第十八話 着々と進むというもの


 というわけでクリエイトの魔法を覚えてから半月が経過した。

 あ、一応この世界は一か月を三十日としていて、三十一日とか二十八日みたいな変則的な日数は無いんだ。

 地域差があるそうだけど、概ね春・夏・秋・冬といった気候周期なので過ごしやすいのも特徴だったりする。

 耳慣れた言葉は春だけど、異世界の言葉だと暖月、夏なら灼月となっている。間違えて春だと口にしたことがあるけど両親たちは気にした風もなかったのでもしかしたら自動翻訳してくれているのかもしれない。


 さて、それはそうと僕の秘密基地の製作は順調で、バスレさんの協力もあってなかなかいい感じに仕上がってきた。

 半月で部屋っぽい感じになり、むき出しの土壁はイメージでレンガ調の形にして見た目にも反映。小物置きや土で作った簡易ベッドのことなど女性らしい意見を取り入れていい感じになった。

 

 ということで次にやることは家具の設置だろうと今日は外で木の選別をしているところである。バスレさんはおらず、今日は一人だけだ。


 「この辺の木を使ってテーブルとイスを作ってみようかな」

 【あたしがゆっくりできるから頼むぞウルカ】

 「幽霊が疲れるってのがよくわからないんだけどね?」


 まあゼオラが変な幽霊なのは今さらなので気にせず椅子作るため木に手を当てて魔法を使う。


 「この木なら二つくらい作れそうだな」

 【質量は変わらないからきちんと薪とかにしておけよ?】

 「あ、うん」


 イメージからゲーミングチェアみたいな椅子を作成し、それが二つ並ぶ。

 もちろん角度調節もできるし、高さ調整も可能で屋敷にあるものより座りやすい。

 仕組みはネットなどで見たことがあるのでそれをイメージした感じだね。

 クッションを差し込めば倒してねることもできるから悪くないと思う。


 【お! こりゃいいな! あたしのやつはピンク色にしてくれよ】

 「ゼオラなら蒼とかの方が似合いそうだけど。髪の毛もそうだし――」

 【ピンクだ】

 「わ、わかったよ」


 顔をずいっと近づけて真顔で注文をつけてくるので、僕は色をつけてやるとなんか喜んでいた。

 自分の分はシンプルに黒とシルバーにして、いざ秘密基地へ運び込む!


 「……ふむ」

 【わー、角度がつけられるぞー。こりゃいいな!】


 ゼオラが楽しそうに角度をつけて寝たり起きたりを繰り返しているのを尻目に(なんで触れるんだろう)僕はその完成度に満足がいっていなかった。


 【うほほー……ってどうしたんだウルカ? 難しい顔をして】

 「いや、よく考えたらこの椅子って置いたら動けないなって。やっぱりキャスターだけは上手くいかない……というか金属が必要みたいだ」

 【きゃすたぁ?】

 「タイヤのこと、でいいのかな? 馬車の車輪みたいなやつだよ」


 僕の説明で『これにはつかないだろう』と笑うゼオラ。賢者ならもう少し考えればいいのに……。


 とりあえず椅子はまた課題だと思い、テーブルも作ろうとまた外へ出て作成に戻る。ゼオラはまだ椅子を愛でているので放っておいた。


 「どういうのがいいかなあ。さすがにゲーミングデスクは一人用だから……いや、秘密基地なんだから一人用でいいのか」


 なぜ来客があることを前提にしていたのか。

 いや、秘密基地なんだけど兄ちゃんズとかバスレさん、両親には見せたいので来客用のテーブルもあった方がいい気はするけど……


 「ま、とりあえず自分のテーブルかな。丸い感じので一つ作ってみよう」


 クリエイトでさっと丸テーブルを作っていると満足したゼオラが秘密基地から出てきて口を開く。


 【ふう、あれはいいものだ……。お、やってるな。って、大丈夫か?】

 「魔力なら余裕だよ?」

 【そうじゃなくて……まあ、運んでみるといい】


 ゼオラが苦笑しながらそう言い、重いからかなと思うけど実は軽くイメージしているのでそうでもない。

 僕は完成した丸テーブルを持ち上げて秘密基地へ歩いていくと――


 「あ、あれ?」

 【ぷっ! くっくっく……】

 「よっと……。ダメか!?」


 木の根元にある入り口よりもテーブルの口径が大きく、引っかかってしまった……。ゼオラは一目見てそれに気づいたから笑っていたようだ。


 「もっと早く教えてくれれば良かったのに……」

 【ぶははは! まあいいじゃないか、それも経験だ。元の世界の知識だけではなんともならん。だけど楽しいだろう】

 「ま、そうだね! それじゃ一旦、木材に戻して中で加工しようか」


 そんな調子で木材を持って中へ入りまた丸テーブルを作成すると、ついに部屋としての様相になり僕とゼオラは椅子に座って落ち着くことに。


 「ふう、ここで休むことができるようになった。一人になりたいときはいいかもしれないね」

 【あたしが居るけどな】

 「そこは気を使ってもらうとして、この後はどうしようかなあ。本棚とか?」

 

 僕がそう言うとゼオラが少し考えた後、とんでもないことを言いだした。


 【あたしの目が気になるならもう一部屋作っておくれよ。そしたらこの椅子を持ってそっちで過ごすよ】

 「アホか!? 賢者なのにアホか! この部屋を作るのにこれだけかかっているんだよ? はいオッケーとはいかないって。あと椅子に固執しすぎ」

 【これはもうあたしのだ】

 「気持ち悪い!?」


 椅子と一体化するようにぬるりと埋まりゼオラが抗議の声を上げた。

 その内にならいいけど、まずはこの部屋を豪華にしたいんだよね。


 そこで入り口から馬の鳴き声が聞こえてきた。


 「あれ? 今のってハリヤー? う……」

 【どうした?】

 「いや、お腹が急に……あ、ああ……ト、トイレ!」


 慌てて外に出ると中に入りたそうにしているハリヤーと遭遇。僕の様子をみた彼はすぐにしゃがんで乗りやすいようにしてくれた。


 「お、お願い……」

 

 僕の言葉に『急ぎますよ』といった感じで鳴くと、ぽっくりぽっくり軽やかに走り出した。そんなに遠くないけど徒歩よりは確実に早くつく。


 【くっく、次に作るものが決まって良かったじゃないか】

 「そ、そうだね……」


 今日のところはこれで撤退となり、トイレの構想は……想像すると漏れそうなので後にしようと思うのだった。

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