第十一話 ギルドというようなもの


 というわけで串焼きを食べた後、僕達は商店街を抜け、住宅地のような場所へ移動するとその中でも大きな家へとやってきた。

 ここが町長さんの家でウチより少し小さいくらい。


 「これはクラウディア様! 本日はどのようなご用件で?」

 「一番下の息子を紹介しにきましたの」

 「え!? そうだっけ!?」

 「ひとつはそうなのよウルカちゃん♪ というわけでウルカティウスちゃんを連れてきました」

 「はは、五歳になったからですか。私はレニードという、この町の長をやっているものだよ」

 

 五歳になるまで外に出さない方針というのは初めて聞いたけど、どうも町長さんの口ぶりだとそうらしい。

 僕は腰を下げてくれた優しそうな男性と握手をしながら自己紹介をする。まだ三十代くらいかな?


 「初めましてウルカティウスです。みんなウルカと呼びますのでそれでお願いします!」

 「よろしくお願いしますウルカ様。元気なお子さんですね」

 「ふふ、あなたも早く相手を見つけないとね」

 「いやあ、勘弁してくださいクラウディア様。それにしても三人男の子は心強いですね」

 「そうなのよ。ウルカちゃんは可愛いしお兄ちゃんたちも良い子だから手がかからないしね」


 母さんが親バカ全開でレニードさんへ嬉々として僕のことを語り出したのでこれはまずいとバスレさんのスカートを引っ張って声をかける。


 「どうしました?」

 「僕のことはそんなに言わなくていいから話の方向を仕事に戻すよう伝えてよ」

 「ふむ。奥様、よろしいでしょうか」

 「でね、誕生日は……どうしたのバスレ?」

 「おふ……」


 話を中断されたことに不満なのか鋭い目をバスレさんへ向け、それを見た僕達は固まる。


 【へえ……】


 なんかゼオラが母さんの顔を見て感嘆の声をあげていた。なんだろうと思っていると、


 「……ウルカ様はツル肌でふっくらしていてとても可愛らしいです」

 「……! そうよ! 分かっているじゃないバスレ、お世話してもらっているものね!」

 「はい」

 「それで――」

 「はは……」


 そこから母さんは2時間ほど僕を褒めちぎり、ようやく仕事の話が始まったのは僕が気を利かせて『退屈だから他に行こう?』と我ながら可愛くお願いした後だった。その間バスレさんはカタカタと震えており、段々冷や汗をかき始めたレニードさんが不憫だった。お役に立てずすみません。


 「それじゃあお願いね」

 「え、ええ……。では次はギルドですか」

 「そうなるわ。パパから資金について話が出るのでおおよそ試算を出しておいてちょうだいね」

 「かしこまりました。ウルカ様、また」

 「はい!」


 話はそれほど難しいわけではなく、例の池……僕が蛇に襲われたあの場所に向かって道を伸ばし、巡回経路の追加とするのだとか。


 【いやはや、本当に親バカというやつなんだな。あの池にはもう脅威はなさそうだけどお前が散歩に行くから予防線か】

 「一応、タケノコや山菜を採りに行けるように整備するって名目もあるけどゼオラの言う通りなんだろうね」


 竹林は池から少し離れているけどどちらにせよ森を進むよりはひらけていた方が歩きやすいのは確かだ。

 ……あの怖い衛兵が居れば全然魔物は寄ってこない気はするけど。


 そんなことを窓の外から顔を出して小声で話していると、元来た道を戻りつつ、途中で別の道へ入り、町の中央付近にある、遠目からでもひときわ大きいとわかる建物へ到着した。


 「ここがギルド?」

 「そうよウルカちゃん。ここに来るのは久しぶりね」

 「そうなんだ」

 

 母さんがギルドに来る用事があまり思い当たらないので久しぶりと言われれば多分そうなんだろうなと深く考えずに手を繋いで中へ。


 【ほおう、ここは変わらないもんだな。あ、酒か、いいなあ】

 

 中に入るとすぐに駄目幽霊、略して駄霊がフラフラと酒盛りをしている人たちの席へ飛んでいく。


 物語でよくある感じかな?

 銀行の窓口カウンターみたいなものと大きな掲示板が左奥の方にあり、逆サイドの右側は厨房と牛丼屋のカウンターのような感じ。大きなテーブルも設置されていて、左は依頼、右は酒場兼食堂と思っていいと思う。


 【ウルカ、ウルカ】

 「ん? ……うわあ!?」

 「どうしましたウルカ様!? 荒くれものに因縁をつけられたりしました!?」

 「具体的! だ、大丈夫だよバスレさん」


 視線の向こうで歯を出して笑うゼオラはお酒を飲んでいる人の頭から腕を通して遊んでいた。


 【ふん】


 僕の反応に気を良くしたのか、今度は真顔で両手の親指を某暗殺拳みたいな感じで人のこめかみに刺す真似をしてみせた。


 「ぶふ……!」

 「ウルカちゃん!?」

 「ご、ごめん母さん……」

 「疲れたかしら? 早くお話をして帰りましょうか」


 くそう、後で覚えてろ……とはいえ、幽霊相手にできることなどなにもないんだけど。


 ついに母さんに抱っこされてしまい、そのままギルドの奥へと連れられて明らかに違う部屋の前へと到着するとバスレさんがノックをする。


 「居るよー」

 「失礼します」


 すると中から爽やかな声が聞こえてきてバスレさんが扉を開け、僕達を招き入れてくれた。

 中は外の雑多な感じとは違い、整理整頓されて清潔な部屋だなと思う。


 「やあ、クラウディア様にバスレちゃんじゃないですか。あ、こちらへ」

 「こんにちは、クライト」

 「こんにちは!」

 

 20代後半という感じの線の細い糸目の男性が執務机から席を立つとソファへ案内してくれた。クライトさんというのか。


 「ほら、ここに私が来たらアレしかないじゃない」

 「……ああ、あの魔物の件ですね。調査は進んでいますが――」

 「それをちょっと聞きに、ね? それとこの子を紹介しにきたわ」

 「そっちが真の目的では? 一番下の子ですね」

 「はい、僕はウルカティウス、ウルカと呼んでください!」

 「よろしくね。俺はクライト。君はいくつかな?」

 「五歳です」


 手のひらを広げて見せると、うんうんと頷いた後にクライトさんが言う。


 「そっか! 俺の子と同じ歳なんだ。ならちょっと話が長くなりそうだし、ウチの子と遊んでもらっててもいいですかね」

 「あら、いつの間に? 相手は?」

 「クラウディア様は最近ギルドに来ることはあまりないですからねえ。リンダですよ」

 「……! あの子を伴侶に……! さすがギルドマスターね……」


 母さんが明らかに驚いているのを見て僕もびっくりする。特にあんまり強そうに見えないクライトさんに。

 するとクライトさんは隣の部屋に行き、次に戻ってきたその腕には――


 「俺の娘でステラだよ」

 「ぶい」


 ――無表情な女の子がブイサインを決めていた。

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