第二十話 衝撃の事実というもの
ギリアムさんが尋ねてきた翌日の次の日の次の日、僕は家の誰かに秘密基地を案内しようかとソワソワしていた。
「……」
「隣のクラスに居るザックってヤツが突っかかってくるんだよ、田舎貴族の癖にってよ」
「なら都会の学校に行けばいいのにな」
兄ちゃんズは休み……だけどギルバード兄ちゃんは用事で町へ行くらしい。ならここはやっぱりロイド兄ちゃんが有力か?
「ふむ……」
「……」
バスレさんに目を向けると表情を変えずにサムズアップをしてきた。そういえばギリアムさんが両親に相談したらいいみたいなことを言っていたし、母さんにも見せようかな?
「よーし! 今日は休みだしウルカと遊ぼうかな!」
「うん!」
ロイド兄ちゃんが僕を抱っこしながら笑い、好都合だと頷いていると父さんが近づいてきて口を開く。
「フッフッフ……今日はパパもお休みなのだ! ギルバードは残念だったが、今日は私とも遊べるぞウルカ!」
「やった! 母さん、母さんはどう?」
「ふふ、どうしたのウルカちゃん? 張り切っているわね。お兄ちゃんと遊べるのが嬉しいの?」
「ううん、ちょっとみんなに来て欲しいところがあったから案内したくって! いい?」
僕がコテンと首を傾げて尋ねると、母さんがロイド兄ちゃんから僕を奪い頬ずりをしてくる。
「ウルカがどこかへ、面白そうだな! 行こうぜ親父、母ちゃん」
「そうだな。いやあ全然遊んでやれなくてすまないなウルカよ。ロイド達も寂しい思いをさせていた」
「はは、親父が忙しいのは分かってたからな。まあ俺にはギル兄がいたからそうでもなかったけどウルカは一人だから気にしてはいたんだよな」
「僕はバスレさんや母さんが遊んでくれたし寂しくなかったよ」
前の世界で一人には慣れているしね。
そんなことを胸中で呟きながら母さんへ出かけるように伝え、準備をしてから外へ。
「ハリヤーも散歩に行くとのことです」
「そういえばこの前ハリヤーだけで池に来てたけど放してたの?」
「日向ぼっこをさせていたのですが気づいたらウルカ様のところへ」
「ふーん」
あくびをするのんびりした顔のハリヤー。僕を心配していたのだろうか? なんか賢そうだしなあこいつ。
そして全員が揃ったところで遠くない散歩へと向かう僕達。
「とうちゃーく」
「池か。蛇に襲われたって聞いたときは肝が冷えたぜ。俺の剣で倒してやりたかった」
「……もう脅威は無いから安心していい。それでウルカよ、ここでいいのかい?」
「うん! こっちへ来て」
「大木?」
例の秘密基地へ続く木の根元の入り口にある隠し扉をどけてから階段へ足を踏み入れてから四人へ振り返り手招きで呼ぶ。
「これは……」
「地下、かな」
「……」
そのまま奥まで進み、内扉を開けてから先に中へ入ってから大げさに手を広げて口を開く。
「ようこそ僕の秘密基地へ!」
「なんだここ!? 基地……だと?」
「地下にこんな場所が……ベッドにテーブルセット。だがあんな椅子は見たことがないぞ?」
「ウルカちゃん、ここは一体なにかしら?」
困惑する父さんとロイド兄ちゃんの横に立って周囲を見渡していた母さんが僕に尋ねてくる。なので母さんのところへ行ってからここまでの経緯を話す。
「クリエイトだと!?」
「す、すげえぞウルカ! この地下室を一人で作ったってのか? 魔法で!」
「そうだよロイド兄ちゃん。秘密基地なんだけど、頑張ったから見て欲しくて」
「流石オレの弟だ!」
「う、むう……これは凄い……こんな椅子も見たことないぞ」
「あなた、これは間違いありませんわね」
「ん?」
歓喜と複雑が混じった難しい表情で僕を抱き上げる母さんがなにかを得たというようなことを父さんに言う。
「そうだな。めでたいことだが……うーむむ……」
「あれ? なんかまずかった、かな?」
「ううん。そうじゃないのよウルカちゃん。干し草を布袋に入れたベッド、いいじゃない」
「力作です」
手伝ってくれたバスレさんが得意げに鼻を鳴らし、僕達は苦笑する。そんなに広くないもののただの土壁で終わらせていないところが評価された。
「親父、母さん、こっちにゃトイレもあるぜ!?」
「凄いわね……ちょっとママ、ドキドキしてるわ」
「大丈夫……?」
「この椅子、色がいいですね。座ってもよろしいでしょうか?」
「あ!? それはダメ――」
と、止める間もなくゼオラが腰かけているゲーミングチェアにバスレさんが座り、僕からはゼオラの足に乗っかったように見える。
【チッ……】
瞬間、ゼオラの顔が凄いことになり舌打ちをする。何度も。
まあ、見えないのだから仕方ないだろうとジェスチャーで示唆すると、
【腹立つな。ごにょごにょ……】
「なんか悪寒がしますね!?」
あんまり悪さするなよと思いつつ、抱っこされながら一通り秘密基地を見た後、僕達は再び外へ。
するとがっくりと項垂れているハリヤーと遭遇。
「あれ? ハリヤー、どうしたんだい?」
「あれだ、一緒に入れなかったから拗ねてるんだろ」
「ああ、そういうことか。ごめんよ。でもお前が入れるくらいの入り口にしたら秘密でもなんでもなくなっちゃうからさ」
するとハリヤーは入り口横に鼻をすりつけながら『ここに別荘を作ってください』と言った感じで鳴いていた。うん、目立つ。
一応、検討すると伝えたら満足したのか馬車を引いてくれた。そこで思い出したことを伝えることにする。
「そうそう、あの池まで道を繋げているみたいだけど、僕の秘密基地が見つかるのは嫌かなあ。途中までとかにならない?」
「そうしよう」
「……というわけにもいかないのよパパ。あの池についても後で話すわ。池が、ってわけじゃないんだけども」
「ふうん?」
「まあ、でもあれはいいなあ。オレも一つ学校に欲しいぜ、夜通し訓練ができるし」
そこまでする必要があるのだろうか……。ロイド兄ちゃんの将来がちょっと心配になりつつ屋敷へ戻り、昼ごはんの時に戻って来たギルバード兄ちゃんと共に家族は応接室へ集められた。
「なんだ? いったい何が……」
「それがよギル兄、ウルカがヤバいんだ」
「どういうことだ? 具合でも悪いのか!?」
「違うよギルバード兄ちゃん。だったらここには居ないよ」
取り乱しそうになった上の兄を宥めていると、母さんが箱のようなものを持ってきて僕達の前に着席。父さんと並ぶ形だ。
そして――
「うむ、揃ったな。では家族会議を始める」
「お兄ちゃん達も知らないことを今から話すわね」
「俺達も知らないこと? そんなのがあるのかい?」
「だなあ。まあ、教えてくれるみたいだからいいけど、どうして話す気になったのかが気になるな」
兄ちゃんズも知らないことなのか。
いったいどういう話なのかと僕は特になにも言わず待っていると、母さんが口を開く。
「実は私は人間じゃなくてね、ヴァンパイアなのよ♪」
「「「は?」」」
さすがにその話は斜め上過ぎて三兄弟は間抜けな声を上げた。
「冗談……だよね? 父さんも?」
「いや、私は人間だよウルカ。これには深い訳があるのだ」
意味深なことを言い出す父さんだが、どうやら本気らしい。
僕達三人は顔を見合わせた後、両親の話の続きを待つことになった。
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