ドミニク、教会に行く!

 ヴェラー。大地の女神。


 善6神の一角で、豊潤と踊り、そして火山を司る。火山が沢山ある南方諸島ではかなり信仰されているが、そうでない地域でも農家が豊作になりますようにと信じられることもあるメジャーな宗派だ。


 エピソード的には美人だけど褒めそこなうと怒って火山を爆発さえたり、七年ぐらい踊り続けてその振動で横断困難なラザル山脈を作ったりと地形系が多い。


 他の善神も女王を無理やりイタして子供作って王国の人間関係壊して国が滅びる戦争を起こしたり、寝起きで不機嫌な所を攻撃されて島一つ海に沈めたり、絵画勝負で負けた相手を黒一色の魔物にしたりとかなので、まだヴェラーは大人しい方だ。


「はふぅ。小職とお兄ちゃんがこの世界に来る前に出会った神様とは違うみたいですねぇ」


 というのはヴェラーの説明を聞いたエイラの感想だ。相変わらずよくわからない。神に出会ったとか教会の司祭長が使う扇動文句じゃねぇか。


 ともあれそんな女神を奉じるヴェラー神殿。規模もたいしたものでここバランの街にも大きな神殿がある。信者もそこそこ多く、街の外から観光にやってくる人もいるぐらいだ。


 そんだけ大きくなると調子に乗るのも人間のサガ。ヴェラー聖堂騎士団とかを作り出し、神殿とかの警護を行ってたりする。お布施と称した寄付を多くする家とかも警護したりしてるが、マフィアのみかじめと同じだよな。あれ。


「冒険者如きが何をしに来た!」


 で、今俺達を足止めしているのもその騎士とやらだ。ヴェラーの聖印が入った盾を掲げ、キラキラ光る剣を腰に差している。体格を見る限りはそこそこ鍛えているようだが、あくまでそこそこレベルだな。俺の足元にも及ばないぜ。


「おいおい。お前たちの教会から指名されてやってきたんだぜ。そんなことも聞かされていないとか門番として仕事してないんじゃないのか? それとも俺の顔と名前が一致しないぐらいの田舎出身? しょうがねぇなぁ、大地女神は田舎者が多くて」


 招かれた客への態度がなっていないヤツに礼儀を教えようとして、相手の素性を察して肩をすくめる俺。田舎者なら仕方ねぇな。イモ育ててばかりで英雄の名前とか知る機会もなさそうだし。


「この俺を田舎もの呼ばわりするか!」


 だが優しい俺の言葉をそういうふうに曲解したのか怒りの声をあげる騎士。腰の剣に手が伸びそうになって、寸前で止まる。やめなよ。ここで抜いたらアンタの命がないぜ。まあどうにかするのは後ろにいる俺のオンナ共だがな。俺にラブでメロメロだから、そんな事すると反撃されちゃうぜ。


「ドミドミ、クチヤバみ。マジむり」


「あのドミニク主任、さすがにそれは怒られて当然だと思いますぅ……」


 俺から離れるようにして冷たい目で見るアーヤ。肩を落としてため息をつくエイラ。こんな態度だけど心の中では魔人を倒した俺に感謝しているに違いない。距離を取るのも俺の顔を見るとドキドキキュンキュンして照れてるからなんだろ? 何かあったら助けてくれるんだろ? わかってるぜベイビー。


「ドミニク……貴様まさか――」


「そちらのお方はワタシが招いたモノです」


 俺の名前に反応しかけた騎士だが、その言葉の先が出る前に神殿の方から声がかかる。その声には聞き覚えがあった。


「聖女ユーリア」


 ユーリア。何とかの村って所で黒僧侶に捕まっていた聖女だ。俺達を呼んだのもこの女だな。正確にはこの女が教会に推薦し、教会がスポンサーになって依頼してるんだが。


「……品のない冒険者を神殿に呼ぶのは問題があります。貴女も聖女としての節度を学ぶべきかと思います。神殿の和を乱すような真似はやめていただけたいのですが」


 なのに騎士野郎は食い下がるようにユーリアに言い放つ。お前らの組織そのものが許可してるんだからつまんねーいちゃもん付けるんじゃねぇよ。組織の一員としてその態度はどーなんだ? ああ?


 これはあれか。教会内部の人間関係の問題だな。聖女と騎士が反目していて、ネチネチと攻撃しているとかそんなの。やだねぇ、組織内のいざこざにひとを巻き込まないでほしいぜ。ま、そいつらをざまあするのがこの俺なんだがな! 今回は味方してやるぜ、聖女様。


「確かにドミニク様に品格がないのは認めますわ。お下品、お下劣、お節操なし。女とみれば即口説き、相手の気持ちを考えない事雷神シュライドの如く。このバランの街で彼を警戒しない女性はいないとまで言われていますわ」


「はっはっは。とんだ風評被害だな」


 なのにこの聖女様、とんでもないことを言い出した。まあ妬み嫉みはモテる男の有名税。そして女を口説くのはいい男の義務みたいなもんだ。そいつを品がないとかやめてくれよな。


「ドミドミ、さいてー。知ってたけど」


「ギルドに入った時に真っ先に注意されましたしねぇ……。最初は冗談と思ってましたたけどぉ……」


「おいおいおい。アーヤもエイラもそんな噂を信じるなよ。この俺の行動を見れば何が真実かなんてすぐにわかるだろ?」


 噂なんかに振り回されるとかしょうがない奴らだぜ。自分の目で見て事実を判断する目を養わないとな。ま、俺のすばらしさを信じられないのは仕方ないさ。


「ですが、そちらの方の実力は一流ですわ。少なくともモラレス神官長……いいえ、魔人モラレスを倒したのはこの三人です。その事実は報告した通り。それを疑うのですか?」


「我々が動けばその程度の規模など、すぐに解決したかもしれないがな」


 ユーリアの言葉に鼻を鳴らす騎士野郎。その態度を予想していたかのように優雅にポーズをとるユーリア。そのまま目を細めて言葉を紡ぐ。


「お笑い種ですわ。『かもしれない』などというありえない事実を誇るなど。その傲慢が魔人の跋扈を許したのだと理解できないのですか? すぐ? 町中で自らの利権だけを求める貴方達は気づくこともなかったのではありませんか?」


「……聖女ユーリア。言動には気を付けたほうがいいですよ。我々は信徒を守るヴェラー聖堂騎士。そのための最善手を行っているだけです」


「ええ。同じヴェラー様を奉じる者同士、協力し合えることを願ってますわ」


 ジャブの打ち合いは終わり、とばかりに口論を終えるユーリア。マジで権力争いとかに巻き込むのは勘弁してほしいもんだぜ。


「で、俺達は通っていいのか? 俺はどっちでもいいんだぜ。依頼のキャンセル料金を規定通りに支払ってくれるならな」


 そのお金で酒飲んで女を買って闘技場で荒稼ぎ。悪くない一日になりそうだ。むしろ仕事しないでお金もらえるとか最高じゃねぇか。よし、断れ。


「ええどうぞ。歓迎いたしますわ、ドミニク様。アーヤ様もエイラ様もどうぞ」


 この場での勝利宣言とばかりに言い放つユーリア。騎士野郎は負け惜しみを言うことなく、無言で道を開ける。初めからそうしていればよかったのにな。全く田舎者はこれだから困るぜ。


「とはいえドミニク様、先ほどの発言は控えていただけるとありがたいですわ」


 神殿内を歩きながら、背中越しにユーリアが俺に向かって言ってくる。


「確かにヴェラー様の愛はこの大地に住むものすべてに注がれます。そこには町から離れたの内に住む方もございましょう。そのような地域で生活なさっているお方に対する悪し様な表現は如何なものかと。


 住んでいる場所に貴賤はありません。全てはヴェラー様の名の元に平等なのです」


「あー、すまんな」


 さっきの田舎者発言に対して苦言を言いたいようだ。事実を口にしただけなのになぁ。宗教っていうのはめんどくさいぜ。俺は適当に返事しておいた。一応依頼主側の人間だ。めんどくさい会話は適用に流すに限る。


「そう。遥か雪原のフェルドーに住むお方も。遠い東のワコクアイランドに住むお方も。かつて魔王がいたとされるコーランドに住むお方にも。ヴェラー様を信じるのならそれは皆同じなのです。ああ、素晴らしきかな女神さま。


 その御手はマグマのごとき熱く、その一撃は火山の如く突き上げられる! その震脚は大地を大きく揺るがしてクレーターを穿つ! 一撃必殺こそ戦いの神髄! 智謀や技巧など圧倒的なパワーの前には無為に期すのです!


 パワァ! イィズ! パワー! 力と力のぶつかり合い! ああ、ヴェラー様の信念は全ての民に注がれているのですわ!」


 そして昂奮極まってこぶしを握りあげる聖女様。聖女ってこんな感じなのか? 周りのヤツラもそんなに気にしてる様子はないし。ってことはトチ狂ったんじゃなくていつもこんな感じってことか?


「リアっち、お目目キラキラしてるっぽい。エモい」


 背中越しに叫ぶユーリアを見ながら言うアーヤ。目玉見えてないだろうが。なんでキラキラしてるのが見えるんだよ。俺の目は腐ったりドロドロしたりなんで少しムカつく。目を取られたいわけじゃないんだけど。


「聖女さんのステータスは……。STR筋力:A+、CON耐久:A、DEX敏捷:D、INT知力:B、LUC幸運:C……典型的な戦士系ですぅ……高ステータスですけど」


 そしてエイラは相変わらず謎単語である。人差し指をあらぬ場所をなぞるようにして、よくわからない単語を言っている。そこに何かがあるように視線を向けていた。変なクスリでもやってんのか?


「あ。一般人がEで、すこし鍛えた人がD、Cはプロレベル。Bはプロでも一目置かれるレベルで、Aは才能と努力が重なった世界を揺るがす天才レベルです。プラスマイナスは状況に応じてボーナスが付くんです。


 お兄ちゃんは今のところ全部E-なんですけど、真の力を解放したらオールSSSSS+++になるって言ってましたぁ。今は本気を出してないだけなんですぅ」


 そして聞いてもいないことを説明する。だから何言ってんだよコイツ。よくわからんのでスルーする。コイツの妄言を真に受けてるよりも、依頼の事を聞かないとな。


 神殿の一室に通されると、そこには一人のおっさんがいた。高そうな僧侶の服を着ていると事を見ると、相応に身分が高いのだろう。俺達の来訪を目視すると立ち上がり、頭を下げた。


「冒険者の方々ですね。私はローベルト・プレゲスバウアー。ヴェラー神殿で司祭をやっております。


 モラレスの件ではお世話になりました。貴方達がいなければ聖女ユーリアは贄となり、魔人はいまだに暗躍していたでしょう」


「そうだな。全てはこの俺のおかげだ。礼をはずんでもいいんだぞ」


「はい。当然の事です。幾分かの謝礼を要しましたので、お受け取りください」


 お、言ってみるもんだね。あんな偶然通りかかったのにお金もらえるなんて。ま、当然と言えば当然か。この俺が感謝されるのは、世界的に正しい事だからな。


 机の上に置かれた袋の中には、かなりの金貨が入っていた。やりぃ、冒険者ギルドに中抜きされない報酬って素晴らしい! 8割は俺の借金返済かもしれないが、気にすんな。


「それとは別にお願いがございます。先の事件に関係する事なのですが」


 謝礼を受け取ったことを確認した後で、司祭は口を開く。おうよ、ここからが本番だ。金回りのよさそうなスポンサーだからな。せいぜいぼった食ってやるぜ。


「聖女ユーリアを伴って、新たな魔人を討伐していただけないでしょうか?」


 司祭の言葉に思いっきり悔しそうな表情をする聖女様。こんなクズと手を組むなんて、的な事を小さく呟いている。その悔しそうな表情だけで愉悦を感じながら、何もかも分かっているように問い返す。


「それ自体は構わねぇが。どうせ裏があるんだろ? 単純な魔人討伐ならご自慢の騎士団と聖女を組ませればいいじゃねぇか。わざわざ冒険者を雇って頼むなんざ、よっぽどだぜ」


 あの騎士とか、メンツとか大事にしそうだったしな。偏見持ってる冒険者雇うとかクソメンドそうな事情があるに決まってる。


「慧眼ですね。理由は……魔人となった者が元教会関係者だからです。


 名前はニコル・モラレス。貴方達が倒したアルミン・モラレスの母です」


 んだよBBAか? どうでもいいぜ。読者アンタもそう思うだろ? サクッと倒して終わりだな。

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