ドミニク、指名される!
「あー、疲れた。ようやく街に入れるぜ」
あの後は何事もなくバランに戻ってきた。道中でアーヤが毒キノコ魔物のマタンゴの目を見てエロ顔になって呪い殺したり、エイラがそれを見て『巨大化! お兄ちゃん巨大化!』とかわけわかんないクスリ決めたようになったりとあったが、概ね平和な道中だった。
まあ俺も通りすがった女商人との『交渉』があったり、借金取りに依頼されて俺を探している冒険者に見つからないように迂回したり、マフィアが門近くで網を張ってたから2日ほどやり過ごしたりとあったが、概ね平和な道中だった。
「ドミドミのせいでずっと回り道してたんだけど―」
「流石に5徹は厳しいですぅ……」
アーヤとエイラがそんな不満を訴える。5日の足止めの内1日はお前らのせいだろうが。喉元まで出かかった言葉を飲み込む俺。ふ、女に愚痴る男はクズなのさ。最高の男、ドミニク様には似合わないぜ。
「おう。予定より長かったな」
門番に迎え入れられて、バランの街に入る俺達。しかし油断はならない。街中にも敵が多いのが英雄というモノ。一瞬たりとも気が抜けない。具体的には借金取り。連中にバレないうちにエイラ捜索依頼の報酬金をもらわなくては。バレたら徴収されかねない。
「おう。ちょいと野暮用でな。英雄は辛いぜ」
「ああ、聞いてるぜ。リゼット村でのアンデッド騒動だろ?
「ああん? ……おう、そうだぜ」
そう言えば忘れてたわ。あの黒僧侶、そういう魔人だった。正直、ザコだったんで忘れそうになったぜ。
「流石、元勇者パーティだな。見習いと依頼遅延者を連れてもそこまでの事ができるなんて大したもんだ」
「この俺にかかれば魔人の一人や二人軽いもんよ。わざわざ吹聴するほどでもないぜ」
アーヤの踊りで全滅しかけた、なんて口が裂けても言えない。あれ、マジでヤバかったからなぁ。でも太ももとケツの食い込み見ながら死ねるなら……いや、どうせなら中身だ。そこまで見ないと割に合わん。ついでに言えば中身も全部頂かないと。
「ドミドミ、おめめ汚い」
「知ってます。これ、エッチな事考えている顔です。お兄ちゃんと同じ顔です。……きゃああああ! ごめんなさいお兄ちゃん! ああ、お兄ちゃんはいつでもかっこいいですからぁ!」
半眼になって俺を見るアーヤ。同じような顔をして、後ろからスライムに体当たりされるエイラ。
「お兄ちゃん? 大丈夫か? スライムを制御できてないみたいだけど」
「気にすんな。そういう関係なんだ。自分でテイムした魔物にツッコミを入れさせるプレイなんだよ」
「プレイ……なのか? いやまあ、きちんとテイムできているのならいいけど」
エイラがへっぽことはいえ【
「その関係だが、お前に依頼があるらしいぞ」
「ああん? スライムプレイが何だって?」
「そっちじゃねえ。魔人関係だ。おまえに指名依頼だとよ」
門番の言葉に眉を顰める。この俺に仕事してほしいだと? 何様のつもりだよ。
指名依頼。冒険者ギルド内の特定の人物を指名して仕事を依頼する形式だ。指名する理由は様々だが、基本的に高難易度である。まあこのドミニク様の実力を買っているというのはわかるがな。
なおこの依頼に関してはきっちりと依頼主の素性を調査される。指定した相手が呼び出した相手に復讐したいとかいう私怨バリバリだったら困るからだ。俺みたいにいろいろ逆恨み喰らってる冒険者も少なくないからな。
ま、それはいいとして少し疑問に思うことがある。
「なんでオマエがそれを知ってるんだよ。ギルドの口、軽くねえか?」
「町に戻ったお前がいきなり花街に行かないように、って伝言頼まれたんだよ」
「寄り道ぐらいさせてくれよな。無粋だぜ」
くそ。そういう店に行ってそういう薬を使って、アーヤとエイラをどうにかできないかって考えてたのに。捜索依頼の期限まで溺れさせてしまえば、目玉とかスライムよりも俺に心奪われて、俺の言葉と指先一つでドロドロでエロエロになる娘たちが完成するはずだったのに。
ついでに売るもん売らされて借金のカタにさせられかねないし、マフィアに売られるかもしれんからな。危険回避を行うのは基本中の基本だ。
「しょうがねぇ。この超英雄であるドミニク様が一肌脱いで魔人を退治してやるぜ。
そういうわけだから冒険者ギルドに行くぞ。捜索依頼の報酬もあるしな」
言ってアーヤとエイラを伴って真っ直ぐに冒険者ギルドに向かう俺達。
「ねえねえ! まじん、ってことはおめめ凄いの!」
「すごいすごい」
「うへへへへ。レアモンスター……良かったね、お兄ちゃん。これで図鑑コンプにまた一歩近づくよ」
「だからなんだんだよその謎単語は」
そんなことを言いながら冒険者ギルドへの道を……少し遠回りしながら進む。大通りに出れば借金取りが、裏道を使えばマフィアが待っている。両方の警戒網を抜けて進んでいくのが天才、俺。冒険者として培った経験が生きるのさ。
バン、とギルドの扉を開ける俺。ふ、英雄の帰還に皆も注目だぜ。
「やあ、ミルキーさん。俺がいない間、寂しかったろ? 涙で枕を濡らすのはおしまいだぜ。今日からはベッドを濡らすのは別の液体だ。しっぽりぬっとりとした液体だぜ!」
ギルド内に入り、一直線にカウンターに向かう俺。そこにいるエルフの受付ミルキーさんに笑顔を向けて紳士的に挨拶する。周りのモブたちが『げ、ドミニクかよ』『うわ、ウザ』『いきなりセクハラとか死ねばいいのに』とか言っているが、ひがみの言葉など聞こえないぜ。
「はい。『冒険者エイラの捜索依頼』完了ですね。予定日よりもわずかに遅れましたが、事情を鑑みて遅延ペナルティはなしにしておきます」
俺の愛の言葉に冷たく事務に徹するミルキーさん。言うとおり、規定通りの銀貨をカウンターに置く。クール! そこに痺れるぅ、憧れるぅ!
「そこから3割をドミニク様の借金から差し引き、最終的にはこちらになります」
カウンターの上から銀貨が指で引き戻される。……クールだねぇ。
しかし知っている。この氷の仮面の裏には紅潮した顔があることを。興奮し、息を荒くして、俺というオスを求めていることを。エルフとはいえ、メスだからな。最強の雄である俺を前に発情するのも仕方ないぜ。
「よし、報酬は三等分だ。余った分は今日の宴会料ってことにするぜ」
「え? いいんですかぁ……その、小職が原因の依頼なんですよぉ……。少しマッチポンプっていうか、いろいろ悪い気がするんですけどぉ……」
「それぐらい気にするなって。依頼と関係ないところでしっかり働いたんだしな。手付金と思えば安いもんだぜ。
俺達、もう仲間だろ?」
俺、アーヤ、そして捜索対象だったエイラにも振り分ける俺。当然だろ、この程度の金でウダウダいうつもりはないぜ。決してここでお金を渡して逃がさないようにしているわけではない。このウサギ娘はチョロそうだし、少し恩を売ればそれで心を縛れそうってだけだ。
「仲間………そんなこと言われたらぁ……好感度が10上がりますぅ……!」
だから何だよコウカンド。
「これまでぇ、お兄ちゃんの事や前世の事を言ったらドン引きされてぇ……ずっと一人だったんですぅ。信じてもらえたのは、ドミニク主任だけですぅ……!」
別にコイツの与太話なんか欠片も信じてないし、あとシュニンてなんだ? 多分何処の組織階級なんだろうけど、心当たりはない。
「ねえねえドミドミ? このキラキラ何?」
そしてアーヤは銀貨を見て首をかしげていた。あ、コイツお金の概念を知らないな。文字も読めねぇし、悪い奴に騙されかねぇ。
「こいつはお金と言ってな。ざっくり言えば交換に使えるんだ。騙されないように俺が預かっておくぜ。決して泥棒するわけじゃねえ。管理ってやつだ。欲しいものがあるときには俺に行ってくれ」
「主任、お年玉を預かるお母さんみたいですぅ……」
俺を見ながら冷たい目をするエイラ。オトシダマってなんだよ?
「じゃあおめめほしい! まじん? この前の桃色ほわほわのぉ……はふぅ、ん……っ!」
言って顔を赤らめるアーヤ。腰をくねらせ、太ももをもじもじさせてる。口から涎が出そうなぐらいに脳みそピンクになっていた。服着て隠してなかったら、【
……魔人と言えば。
「あー、そう言えば魔人関係で俺に指名依頼があるんだっけか?」
「はい。ドミニク様、アーヤ様、エイラ様。そのパーティへの依頼です」
は? 三人を指名だと?
俺はスーパーウルトラグレイトミラクルワンダフルデリシャスヒーローだから指名されるのはわかる。皆が奥手だから俺に対して遠慮して、なかなか俺個人には指名が来ないけどな。依頼主が女なら、夜のベッドまでお付き合いする所存なんだがなぁ。
だが、エイラはスライムすら碌に使役できない【
アーヤに至っては言うに及ばず。冒険者登録したのはついこの前だ。しかも文字も読めずお金の概念すら分からない未開部族出身者ときた。おめめ狩るのに特化した【
何が言いたいかというと、俺はともかくエイラとアーヤを指名する理由が分からない。端から見れば妄想ウサギ娘と目玉蒐集娘。信用も実績もない冒険者を選ぶなんてありえない。
唯一あるとすれば、この三人が活躍した場面を見たヤツだけだ。そしてそれは――
「依頼主は
あの鉄拳聖女様しかありえねぇ。予想通りの依頼主と同行者に俺はお腹を押さえた。忘れたわけじゃねぇからな、あのアマァ……!
しかしこの俺の実力を頼るのは人を見る目があると褒めてやろう。ベッドの中でたっぷりしっぽりねっとりと上も下も褒めてやるからなぁ。殴られないように手足縛って!
「指名されたんじゃしょうがねぇ。受けてやるぜ、その依頼。お前達もいいよな?」
「おめめ! あたらしいおめめ!」
「お兄ちゃんがいいっていうのでいいです!」
メンバーの同意も確認したので、俺達はその依頼を受けることにした。魔人退治程度、鼻歌交じりでサクッとこなしてやるぜ。そんな感じで無双するのを
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