第十七話 やればいいってものじゃないというもの


 というわけで再び秘密基地製作を進めていく僕。

 10畳くらいの部屋を想像していたけどやっぱりまだ簡単には行かないのでまずは4畳半を目途に掘り進めていくことにした。

 まずは完成経験をするところを味わってからだ。


 【むにゃむにゃ……】

 「……このゆるゆる幽霊が目を覚ました時に驚かせてやりたい」

 

 実は憑依してくれるともうちょっと楽になるんだけど、そこは師匠としてダメなんだそうだ。自分でやった方が地力がつくというのは同感なのでそこは頼らない。


 「ここらで曲がろうかな」


 ただひたすらに掘り進めていく。話し相手は眠っているし、少々寂しいものがあるけど作業は捗った。

 一周して枠ができた時点でお昼となり、僕はゼオラに声をかける。


 「ゼオラ、お昼だから戻るよ」

 【ん、んあ……】

 「もう、だらしないなあ」


 美人が台無しだと苦笑していると僕の背中についてくる。重さは無いけどおんぶしているみたいだなと思いながらお昼を食べに屋敷へ。


 「今日はサンドウィッチとコーンスープ、それと目玉焼きですがよろしかったですか?」

 「もちろん! すぐ食べられるしいいよね。母さんはお仕事まだ終わらないの?」

 「そうねえ、この後は納品だから町に行ってくるわ。バ――」

 「ウオルターさん、お願いします」

 「はは、いいですか奥様」

 

 ひょいっと前に出されたウオルターさんが笑いながら母さんに尋ねると、


 「うーん、まあバスレでもいいか」

 

 そう返していた。

 母さんに見てもらいたかったけど、完成してからの方がインパクトは強いかな?

 というわけで昼からはバスレさんが一緒に池へ行くことに。

 

 【お、メイドが来るのか】

 「だね。まあ誰かさんが寝てたりするから話し相手になって欲しいし」

 【言うなよ、あたしだって眠くなるんだよ】

 「幽霊なのに……」


 原理はよくわからないが眠くなるのは本当のようだ。昼間だから弱るとかではなく本当に生きているみたいだ。たまに夕食時に憑りついてきて食事の味を堪能するようなこともしている。

 他の家族にはやはり見えていないのでそこは安心かな。


 「そういえばバスレさんって魔法は使えるの?」

 「恥ずかしながら少ししか使えませんね」


 そんな調子で僕はバスレさんと手を繋いで池のほとりまで歩いていた。家族でも戦闘色が強いのはロイド兄ちゃんと母さんだけだから好奇心で聞いてみるとバスレさんは使えるとのこと。


 「あ、でも使えるんだ。見てみたいかも」

 「機会があれば、というところですねえ。採用時に魔法が使えるかは判断基準でしたし。ウルカ様はどうですか?」

 「ふっふっふ、まあまあいけるようになったよ。後で見せてあげる」

 「まあ、それは楽しみですね」


 程なくしてまたあの池へ到着すると、僕は早速バスレさんを秘密基地へ案内する。


 「これがウオルターさんの言っていた……」

 「え?」

 「いえ。ここでなにをしているのです?」

 「まあまあ、ついてきてよ」


 メイド服が汚れない程度には広げているので、土の階段を下りて地下へと案内し、前に一歩出てから胸を張って紹介する。


 「じゃーん! 僕の秘密基地だよ!」

 「え? こ、これは……!」

 

 いつも冷静なバスレさんも流石に驚いた様子で口に手を当てて目を見開いていた。


 「ここは一体……」

 「僕が魔法で作ったんだ。どう?」

 「魔法で? どういう魔法を使ったのです?」


 よし、思っていた質問を投げかけてくれて僕はにやりと笑う。


 「こんな感じでやるんだよ。<クリエイト>」

 「は?」


 さらに僕は中央部分の残った土を天井部から足元までガリガリと削っていき少し進めていき、バスレさんの反応を見るため振り返る。


 「どうバスレさん、凄いでしょ?」

 「あわわわわわわ……」

 「バスレさん!?」


 振り返ると両手を前に出してガクガクと震えながら焦るバスレさんに僕が驚いてしまった。


 「どうしたのさ、いつものバスレさんらしくないよ? うわ!?」

 「ふう、おつちきました」

 「落ち着きました、だよね。言いにくくない? ……でもそんなに驚くことなの?」


 僕を抱きしめて一息つくと、バスレさんは眼鏡を直しながら口を開く。


 「<クリエイト>の魔法は高難易度魔法で、使えるものはあまり……いや、今だと指折り数えるくらいじゃないかと」


 というバスレさんが説明をしてくれたが結構昔の魔法で伝承されていないのだそうだ。お城とかの攻防戦なんかで強いから居ると心強いらしい。


 「私の知るところ賢者と呼ばれた人が指先一つで山を削ったなんて噂もあるくらいですから、その魔法はかなり……いえ、どうやって覚えたんですか?」

 

 まさかそんな凄い魔法とは思わなかった……物語とかでもちょちょいっとやってるから異世界ならいけるでしょ! と信じて疑わなかった。先入観というのは怖い。

 さて、それはともかくどう誤魔化すべきか? 


 そう思っていると――


 「しかしこうも早くクラウディア様の血が出るとは思いませんでしたねえ」

 「母さん?」

 「いえ、なんでも。それにしても最初はちびりそうでしたがこれはワクワクしますね」

 「立ち直り早いね。こう危なかったりしない?」

 「知らないだけで使えないということはないそうですから。いいんじゃないですか? クラウディア様の子供ですし」

 

 また母さんかあ。

 実はすごい魔法使いだったりするのかな? 魔力が上がりやすい体質で幽霊が視えるとか主人公っぽいじゃないか。


 「とりあえず……」

 「ん?」

 「ここが完成するまで皆様には伝えないようにしましょう……! 完璧にして驚かせるのです!」

 「オッケー!」


 そこはノリのいいバスレさんだった。

 よし、張り切るとしよう……!!


 【賢者……指先一つで……ダウン……う、頭が】


 ゼオラが隅でなんかぶつぶつ言ってたけどなんだろ?

 それはともかく続きと行こう!!

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