ドミニク、偽聖女を追い詰める
「こいつは何というか。戦うまでもねぇな」
肉触手を全滅させた後、俺達は砦に向かった。砦を守ってるヤツはいない。扉も中から肉触手がぶち破り、歩いて中まで入ることができた。そして主犯であるニコルBBAはすぐに見つかったぜ。
「貴様たち……貴様たちよくも我が子を……! う、あああああああ!」
最後に見たBBAの姿はタコっぽい触手が生えたおぞましい姿だった。だがそのタコ触手は全部ちぎれ、地面に散乱している。誰かに斬られたってわけではなく、腐って崩れ落ちた感じだ。
どう見ても瀕死。体はタコ触手が崩れ落ちただけだが、顔は青ざめて血を吐いている。今なお体中を激しい痛みが襲っているのか、BBAはビクビク体を震わせ、血を吐きなが芋虫みたいに地面に転がってもがいていた。
「【
「どういうことですの?」
「あのスキルは人間を魔物化して自分の意のままに操るっていうスキルだろうな。だけどこの手のスキルは反動があって、魔物にしたヤツがやられると自分もダメージをくらうのさ」
何度かこの手の奴らと戦ったことがあるからわかる。【
「逆にそのつながりを絶つ使役系もあるけど、そうなると命令があいまいになって、間抜けな行動をしかねない。一長一短だな。
BBAも『子』とか言ってるから、そのつながりは深かったんだろうよ。23体全部やられてそのダメージが返ってきて、そのショックに耐えきれずに瀕死って所か」
「き、きさまあああああああああああ! 私の子を、かえ、せ、あぐあああああああ!」
俺の方を見て叫ぶBBA。しかし口を開くだけでも痛みが走るのか、びくびくとのたうち回っている。まったく、無様だねぇ。指さして笑ってやるぜ。ざまあみろ。
「残念だったな。お前の『子』は全部倒させてもらったぜ。怒り狂って全員突撃とかするからだ。感情的な女のヒステリーは怖いねぇ。砦っていう有利な位置をあっさり捨てやがって。
歴史上稀に見る馬鹿聖女だな。ああ、聖女ですらないのか。すまねぇな。アロンていう神もその神官魔族もこんなバカだって知ってたら魔人にしなかっただろうぜ、ふひゃひゃひゃひゃひゃ!」
おい、お前らも笑えよ。そう言おうと後ろの女共を見たけど、一歩引いて白い目で見ていた。まるで『仲間と思われたくない』という顔だ。
「おいおい。ここで嗤っとかねぇともったいないぜ。苦労して掴んだ勝者の権利だ。行使しない手はねぇと思うがな。この超絶才能を持つ天才的冒険者のドミニク様は何時だって勝つから苦労しないけどな。
どのみちコイツはここでおしまいだ。変な同情しても意味なんかねぇよ」
誰が見てもこいつはおしまいだ。聖女様の治癒も届かないだろう。……どうでもいいけど、筋肉聖女様はとっとと俺の傷癒してくれねぇかなぁ? なんか汚いものを見る目で見て、癒そうともしないんだけど。
「……そうですわね。確かにニコル・モラレスはおしまいです。私は彼女を止めに来ました。そして魔族に肩入れした以上、もはや救う道はありません」
ユーリアが俺より前に出てそんなことを言う。空気読んで一歩下がる俺。ま、クライアントにあとは任せるさ。依頼内容はユーリアが主役でないといけないからな。
「救う道、ないぽよ?」
アーヤが首をかしげてそんなことを聞いてくる。ちょっとしょぼんとしているのは、どうやら目玉がお気に召すレベルじゃなかったようだ。欲しいけど嬉々としてえぐりに行くレベルではない感じ。自分の事を見てくれないのが不満らしい。
「ねえな。魔族の
前にも言ったよな。スキルっていうのは心のポケットみたいな場所に収められる。だけど魔族のスキルはこの心を食らって成長するんだ。その分、成長も効果も威力も桁が違う。何せ本来のポケット以上にスキルが広まって大きくなるからな
ただ心を食われたら人格に影響してくるんだよ。理性とか常識を忘れて、スキルの形のままに行動する。いずれスキルに心全部を食われてしまうのさ。コイツは
アーヤの疑問に答える俺。
動物や植物はあっさりと心を食われてスキルのままに暴れまわるし、人間だってどれだけ心の強いヤツでも避けられない。強力なスキルを持ったヤツが思うままに暴れまわるのだ。それで街一つが消えたケースもある。
「はわわぁ……。浸食系とかどうしようもありませんねぇ。スキルに心を食われてSAN値が削られて病院送りENDとか困りますぅ」
エイラがそんなことを言ってスライムを抱いたまま震える。さんち、ってなんだよ? 魔族スキルの産地が大事なのか?
「りせいとじょーしきがなくなる……。ドミドミ、実は魔族さん?」
「はっはっは。なんでそう思ったか聞いてもいいか?」
失礼なことを言うアーヤに、笑顔で答える俺。このドミニク様がスキルに心を食われるとかあるわけねーだろうが。
「オマエ、さえ……オマエさえ、いなければ、ゴァアアア!」
そんなことをやっている間にユーリアとBBAは会話をしている。恨み言を言うBBAの恨み言を、真正面から受け止めるユーリア。選挙に負けて反乱しようとして魔人になり、しかしそれでも止められた。その恨みは消して軽くはない。
「はい。ワタシは貴方を押しのけました。その事に関して、後悔も謝罪も致しません。聖女になるために、ニコル女史の夢と未来を潰しました」
その恨みを受けて、言葉を返すユーリア。ひゅう、聖女らしい返しだ。宗教を引っ張るシンボルとして、満点な答えだね。ただの筋力馬鹿じゃなかったってことか。或いは素でそう思ってる? だとしたら脳みそまで筋肉だぜ。
「できうることならあなたの知識と経験をヴェラー様の為に生かしてほしかったのですが……残念です」
「ヴェラァ……! アアアアア、アロンサマァ! タスケ、て……ワタシを、聖女に……! コンナ、ノ、許セナイイイイイイイイ!」
「せめて、私の手で引導を」
「何ヲ、間違エタ……! ココ、コノ場所、カ……! 何故バレタのだ……! もう少し時間がアレバアアアアアア!
……ア……アア、アア……アル、ミン」
ユーリアが拳を地面に叩き付けた。断末魔はその瞬間に途絶える。最後に呟いたのは子供の名前だ。スキルに心を食われながら、最後に残ったのがあの黒僧侶の名前。腐っても親の力ってやつかね。
ユーリアはこぶしを戻し、祈りのポーズを取る。しばらくそうした後に、こちらに向きなおって頭を下げた。
「終わりました。皆さまありがとうございます」
「なに、こっちは依頼料さえ払ってもらえればいいさ。あとできれば俺の傷を癒してくれると嬉しいんだが」
俺はいまだに痛むお腹を指さして言う。応急処置はしたんで出血はないが、それでも動くたびに痛むのでできれば女神の力で癒してほしい。
「……わかりました。ヴェラー様のお力を貴方の為に使うのは、非ッッッッッッッッッ常にッ! 嫌ッ! なんッ! ですッ! がッ!」
「おいおい。俺に触るのがそんなに恥ずかしいのか? 初心な女だね。だがそういう所もかわいいぜ。清楚で可憐な聖女って感じで可愛がってやりたくなるぜ」
「近づくなこのドクズ! それ以上近づいたら日々鍛えた拳を叩き込む! あと喋るな! 口を開いたらそのまま歯を叩き折る!」
指を下から撫で上げるように動かし近づく俺に、まるで親の仇を目の前にしたかのように構えて殺気を向けるユーリア。口調も思いっきり変わってるぜ。治癒魔法は傷口から距離が離れればその分効果が減るのだ。近づいた方がいいのは間違いないんだけどなぁ。
まあ一応コイツ俺の英雄的行動を見て照れているんだろうな。まったく、女ってのは素直じゃないから困るぜ。でもそんな女が蕩けていくのもまた一興だぜ。ハーレムにはいろんな女がいるから刺激があるってことだしな。
「お、さすがだな。【
「当然ですわ。よくヴェラー様にお祈りし、よく大地のお恵みに感謝し、そしてよくお筋肉を鍛える。こうした日々の積み重ね。それこそが聖女のお嗜みでもあり、そしておスキルを育てていくのです」
回復の腕を褒める俺に、胸を張ってこたえるユーリア。口調もお嬢様っぽいのに戻っている。筋肉鍛えるのが聖女の嗜みなのかは、まあどうでもいい。宗教の教義とか興味ねぇし。
「当然か。ま、そんなこと言ってどんな裏の顔があるのが分からねぇのが宗教で人間てもんだよな」
「悔しいですが否定はできませんわ。事実、ニコル女史は魔族に力を借りて魔人になりました。ワタシへの恨みと、聖女のへ執着。それが産んだ悲しい結末です。その復讐心がヴェラー様が愛する民に向かわなかったことは幸いですわ」
「そうだな。実際、BBAがここに籠って時間をかけてあの肉団子を増やし続けていればとんでもないことになってただろうぜ。ココを中心に肉触手地獄。どこかの村を襲撃して数を増やして、大暴走。
そうなったらこの超絶美形英雄であるドミニク様が出てきて、ナイフ二刀流ですぐに解決して終わりだけどな」
むしろ俺みたいな世間の規格外である英雄はそういう事件でないと活躍の場がないからな。そういう事件がないから、今は借金に追われて細々とやってるだけさ。ふっ、強すぎる俺、罪だぜ。
「はいはい。そうならなくてよかったですわ。では皆様、帰りましょう」
「はーい。主任、行きますよぉ」
「うー。いいおめめなかったなぁ」
ユーリアが俺の言葉をあっさりいなし、エイラとアーヤがそれに続く。おいおい、俺を褒めるのが恥ずかしいからってそんな無視することないだろ? 全くテレ屋ってのは面倒なもんだぜ。ま、二人きりなら他に視線もないし大丈夫だろ。それでもごねるなら、体を素直にさせればいいし。
「そうだな。そうならないのが一番だよな」
俺は肩をすくめてそう呟いた。
一旦区切りはついたけど、ドミニク様の活躍にもう少しだけ付き合ってくれよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます