後半パート

 フェイクニュースの内容としては『今回も例の新作は出ない』とするもので、所詮はネットミームが拡散しているに過ぎないというものが半数を占める。


 彼らは本当に公式の情報を確認した上で情報を発信しているのだろうか、と言われると把握したうえで拡散するケースもあるかもしれないが、半数以上はないと言える可能性だってあるだろう。


 フェイクニュースを拡散させ、そのニュースに同調させるような同調圧力……それはさすがに考えたくはないのだが。


 単純に『バズる』ことを目的にフェイクニュースを拡散し、フォロワー稼ぎなどをするようなアカウントもゼロとは言えないし、それを踏まえると……。


「果たして、本当にこれを伝えることが正しいのだろうか?」 


 ネットミームを調べていくにつれて、その盛り上がり方が尋常ではないためか、この均衡を崩したとたんに第炎上するのでは、と彼は考えていた。


 それでも、事実は伝えなくてはいけない。これは、まぎれもない真実であり、フェイクニュースではない。


 このネットミームを終わらせるという意味もあるが、これに便乗して利益を上げようとしているまとめサイトや『バズる』ことを目当てにしたアカウントを放置する方が危険である、と。


 彼らの暴走が今までも様々なコンテンツで何を起こしてきたのか……想像に難くはないだろう。



 時間は気が付くと午後4時台を回っていた。情報の収集、再確認と配信セット一式の調整や準備だけで約1時間は使ってしまっただろうか?


「そろそろ、はじめるか」


 配信で使用するのはヘッドマウントディスプレイのようなものではなく、ノートパソコンに備え付けられているようなカメラである。


 そのカメラで配信者を撮影しつつ、配信画面ではアバターが表示される形式のようだ。動きに関しては、どのような原理で動くのかは定かではない。


『今回は皆さんに重要なお知らせがあります』


 配信画面に表示されているのは、一人の青年アバターである。こちらのアバターは、いわゆるアプリ内蔵のアバターではなく、自分が独自で作成した物だ。


 モデルをデザイナーなどに発注するケースもあるが、独自で作成した方が炎上リスクも抑えられる、と考えての独自アバターと言えるだろう。


 衣装に関しても、独自で……と言いたい所だが、この辺りは予算の関係上で今回使用するアプリに内蔵された物をそのまま使用している。


 この辺りはキャプション文などで明記をすれば、問題ないという事で『こちらの衣装に関しては、アプリ内のアバターコスチュームを使用しています』という趣旨の文章を記載していた。


 表情まで完璧に読み取れるようなアプリではないので、どういう心境で喋っているのかを視聴者が知ることはできない。しかし、そこまで深刻なものではないのは視聴者も察している。


『その世界は本当に戦いを求めるのか? このネットミームでも話題となっている、あの作品ですが……』


『実際に新作がリリースされる事になりました。公式アカウントでも明言されております』


 彼が発表した情報、それはネットミームとなっていた作品の新作が発表された事である。


 これには驚く声が非常に多かった。何故、公式でアナウンスもしているような作品の発表を、バーチャルアバター配信者が言及しているのか、である。


 他の配信者も同じような話題を切り出す人物もいるのだが、反応は様々だったと言えるだろう。


『ついに新作がリリースされる事になったのはうれしい限りですが、まとめサイトや様々なアカウントで一連の流れを未だにフェイクだと信じない人もいます』


『自分としては公式でアナウンスがあった以上は、続編がリリースされる事を期待して待つ。それが正しいファンの行動ではないでしょうか?』


『続編を望んでも、その続編が出ることなく終了したり、打ち切られたりする作品は多数あります。そうしたことを踏まえると、続編リリースが発表されても、いまだに信じないという行動をとるのは……』


 その後も彼の配信は続いた。内容としては30分位だが、冒頭のネットミームに関する話が配信の半分をしていると言ってもいいだろう。


 実際、その後に出回った切り取り動画でも同じような場面が流れることが多かったのもその証拠かもしれない。


 中には、都合よく切り取りを行い、『続編はリリースされない』という内容の物にしたような動画もあったが、それらはメーカー公式で削除要請を出し、無事に削除された。


 フェイクニュースを原因としてコンテンツの価値を下げたくはない、という意思の表れでもあった。


 間違いなく、この動画が影響してフェイクを疑う声は減ったと言っても過言ではない。

 


 その一方で、別の続編が望まれる作品に同じようなパターンを組み込んだようなネットミームは、その後も増え続けている。


 結局、1つのネットミームは終わりを告げたのだが、新たなネットミームは生まれていたのだ。


 これに対しても、彼は一つの回答を出している。


『1つのネットミームは、続編がリリースされたことで終息を迎えるでしょう』


『しかし、同じようなネットミームが一切現れないとは限りません。ネットミーム規制法案などが提案されない限りは……』


『歴史は繰り返されていくのです』


 彼も今回のネットミーム終息を全ての終わりとは認識はしていなかった。歴史は再び繰り返されていくのだ、と。

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『その世界は本当に戦いを求めるのか?』 アーカーシャチャンネル @akari-novel

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