第二十六話 職人さんの工房というようなもの


 ゲーミングチェアを見たいという人に会うため、町へ行くことになった僕。ついでにお昼も向こうで食べることになり、屋敷へ一度戻ることに。


 【あの椅子、いいもんなあ】

 「お気に入りだよね」

 「ウルカはここで待っていてくれ、ママを呼んでくる。バスレかウオルターが出られるといいんだけど」


 そう言いながら父さんが屋敷に入っていく。今日はバスレさん掃除があるからって池まで一緒に来なかったしウオルターさんかな?

 

 【町かあ……酒が飲みたいなあ。早く大きくなれよウルカ】

 「悪寒が……!? まとわりつくのやめろって。お酒って美味しいの?」

 【ああ、こう、気分が良くなって嫌なことがスーッと頭から抜けていくんだ。あの感覚はたまらないね】


 一時期、やばいことで話題になった系の飲み物みたいなことを言いだすゼオラ。過去に何が……そんなことを考えているとウオルターさんが馬車に乗ってやってきた。


 「お待たせしましたウルカ様」

 「父さん達はまだだから大丈夫だよ。ハリヤーも元気?」


 僕が首を撫でると『おかげさまで』という感じで小さく鳴いた。そこで首を僕の足元まで下げるハリヤー。


 「どうしたの? っていつの間に!?」

 「こけ」

 「にゃーん」


 ジェニファーと猫が足元に居て、ハリヤーが匂いを嗅いでいた。

 どうやら町へ行きたいようでついてきたらしい。


 「お前は家があるんだからフォルドのところへ帰りなよ」

 「……」

 「そっぽを向くな!? そういえば町に行く機会が無かったからあの二人にも会ってないなあ」


 さらに言えばギルドマスターの娘であるステラにも。折角だし会ってみたいというのは我儘かな? 


 【女の子に会いたいウルカであった】

 

 勝手に人の心を当ててくるゼオラはスルーし、ウオルターさんの手を借りて一羽と一匹と共に馬車へ乗り込んだ。

 ……今のうちに仲良くなっておけばというのはあるけど、まだ五歳だしなあ。

 

 そうこうしていると両親がやってきて町へと足を運ぶ。


 「あの隠れ家で見た椅子を作るの?」

 「ああ。私の見立てではかなり需要があると思うんだ。座り心地だけでも違ったしね」

 「ウルカちゃんは天才だものねえ」


 それは褒めすぎだと思いながら父さんへゲーミングチェアについて少し補足の説明をすることにした。


 「僕の構想としてはもっと快適に出来ると思うんだ。部分的に金属を使うことも考えているし足に車輪をつけたい。背もたれはクッションを入れて革のシートがあるといいかなって」

 「え、あれよりよくなるのかい?」

 「うん。金属とかがあればクリエイトで思ったやつを作るけど」

 「頼む」

 「う、うん」


 父さんが真剣な顔で僕の肩に手を置いてガン見してきたので圧倒された。売るからには完璧なものにしたいからね。


 【あれで未完成とはな。異世界の技術凄い。あたしのもそうしてくれるんだろ?】

 「材料があればね」


 さすがにクリエイトといえどゼロから生み出すことはできないので小声でそう呟いておく。やがて町に入り相変わらず歓迎ムードの中、ジェニファーと猫が外に出たいと扉を叩き始めた。


 「ウオルターさん、止めてもらっていいですか? 降りたいみたいです」

 「かしこまりました」

 「気を付けて帰れよ」


 扉を開けると一声鳴いてからジェニファー達が通りへ消えた。

 猫はどうか分からないけどジェニファーは小屋に入れられて戻って来ない未来が見える。

 あ、ちなみに猫に名前が無いのはアニーが来た時に聞こうと思っていたからだ。


 さらに進むこと五分。

 大通りの横道に曲がったところで煙突のある家や二階建ての大きな家が目に入る。


 「この辺はちょっと違う感じがする」

 「ここは職人さんの工房が集まっているところだからね。職人さん同士で部品の発注なんかをするからこういう形態にしているんだよ」

 「へえ、父さんが考えたの?」

 「そうだよ。この町は最初訪れた時は村だったんだけど、私が冒険者や職人を誘致してここまで大きくなったんだ」

 「割と田舎だよねここって? 商家をやっているなら都会の方がいいんじゃ……」

 「そこは私のせいだからごめんねウルカちゃん」


 そう言いながら困った顔で僕の頭を撫でる母さん。ヴァンパイアというあたりでなにか苦労というか田舎の貴族として暮らしている理由があるのかもと考えた。

 で、色々な職人さんが工房を構えている中、僕達は家具の職人さんのところへとやってきた。


 「こんにちは、ザトゥさん」

 「お? ロドリオ様か? 工房に来るとは珍しいですな」

 「こんにちはー」

 「ごきげんよう」

 「おや、奥様に……息子さんですか? こんなに小さかったですかね」

 「いやいや、前に連れてきた子はもう十五になるよ。末っ子が産まれたんだよ」


 父さんが照れくさそうに頭を掻いて説明し、僕は一歩前に出てお辞儀をするとザトゥさんは笑いかけてくれた。


 「それでご用件は? 家具の注文が入ったかな?」

 「近いが少し違う。丸太でいいか?」

 「うん。……これくらいあれば」

 「丸太が欲しいんですかい?」


 だいたいの分量を目算で考えて隅にある丸太を指さして頷くと父さんは満足気に口を開く。


 「すまないけど少し丸太をいただくよ。ウルカ、例の物を作ってくれ。その間に鍛冶屋に声をかけてくる」

 「はーい」

 「ウルカちゃん頑張って!」

 「なんだいなんだい?


 首を傾げているザトゥさんの気持ちはわかり、さらにこの後、彼のリアクションまでは想像できる。


 「ふう……<クリエイト>!」


 僕はゲーミングチェアをイメージし丸太に魔力を吹き込んで構築していく。

 すぐに丸太はどんどんイメージ通りの物へと変化し、とりあえず色なしの椅子が完成。


 「これでいいかな? 後は父さんが戻ってから説明になると思うけど」

 「お、おお……。なんだ今のは? ま、魔法? 見たことがない……」

 「あんまり使える人がいない魔法だから仕方ないわ。一人で職人さんが出来るから凄いわよね」

 「いや、俺達の意味が……」

 「ある!」

 「あ、父さん」


 あんぐりと口を開けて呆れていたザトゥさんを遮るように、父さんが工房へ帰ってきた。

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