第二話 別の存在というようなもの
「僕が行く世界ってどんな感じなのか聞いてもいいかな?」
『はいですぅ! ええと、ガイさんが行く世界はいわゆる剣と魔法が中心の場所ですね。色々な種族が入り混じっていて魔物とかもいるそこそこ危ないところですねぇ』
……まあ、よくあるステレオタイプの異世界と思っていいみたいだ。
寝たきり生活の僕はもちろんそういった創作物も好きだったのでそこはなんとなくわかる。分からないのはもう一度あなたの人生を人間で生活できるようにすると言っているにも関わらず――
「危険な場所へ送り込むんだ?」
『そうですねぇ。わたし達ができるのは再出発のお手伝いのみなのでその後はご自身でなんとかしていただく必要がありますよぅ』
「そっか。それじゃあ次だ、この人格をもったまま生まれ変われる?」
『お任せしますよぅ。選択制です!』
「え!? ……な、なら、赤ちゃんからやり直すのと、すでに居る現地人を乗っ取る形になるのはどっちになるのかい?」
『それもご希望があれば、ですねぇ♪ ただ、現地人と融合する場合は悲惨な状況になっている人が優先になるので即死に近いこともありますからおススメはしません』
幸せな家庭の子がいきなり別人格になるのは色々とややこしくなるので出来る限りしない方向らしい。記憶の引継ぎはそのままの方が役に立つけど、両親によっては『気味が悪い』と捨てられるパターンもあったとか。
テストケースじゃないけど、送られた後の人間がどうなったかの顛末は記録している。
……何点か質問をした限り、ある程度こっちの要望は聞いてもらえるということがわかっただけでも大きい。ジャージ女神のユキさんは聞けば必ず答えてくれる。
嘘かどうかはわからないけどメリットが考えられないので信じて問題ないかな?
で、赤ちゃんからやり直す場合、生まれはランダムだけど固有能力のようなものを一つもらえるそうなので物凄く貧乏でも逆転できるチャンスはあるとか。
記憶を持って赤ちゃんからやり直すのが生き残る率が一番高い。ちなみに犯罪者の子になることはないとのこと。
「いや、そうだよな……それはハズレだと思う」
『皆さんそうおっしゃいますぅ』
中世みたいな世界観らしいので貴族という線もあり得るので場合によっては不自由なく暮らせるとか。
まあ、両親が悲しまない生活ができるなら僕はなんでもいいんだけどね。
そこで僕は一息ついてから口を開く。
「……例えばなんだけど、人間以外の存在になることは可能なのかな?」
『え? 魔族とかですかぁ?』
「近いと言えばそうなのかな? 僕はリッチになりたいんだ。病気もせず、殺されにくい不死の存在に」
そうすれば両親は居ないかもしれないけど生きていくことはできると思う。両親を悲しませないなら死なないことが望ましい。
だけど人間じゃそれは不可能なので、あえて化け物として生まれてみたいと思ったのだ。
『ああ、リッチにですかぁ! 皆さんそうおっしゃいますぅ!』
「嘘!?」
『やっぱり一番大事なのは命ですからねぇ。リッチなら解決できることも多いですし』
「へえ、意外だな。でもやっぱり不死って憧れるからかな」
『ですね、ですね! だけど家族は揃っていた方がいいですよぅ?』
「……まあ、それはそうだけどできれば新しい父さんも母さんも悲しませたくないんだよね。だから最悪一人でもいい」
『いえいえ、そこはなんとかしますよぅ。それでは転生ということでよろしいですか?』
コテンと首を傾げて指を唇にあてる仕草が可愛いなと思いつつジャージ女神のユキさんに、僕は返答する。
「うん。この記憶を持ったままリッチとして転生させて欲しい」
『わかりましたぁ! それではすぐにご用意いたしますから少々お待ちくださいねぇ♪』
そう言って両手を合わせて立ち上がると踵を返して床になにかを描き始める。その様子を見ていると階段のあるあたりがなんだか揺れていた。
「ユキさん、なんだか階段が揺れていない? それに……え? なんか端っこがめくれてる!? 裏側があるのか……?」
『あっ!? だ、だめですぅ!』
「ふぐあ!?」
あの豪華な階段はハリボテっぽく、布がめくれてその下には暗く寒々しい空気が見えた気がした。
その瞬間、テレポートしたのかユキさんが僕の後ろに回り込み凄い力で持ち上げて先ほど描いた床へ突撃。
『それではガイさん、新しい人生をッ!』
「あれはなんなの!?」
『皆さんそうおっしゃいますぅ』
「そりゃ言うで――」
そしてユキさんの身体がブレたなと思った時、僕は意識を失ったのだった。
◆ ◇ ◆
『ふう、危なかったですねぇ。冥界って視覚イメージが悪いから隠しているのにバレるところでした。さて、ガイさんの行く先を決めないといけませんよぅ。リッチになりたいだなんて、男の子ですねぇ。父子の王って孤児院の院長さんみたいですけどぉ』
ユキはテーブルでメモ用紙のようなものに文字を書き出す。
しかしその直後、
(それは……違うわ……)
『え? いま誰かなにか言いましたか?』
ユキの耳に誰かの話しかける声が聞こえてきた。そして彼女の手がスッと動き出す。
『あ、あれれ? 勝手に動きますぅ!? あ、あ、ダメダメ上書きはできないんですよぅ!』
ユキが空いた左手で右手を抑えようとするが止まらず、RichのRにバツが書かれLが付け足された。
『ま、まずいですよぅ……これは……。Lich、ですかぁ……? うう、仕方ありませんそれらしい家族の息子に――』
(……)
ユキがメモ用紙をもって涙目になっている中、ガイが放り込まれた魔法陣らしき転生装置に一粒の光が吸い込まれるように消えて行った――
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