕が!?」
「うんうん。その証拠に犬歯が長くなってきたでしょ?」
そういえば最近噛まなくなったのはさらに長くなったからだ。乳歯ならその内抜けると思っていたけどどうやら違うらしい。
「ほら、ママにもあるわ」
「ホントだ! でも短いね」
「成長すると自分でコントロールできるようになるわ。血を吸う時は伸ばすとか。でも――」
そこで母さんが立ち上がり僕を抱っこしてから話を続ける。
「片方しか牙が無いから完全なヴァンパイアじゃなさそう。でも、私の血が繋がったのはとても嬉しいわ」
「そうなんだ……」
同族で結婚しても子供が産まれる確率は割と低いらしい。
理由は寿命が長いからで、生存本能的に子供ができにくいとかなんとか。
「エルフとかドワーフみたいな長命種は結構そういうのが多いのよね。ウルカちゃんはヴァンパイアハーフって感じだけど」
「不老不死とかじゃないんだ?」
「お、よく知っているなウルカ」
ギルバード兄ちゃんがそういい、母さんが頭を撫でて笑いヴァンパイアについて教えてくれる。
「不老不死じゃないのよ。ちょっと人間より四百年くらい先を生きるかもしれないけど年も取るし死ぬわ。ウルカちゃんはどれくらいか未知数だけどね」
「あー……」
寿命はあるらしい。
さらにヴァンパイアハーフというものなので寿命などの詳細は不明。少なくとも父さんと兄ちゃんズよりは長生きできそうだけど、母さんよりは早く亡くなるかも?
ちなみに母さんは現時点で二百年くらい生きているとか。
ここで思ったのが――
なんて中途半端……! ということである。
吸血鬼はリッチっぽいところがあり、身体能力は高いし魔力も相当上がる。けど死ぬ。戦っても死ぬし寿命でも死ぬ。
誕生日の時も思ったけどユキさん色々間違えたな……。
いわゆる不死の王である『リッチ』とお金持ちである『リッチ』が混ざった上に中途半端な状態でどちらかが上書きされているんじゃないかなと思う。
ヴァンパイアハーフだし商家だけど大金持ちってわけじゃないのがその推測を後押しする理由だ。
でもまあ――
「なんかカッコいいしいいかも!」
「さすがウチの子!」
「えー、なんかいいなあウルカ」
ロイド兄ちゃんが僕のほっぺたを突きながら羨ましそうに口をつくと、父さんが腕組みをして笑いながら言う。
「まあそういうことでお前達のママは最強種の一角でもあるヴァンパイアなのだ。パパの血が濃くても兄ちゃん達にも血は入っているからな。色濃く出たのがウルカだったってだけで」
「確かに……そういやロイドは腕力が強いよな」
「だな。鍛えているからかと思ったけど母ちゃんの血もあるのかもしれねえな」
特に劣等感が芽生えると言うこともなくウチの兄ちゃん達はあっさりしたものだった。『俺もそうだったらいいなー』程度で済むのは割と毎日の生活が充実しているからだろう。
まあちょっと中途半端だけどこれなら死ぬ確率がぐんと下がるし、クリエイトの魔法は面白いからのんびり暮らしていけそうだ。
「ウルカちゃんの子供もそうだったら嬉しいわねえ。目指せヴァンパイア復活!」
「どこかに仲間はいるんじゃなかったっけ!?」
「その役目はぜひわたくしめに」
「バスレさん!?」
と、いうわけでどうやら僕はヴァンパイアハーフになってしまったらしい。
特にペナルティも無いならいいか。
そこで母さんが僕を降ろし、部屋に入る時に持ってきた箱を手にして目線を合わせてくる。
「これはママの両親からもらったものよ。代々受け継がれていくマジックアイテムで、中の水晶に手を触れるとあなた特有の【スキル】が手に入るわ」
「スキル……」
「そう。私なら『ブラッディフリーズ』というやつね。まさか使える日がくるなんて……」
物騒そうなのでスキルの中身は聞かない方が良さそうだ。
恐る恐る箱を開けると確かに水晶が入っていた。それに手を触れると――
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