ドミニク、作戦を発動させる!

「ヒャッハアアアアアアアア! コッチヲミロオオオオオオオオオオ!」


 件の砦の前で叫ぶ俺。ザコっぽく奇声を上げ、砦にいる者の注意を引く。顔を出した機士っぽい男が驚きの顔を見せた。そりゃそうだろう。


「おい、あれ……カイン達か!?」


「水汲みから帰ってこないと思ってたら……!」


 砦から少し離れた場所。そこには先ほど倒した五人の騎士野郎が吊るされているのだ。しかも全裸で。男の裸なんか見たくもないんだけど、いろいろあってこうなった。クソ、女だったらなぁ……!


「お前たちの仲間は捕まえたぜぇぇぇぇ! 偽聖女が砦を占領して何考えてるのかは知らねぇが、どうせくだらない事なんだろうよ! 仲間も下らない作戦で捕まったしなぁ!」


 手にしたダガーで全裸騎士の体をぺちぺちしながら砦に向かって言う俺。距離的には弓ぐらいは届きそうだが、きちんと狙わないと味方に当たるかもしれない。そんな距離だ。声は聞こえないかもしれないが、行動と状況でこっちの意図は確実に伝わるだろう。


「助けに行くか……?」


「いや待て、あれは明らかに罠だ!」


 大体そんなやり取りが交わされているはずだ。ここで怒って扉から出てくるほど無謀でもない。そんなバカだったら楽だったんだがなぁ。


「……ドミドミ、サイテー。おめめえぐらせてくれないのに自分は好き勝手するなんて。ぶーぶー」


「人質とかよくそんなことできますよねぇ……。あうあうあうあう。小職如きが意見を言うなんておこがましくてすみません。穴掘って埋まってますので許してくださぁい……」


「ヴェラー様、お許しください。ワタシの力不足で貴方の子をこのような目にお晒してしまいました。これでも彼らのお命は保証しました。どうかどうか我らにお慈悲を。そしてあの男に鉄槌を。……ワタシが直で下したいところですが!」


 後ろの方。砦からは見えない位置でそんなことを言う女たち。なんだよ、お前たちも納得したじゃないか。最初はナイフを突き刺し、血を流して本気度を伝えるって話だったのによぉ。


 言うまでもなく、これは砦に籠ったやつらを引っ張り出す作戦だ。こっそり侵入する手段がないのなら、相手から出てくるように仕向ける。砦から出てくれば、純粋な実力勝負。10人に満たないとかなら、俺一人でもどうにかなる。


 ――とはいえ、魔人の持つスキルはまだわからないし、俺達の知らない砦の裏道から背後を突かれる可能性はある。警戒は必要だろう。ユーリアとかはその為の伏兵として身を隠してもらっていた。


 この全裸作戦に至るまではちょっと時間がかかった。最初は騎士の格好に扮した俺が聖女さんを縛った状態で木に縛って男女の交わりを見せつけ、寄ってきたエロ騎士をぶん殴るという作戦だった。


 あいつらが目の敵にしているユーリアを好き勝手出来るとあらばホイホイでてくること確定。あと俺も気持ちいいし、ユーリアもこの超絶無敵最強な俺に抱かれてハッピー。お互いに損のない作戦だったのだが、


『あらあら。本気でこのワタシとそうしたいのでしたら実力でどうぞ? 発情したおサルさん程度に負けるほど、ひ弱なつもりはございませんわよ』


 などと本気で抵抗するそぶりを見せたので却下。ふ、初めてが外とかはダメな性癖だったようだな。この俺の誘いを断るとはもったいない事をしたと後悔しているだろうが、そこは仕方ない。


 次善策の人質を傷つけてパニックに陥らせる作戦も聖女様の要望で却下される。いいじゃん5人もいるんだし、って言ったらパンチが飛んできた。避けたけど、空気がゴゥってすごい音してたんで、それ以上は何も言わないでおいたぜ。俺って優しいね。……こっわ……。


 人質の生命を保証すること。そんなユーリアとの妥協点をつけ、最大限相手を挑発するために全裸にして木に吊るしたのだ。アーヤの呪いが効いているのか、意識はあるが抵抗するそぶりもない。あの呪いの効果は身をもって知っている。半日はこの状態だろう。


 この状態で騎士に【挑発プロボック】を仕掛けても、弓をしこたま撃たれるだけだ。それでは意味がない。なので今はとにかくヘイトを稼ぐとき。人質を散々いたぶって、連中の反感を買うのだ。


「へっへっへ。この塗料は簡単には落ちないぜー。しかも匂いもキツイヤツだ」


 俺は用意した塗料と筆を取り出す。


「うう……何をするつもり、だ?」


 喋れるぐらいには回復したのか、拘束している騎士が口を開く。


「ふ、ドミニク様のボディアートキャンバスになってもらおうか。いい腹筋してるじゃねぇか。相当に鍛えているみたいだが、それがこんな風に役立つなんて想像もしなかったようだな」


 言いながら俺は騎士の腹筋割れ目を目玉に見立て、塗料で落書きする。うわ、くせぇ。そして乳首を中心に大きな目玉を仕立て上げる。


「や、やめろ! 貴様騎士を愚弄するのか!?」


「愚弄? まさかこんな程度で終わりと思ってるんじゃないだろうな? まだお腹しか使ってないんだぜ」


「顔!? やめろ、その塗料結構臭いんだから顔はやめてくれ!」


「お前は目玉騎士だ。顔にも当然目玉を書いてやるぜ。ちょんちょん」


「くせぇ! やめてくれぇ!」


「男のケツなんざ見たくもねぇんで適当に書くか。足も毛を剃って書いてやるぜ」


「情けを! 捕虜に対する情けを要求する!」


「こいつは水で洗った程度じゃ落ちないからな。特殊な薬草使わないといけないんだぜ。売ってやってもいいが、いくらだすぅ? いくらまでなら出せるかなぁ?」


「この卑怯者ぉ!」


 拘束された騎士は心の底から嫌そうに叫び、それを聞いている他の拘束されてるやつも怯えの表情を浮かべる。


「へっへっへ。安心しな。お前にはこの塗料は使わねぇ。お前にはこのポーションを飲ませてやる」


 言って俺は三つのポーションをカバンから出す。市販品のポーションだ。


「安心しな。中身は回復ポーションだ。飲んでも命に別状はないのは保証してやるぜ。


 ただそれぞれに『激辛香草しぼりたて』『裏町媚薬原液』『ゴブリンのアレな汁』を混ぜてある」


「なんだそのラインナップ!? アレってなんだよ!」


「さあ、辛くて悶えるか、ビンビンにおったてるか、ゴブリンとディープな関係になるか。どれか好きな方を選んでいいぜ」


「やめろー! どの選択肢も碌なことにならないじゃないか!」


「時間は15秒! 14、13……!」


 カウントダウンしながら踊る俺。悲痛に叫ぶ騎士の声が砦に聞こえたのか、見張り台に集まる数が増えてくる。遠距離探索系スキル持ちがいるのだろうな。こっちの状況は理解してくれているようだ。


「ぜーろ! じゃあこいつを食らえ!」


「ぎゃあああああああああああ! 辛い! 口の中が燃えるぅぅぅぅ!」


「おおっと、そっちが当たったか。騎士が無様に全裸でビンビンに立つのも面白かったんだがな。ああ、でもまだ三人いるか。じゃあ次はお前だな」


 指さした騎士は、顔を青ざめ怯えだす。


「ひぃ……! やめてくれ!」


「やめてくれ? なんで命令されなきゃいけないんだ。やめてくださいドミニク様、って頭下げるのが筋だろうが」


「ぐっ……! や、やめてください、ドミニク様。……!」


「お願いします、は?」


「お願い、します……」


「頭下げてないから却下」


「縛られて吊るされてるんだから無理だろうがそんなこと!?」


 当たり前だろ。無理ってわかってるから言ったんだよ。気付かないとか頭悪いね。まあ俺の頭脳に比べれば誰だって頭悪いんだから仕方ないか。さーて、またカウントダウンだな。いや、それでは芸がない。途中でカウントを止めて、無理やり飲ませるか。驚くだろうぜ、この馬鹿騎士。


「そこまでです! 何をしているのですか、貴方は!?」


 朗々を響く静止の声。女だ。振り向けば、40ぐらいの僧侶っぽい服を着た女がいた。おそらくあれがニコルってBBAだろう。目線で遠くにいるユーリアに確認すると、頷いたのが見えた。


「ナニって決まってるじゃねぇか。よわっちぃ騎士をひん剥いて遊んでるのさ。そんなこともわからないなんて、初等教育からやり直したほうがいいんじゃないか?」


「ふざけるな! 私の騎士を愚弄するなど万死に値する! 賊如きが教養を語るとはそれこそ笑止! 今すぐ首を垂れるなら、手首切断で許してやろう!」


 傲慢だね。そして状況が分かってないようだね。マッチョ聖女に負ける程度の頭脳だから仕方ねぇか。


「アンタがニコラって女か。聖女選挙に負けた負け犬! こんなところに籠って男に慰めてたのか? 人も来ないしいいパーティ会場だな!」


「なっ!? 何を破廉恥な!」


 聖職者には下ネタを。清楚を売りにしてるんだからこういうネタは否定したいだろうよ。


「硬いこと言うなよ。どうせヤルことヤってるんだろ? ああ、硬いのは騎士のナニか? 媚薬飲まされるとその辺暴露されるから大変だなぁ!


 あ、もしかして自分の裸見た時より大きくされると困るってか? すまねぇすまねぇ! 配慮が足りなかったぜ!」


 全裸騎士の腰をダガーで指しながら言う俺。意味は理解しているのか、顔を赤くして怒る二コラBBA。図星か? まあBBAの裸なんかあまり興奮しないもんな。


 さあ、下地は整った。最後の一押しと同時にあのBBAに【挑発プロボック】だ。リーダーが怒り狂えば指揮系統も乱れる。砦を出て俺を捕えろ、とか騎士に命令してくれればベスト。弓を打ってきても、そのまま逃げて隠れればいい。怒りは簡単に消えず、どこかでポカを犯すだろう。


「まあしょうがねぇよな。お前の息子も女ひとり満足できないガキだったし」


 言って俺は、アーヤから借りた黒僧侶の眼球を掲げる。このタイミングで【挑発プロボック】発動。言語を乗せたスキル効果で相手の精神に作用し、俺を集中的に狙うように操作する。


「それは!? ア、ア、ア、アルミンの! アルミンの魂をそこに閉じ込めているのか!? 何たる外道!」


 俺が持つモノが何かを理解したのだろう。あの距離で眼球が見えて且つ魂があるのが見えるってことは、相応の探査スキルがあるってことか? あるいは使い魔をどこかに潜ませている?


「俺のオンナにメロメロになってやられたもんな!」


 遠くで『全然ドミドミの女じゃないし』とかいうアーヤの照れ隠しな声が聞こえる。分かってるって。お前が優しく冒険者の指導をする俺に惚れてるのは。そういう所が可愛いぜ。あとエロ褐色ボディ最高だぜ。


「アルミンが……!? 貴様がアルミンを! あの子が女にメロメロなんてありえません! きっとどこかの売女が裸で迫ったに決まってます! 純粋で清く正しいアルミンを誘惑するなんて、この魔物! 悪魔!」


 まあ裸に近いポーズで迫ったのは間違いないなぁ。でもあれが純粋で清く正しいか? マザコン母子、ここにありってな。なぶりがいのあるネタとおもったけど、クリティカルだったな。俺、天才。


「殺す! 死ね!」


 激昂して叫ぶBBA。おおっと、【挑発プロボック】は効いたようだな。俺を指さし、死ねと叫ぶ。遠距離攻撃スキルを警戒して【蝶の舞踏バタフライダンス】を展開したが、BBAから何かが飛んでくる様子はない。どうやら口だけ――


「が、はッ……!?」


 ――腹部を貫く鋭い一撃。


 全裸騎士の体から触手が伸びて俺の脇腹を突き刺したのだと気づいた時には、俺は地面に倒れていた。


 え? 俺死ぬの!? どうにかしてくれよ読者きょうだい! みんなのいいねと星を俺に分けてくれ!


 露骨な人気稼ぎだって? 気にすんな!

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