第十二話 同年代というようなもの


 「あら、可愛い娘さんねえ。……リンダそっくりだけど」

 「いやいや、顔はそうなんですけど性格は俺なんですよー」


 リンダさんという人となにかあったのだろうか? 母さんは笑顔だけど棘がある言い方をするなあ。

 すると抱っこされていた女の子が僕に目を向けて口を開く。


 「パパ、あの子と遊べばいい?」

 「そうしてくれるかいステラ? クラウディアさんいいですかね?」

 「もちろんよ! バスレ、二人の面倒を見ててもらえる?」

 「合点承知であります」

 

 珍しく承諾した。

 いつもなら一緒に置いておくって言いそうなのに目を離すとは。

 背後で『まさかリンダはママ呼び……?』みたいな会話をしている母さんを尻目に僕はバスレさんと一緒に隣の部屋へと移動する。


 【あたしが代わりに話を聞いといてやるよ】

 「あ、お願い。興味あるかも」


 ゼオラがウインクしながら僕の背中から離脱して扉をすり抜けて戻っていく。まあ仕事の話だろうけど。


 そんな感じで隣の部屋に行くと――


 「わ、凄い。おもちゃとかぬいぐるみでいっぱいだ」

 「ここはこの子の部屋なんですかね」


 するとステラちゃんが僕達の前に立ち、腕組みをしながらフッと笑いながら言う。


 「そう、ここはわたしの部屋。昼間はママもお仕事で家に居ないからパパが面倒を見るために用意してくれたの。もう五年は使っているわ」

 「そりゃ五歳なんだからそうだと思うけど。お母さんはなにをしているんだい?」


 表情……というか目に感情はないんだけど、口元と喋り方で明るい子というのが分かり、僕は苦笑しながら話を続ける。


 「ママは冒険者なの。だから昼間は外に出ていることが多いし、必然的にパパが面倒を見るしかない」

 「へえ、冒険者! かっこいいお母さんだね」

 「……! そう、カッコいいのよママは! えっとウルカ様、だっけ?」

 「うわ!? はは、ウルカでいいよ」

 「ならわたしもステラでいい。ウルカ君もカッコいい」


 なにかスイッチが入ったのか僕のところに来て手を取ると嬉しそうにそんなことを言う。目は相変わらずだけど。


 「む」

 「え?」

 

 するとバスレさんが僕達の繋いでいる手を放して間に割って入った。


 「な、なによ」

 「ウルカ様は私のなのでそういうのはちょっと」

 「いきなりなにを言い出すんだよ!?」

 「え? 三歳のころ私を嫁にしてくださると言っていたのに……」

 「言ってないよ!」


 物心つく前に言ったみたいなことを口にするけどずっと意識のある僕にそれは通用しない。第三者、しかも子供に植え付けようとするとは恐ろしい人だ。


 「だよね。ウルカ君がこんなおばさんと結婚するわけない」

 「な!?」

 「ほう……」


 ステラがまずいものを落とした。

 おばさんと言うがバスレさんはまだ十四歳なのでそこまで離れているわけじゃない。

 まあ、物腰とかは落ち着いているから上に見られることはありそうだけど。

 

 それはともかく――


 「小娘が言いますね? ウルカ様とあなたは身分が違い過ぎますから惚れても無駄」

 「あんただってそうじゃない」

 「甘いですね、私はガイアス家のメイド……いつも一緒に居るというアドバンテージ。いつか優しいお姉さんから初恋の人へと変わるのです」

 「身分関係なくなってる……! 決めた、わたしウルカ君と結婚する。おばさんには渡さ……」

 「……」


 僕に手を伸ばして来たステラの手を無情にも叩き落とす。


 「大人げない! バスレさんダメだってそういうのは!」

 「しかし、悪い虫がつかないようにと……」

 「それを決めるのは僕だからいいの! ほら、遊ぶよ」

 「ウルカ君……。そうね、おばさんに構っていられない」

 「くっ……!」


 なんという険悪な空気だ……! 早く仕事終わらないかな……!


 ◆ ◇ ◆


 「……なるほど、こういう『モノ』が他にもあると」

 「ええ。ただ厳重な封印がされているため解けるものではないとのことでした」

 「ならどうして古代種が復活したのかしら」

 「現場にはウルカ様が居ましたよね、もしかしてグレイシスクリスタルに触れたのでは?」

 

 ギルドマスターのクライトが真面目な顔でクラウディアへ言うと、彼女は怪訝な顔で手を口に当てて反論をする。


 「解くには相当な魔力量が必要なんでしょ? まだ五歳のウルカには無理なんじゃないかしら」

 「はは、そう言われると返す言葉がありません。ですが『クラウディア様のお子様なら』あり得るんじゃないかと……」

 「上の子は『そうじゃなかった』からそれは無いと思うけど……」


 クラウディアが肩を竦めて笑うとクライトは『わかりませんよ、検査をしてみては』と手をかざしながら言う。


 「そうであってもウルカはウルカだもの。私の可愛い息子、荒事には関わらないように育てます♪」

 「まあ田舎町ですしね、ウチ」

 「そうそう。あれはたまたまよ! でね、ウルカちゃんが――」


 と、不意に親バカスイッチが入ったクラウディアがウルカの話を始めたところで壁に背を預けていたゴースト、ゼオラが片目を開けて胸中で呟く。


 【なるほどねえ……古代の魔物か。通りで重圧があったわけだ。あたしが手助けしなきゃ殺られてたな。それにしても――】

 

 ゼオラはウルカが消えた扉を見て呟く。


 【あたしが視えるようになったあたりから魔力量が常人とは比べ物にならないほどあの子は高くなった。それにこの母親もタダもんじゃない気がするんだよねえ――】


 ま、別にこの先こういうこともないだろうしいいかとあくびをしながらウルカの下へ戻るのだった。

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