第十六話 家のみんなは僕が好きというようなもの


 「さて、今日は部屋を作れるといいな!」

 【おー、張り切ってるねえ】

 

 今日は泥だらけになってもいい服を用意してもらい、準備を整えているところだ。

 そこへ学校へ行く兄ちゃんズ達と玄関で鉢合わせた。


 「お、どこ行くんだウルカ?」

 「いつもの池だよ。あそこは静かだから本を読むには最適なんだ」

 「部屋でいいんじゃないか?」

 「家だとバスレさんとか母さんがすぐ構ってくるから」


 僕はバスレさんを見ながら小声で二人に言うと苦笑しながらなるほどなと言って頷いてくれる。

 後は見送るだけだと一歩下がったところでロイド兄ちゃんがポンと手を打って一旦部屋に戻ると手になにかを持って来た。

 

 「一応、魔物の気配は無さそうだけど念のためこういうのでも持っておけ。魔法が使えるっつってもまだ初級レベルだろ?」

 「ま、まあね。あ、木刀……じゃなかった木剣だ。いいの? これ大事なやつなんじゃ?」

 「とりあえずってやつだ! 今度新しいウルカ用のやつを買ってやるから」


 使い込まれた木剣を僕に手渡しながら鼻の下を指で擦るロイド兄ちゃんは満足気だ。


 「その内、剣術も教えたいなあ」

 「まだやめておけよ? 母さんに怒られるぞ」

 「わかってるって! んじゃ行こうぜ兄貴」

 「ああ。行ってくるぞウルカ。……これをやろう」

 「ありがとう、ギルバード兄ちゃん!」

 「……行くぞロイド」


 ロイド兄ちゃんが木剣を僕に渡したから自分もなにかとカバンを探った結果、羽ペンをくれた。これも割と使い込んでいるけど大事にしている感があって味がある。


 外に出た瞬間、「愛想よくしろよ」とかからかっている声が聞こえ、ロイド兄ちゃんが頭をはたかれていたのを見て苦笑する。


 「ウルカ様、今日も池へ?」

 「うん。バスレさんは学校まで二人を送るんだよね、行ってらっしゃい」

 「ああ、可愛い抱きしめたい」

 「なんて!?」

 「おっと、急ぎませんと。では後ほど」

 「気を付けてね」


 ハンカチを振りながらハリヤーのところへ向かうバスレさんを見送ってから僕も行くかと拳を握ったところで慌ただしく駆けてくる姿があった。


 「ウルカァァァァァ! パパにも行ってらっしゃいを言ってくれよぉぉぉ!!」

 「父さん行ってらっしゃい!」

 「頑張ってくるよ! って、早いな!? もうちょっと話をしよう?」

 「時間大丈夫?」


 そういえば最近、父さんのでば……話すことがあまり無かったし久しぶりに抱っこされた気がする。


 「うむ、なんの問題もない。最近、一人で遊ばせてしまってすまないな。母さんも家でやることがあってなあ」

 「ううん、魔法の本を読んでいたりしているから退屈はしていないよ。あの池に向かって道を作っているんだよね」

 「そうそう。あそこも巡回経路にするつもりだからもっと安全になるよ」

 

 そういって笑いながら僕の頭を撫でてくれる父さん。なるほど、母さんもこの件に関わっているから忙しいんだなとピーンと来た。

 もしかしたら魔物が出ないのは工事で周囲を人間が居るからかもしれない。だから母さんも迎えに来る日が少ない、そんな気がする。


 「旦那様、行きますよ」

 「親父、行くぞー」

 「む、もう終わりか……とほほ……お休みの日はみんなでゆっくり過ごそうな」

 「うん! 楽しみにしているよ」


 父さんが僕を降ろしてから帽子をかぶって片手を上げて馬車へ。

 丘を下るあたりまで見送ってから僕は腰に木剣を挿す。


 【行くか】

 「母さんにも声をかけておくよ。母さんー僕も行ってくるよー」


 すると『気を付けてね、お昼には帰ってきなさい』と声があった。いつもなら出てくるところだと思うんだけどかなり忙しいらしい。


 それはそれとして僕は早速あの池へと足を運び、道中で水を出したりして今日のコンディションを確かめておく。

 魔力を使い続けていると増えるというのは本当で、朝、起きた時に「あ、増えた」ってなるんだよね。感覚だけど。


 「さて、それじゃ今日は夢のワンルームだ!」

 【ふあ……あたしはもうちょっと寝させてもらうよ】


 幽霊なのに寝るのか……。

 張り合いの無いゼオラはおいといて僕は隠している木の穴へと向かった。


 ◆ ◇ ◆


 「ウルカ様は出発されましたな」

 「ええ、悪いけど今日もお願いねウオルター」

 「お任せください。それにしてもウルカ様の胆力は凄いですな。あの古代種に襲われて生き残っただけでも凄いのに、恐れもせず行くとは」


 家の執事ウオルターが私に頭を下げながらそう口にする。

 確かに彼の言う通りウルカはあまり怖がらないのよね。お兄ちゃん達でも昔、魔物と遭遇した時は抱き着いてきたのにね。

 将来大物になるとはクライトの言葉だけど、私もそれは感じているなんせ私とパパの息子だからね!


 「遠目から護衛をしていますが、なにやら木の根元を掘って穴を開けていましたね」

 「虫取りかしら? 私は仕事をしているからなにかあったら教えてね」

 「はっ」


 返事をしてウオルターが部屋から出ていくと私だけが残される。本当はウルカと一緒に行きたいのだけど、ひとりで大丈夫と言うし仕事もあるのでここは任せましょう。


 「さて、お仕事をしないとね」


 お金持ちでもないけど貧しいわけでもない我が家。

 パパの商いの手伝いとして私はアクセサリーを作ってお店に出している。目利きができるので珍しい石などを加工してブレスレットなどにするの。


 「……これは防御強化の魔法でいいかしら」


 これが終わったらお昼ご飯の用意をバスレとやろうかしらね。

 意外と忙しいのよねえ。ウオルター、頼むわよ?

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