第八話 女性に囲まれっぱなしというもの
さてさて、僕がゼオラに憑りつかれてからすでに三日が過ぎていた。
とりあえず彼女のことは保留にしておくことにして毎日の生活に戻っていて、それいがいになにかが変わったことも、ない。
魔法の師事を受けないかという申し出も保留にしていたりする。理由としてはやはり『そこまでの魔法』が必要ないからと判断したからで、五歳の僕にはまだ早いんじゃないかなーと。
【魔力は使えば鍛えられる。今のうちにでもやっておいた方がいいぞ】
「また倒れたら心配をかけちゃうだろ?」
【あまり強力でない魔法からやればいい。あたしもいつ消えるかわからないしな】
それはそれでいいと思うけど、ゼオラはどうやら教えたくて仕方ないらしい。
「ありがたいけどいきなり強力な魔法を使えるようになったら周りが困惑しない?」
【それはあるかもしれないが、基礎を積んでおくのは今後役に立つ。ほら、やろうすぐやろう】
「ええい視界を覆うんじゃない!?」
部屋で本を読んでいる僕にゼオラが本から顔をにゅっと出して邪魔をしてくる。視えているだけでも厄介なのに、こう猫みたいな邪魔をしてくるのは非常に困ってしまう。
美人なのにいたずらが好きなのはちょっと面白いけどね。年相応で幽霊じゃなければ良かったのにと思う。
「ふう、それじゃ池まで行ってみようか」
【やはり男の子はそうこなくてはな】
うんうんと頷きながら満足気に腕を組むゼオラを尻目に汚れてもいい服に着替えてから部屋を出ると母さんに声をかけるため廊下を歩く。
「そういえばゼオラって何歳で死んじゃったんだい?」
【む? いくつだったかな。19とか20だったような……】
「嘘!?」
【みんなそう言うのだがどうしてだろうな】
めちゃくちゃ大人っぽいからだろうなあ。
「若いのによく賢者になれたからじゃない? それに美人だし」
【……】
あ、顔が赤くなった。
【び、美人か? そう言われたことは無いが……。コホン、それより賢者か大魔法使いになった経緯は覚えていないんだ。使えることは分かっているんだけどな】
「誤魔化した……。まあ、今更思い出したところでって感じだよね」
【そうそう。あたしを視ることができるウルカが現れて楽しくなりそうだし】
そう言って僕の背中付近に憑りついてから楽しそうな声でそんなことを言うゼオラ。ま、僕のことを知っていて他言できない存在は貴重なのでこれくらいは付き合ってもいいか。
家族の前やお風呂、寝る時なんかは姿を消しているのでプライベートも考えてくれているのがわかるので邪険にもできない。
「あら、ウルカちゃんどこかへ行くの?」
「あ、母さん。ちょっとあの池へ散歩に行こうと思って」
「……!」
その瞬間、母さんが大きく仰け反りとんでもない顔をする。トラウマというわけじゃないけどあの日はかなり取り乱していたみたいなので無理もないか。
「もうあの蛇も居ないし大丈夫だよ。簡単な魔法なら使えるようになったしさ」
「まあ、あの蛇を倒したこと人が近くにいるはずだとは思うけどねえ……」
そういえばあの事件で蛇を倒した人物を探していると言っていたっけ。
父さんと母さんがお礼をと思い名乗りでるよう募っているらしいけどもちろんそんな人は居ない。
「ママが一緒に行きたいけどちょっと今から町に出ないといけないの。バスレをつけましょうか」
「うーん……どうしようかな」
【町に行こう】
「早い手のひら返し!?」
「え?」
「い、いや、なんでもないよ……えっと、僕も町へ行きたいけど連れて行ってもらえる?」
ゼオラが即に町行きを提案してきて驚いたけど僕も町へ行ったことは無いので興味がある。折角なのでそれを推してみよう。
必殺上目遣いおねだりをすると母さんはふにゃりと顔を綻ばせて僕を抱っこする。
「もちろんいいわ! さあ行きましょすぐ行きましょう♪ バスレ、バスレ」
「は、こちらに」
「なんで鼻血を出しているのさ……」
「これは失礼をば。お出かけですか奥様」
「ええ、ウルカと一緒に出てきますから馬車の用意を」
「かしこまりました。御者は私が勤めましょう」
「え? ウオルターさんでいいんじゃない」
しかしバスレさんは眼鏡を光らせてから抱っこされている僕に顔を近づけて言う。
「ウルカ様が行くところバスレあり。そういうことです」
「いや、意味が分からないよ」
とりあえず町へ行くことに決定した僕は再びバスレさんによりお出かけ用の服に着替えさせられ馬車へと乗り込む。
「それにしてもどうして町に行きたいなんて言ったんだよ」
【そっちの方が面白そうだからだよ。ウルカの言う通り、魔法はいつでもいいからね】
小声でそんな会話をする。
ようするに魔法の訓練はやるべきだけど、他にやることがあるならそっちがいいらしい。暇つぶしか……。
「それじゃ出発ー」
「おー」
ちなみに馬車を引く馬の名前はハリヤーといって、とても賢い馬時折こっちの言葉を分かっているような動きを見せる。
何度か兄ちゃん達の乗馬訓練で顔を合わせているけど大人しいし、僕が背に乗るとゆっくり歩く気遣いを見せてくれるので気に入っていて餌やりは僕も手伝うようにしている。
「そういえば町は初めてよねウルカは」
「うん。今日はどこへ行くの?」
「お父さんの代わりに視察で町長とお話をするのよ。後はギルドとかかしら」
結構やることがあるんだなあ。母さんは専業主婦だと思っていたけど、こういうのもやるのか。
五歳になって動き回れるようになったからバスレさんにずっと面倒を見てもらっていたころより家族のことが分かって来た気がする。
「お、もう見えてきた」
【そこそこの町だな】
窓から外を見ると町が見えてきた。さて、どんな感じなんだろう? 楽しみだな。
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