ドミニク、魔人を倒す!
十数体のギルマンが槍を持ち、ギルマンマッチョが指示を出す。
マッチョはギルマンの長だ。種族的に逆らえないようになっているのか、叫び声に合わせてギルマンは一糸乱れぬ動きで俺に槍を突き出してくる。3グループに分かれて3方向から俺を囲むような陣を取り、交互に槍を突き出してくる。
「やれ! その男を殺せ! 三方向から攻めるように命令しろ!」
そのギルマンマッチョに命令しているのが黒僧侶だ。確かに額に瞳がある。魔族の瞳は赤いが、そいつの額にあるのは青っぽい感じだ。魔族そのものの目ではなく、青い瞳に魔族の力を込めて移植されたと言った感じか。
「ガガガ! ガゴバ!」
「ガギョ!」
「ガガギョ!」
黒僧侶の怒りの声にギルマンマッチョが命令し、それに合わせてギルマンが動く。【
となるとこの三方向の陣形も黒僧侶の作戦か。思いっきり命令してたしな。人間の軍隊じみた槍兵の攻撃。リーダーの命令でそれなりの形になっているが、訓練されてないこともあってタイミングのずれは生じる。
不慣れな陣形。不慣れな命令。普通の奴なら些細な事だが、俺にとっては致命的なズレだ。
迫る三本の槍をしゃがんで交わし、突き刺してくる穂先を転がって避ける。二本ずつタイミングをずらしての突きを両手のダガーを振るって弾き飛ばす。ギルマンに踏み込むように足を踏み出して攻撃タイミングをずらし、そのずれを縫うようにして安全圏に離脱する。
ヌルいヌルい。こんなフェイントで翻弄される程度じゃ、俺を殺すどころか傷つけるのも無理じゃねえか?
「おいおい、もしかしてこれが攻撃のつもりか? ヌル過ぎてあくびが出るぜ。あ、もしかして俺を寝かせようっていう魂胆か? だとしたら女でも連れてくるんだな。いい女ならベッド添い寝してやってもいいぜ。もっとも、寝ねぇし寝かせねぇがな」
言って腰を動かす。男ならわかるだろ? って顔をしたら黒僧侶は怒りで顔を赤くした。なんだよあいつ、童貞か? そういう店に連れて行った方がいいかもな。意外と化けるかもしれねぇぜ。
「下品な奴め! 貴様のような奴と同じ大地を踏んでいることが恥ずかしい! むごたらしく殺してサメに食わせてやる!」
「殺す? 誰が誰をだ? お前が俺を、なんて冗談はやめてくれよな。後ろで命令するしかできないくせに、このドミニク様を殺そうだなんてたいした大法螺だ。その虚言癖だけは褒めてやるよ」
スキルを伴わない言葉のやり取り。なのに一言ごとに黒僧侶は地団駄を踏み、悔しさをあらわにする。よっぽど癪に障ったんだろうね。後ろにいるってのと、虚言癖のどちらかが。或いはどちらもか?
「確かにお前が後ろで命令しているほうが俺が楽なのは確かだな。指示は曖昧でへたくそ。数の優位を一切生かせていないヘボヘボ頭脳。野生に任せてギルマンらを暴れさせたほうがいいんじゃないか? 大将もそう思わないか?」
【
あのマッチョなら攻撃して注意を引き、その間に部下に側面と背後に回らせるぐらいはやるだろう。魚には魚の戦術がある。ま、だとしてもこの俺には些末事。勝率0%が1%になるだけさ。
「お前も不遇な上司で大変だな。どうだい、一杯やらないか?」
「グガガ!」
【
「ふん! 何かのスキルを使ったようだが、僕の【
スキル対決に勝った黒僧侶は急にイキリ出す。やだねぇ、童貞は。わざわざ自分のスキルを公開しちゃって。言わなきゃわかんないし弱点も暴露せずに済んだのに。
「くそぅ、俺の【沈静化(カームダウン)】が効かないとか、やべぇじゃねえか! あいつを大人しくさせれば何とかなったのに!」
悔しそうにそんなことを言う俺。【
言うまでもなく、大嘘だ。俺が使ったのは【
黒僧侶から見たらスキルの内容は分からない。分かるのは俺がスキルを使い、それが効かなかったという事。そしてそれは切り札的で、もう俺は避けるスキルしかないこと。そう思い込んでいるはずだ。
「避けろ避けろ! どこまで避け切れるかな? 逃げてもいいんだぞ。そうしたらお前の仲間は串刺しだ! アロン様に捧げる生贄にしてやろう。その前にギルマンの慰み者だな! お前は腹の中だがな!」
愉悦の感情で笑みを浮かべる黒僧侶。おうおう、調子に乗ってきたなぁ。そんじゃ、仕上げと行くか。
「やめろ! エイラに手を出すな! そいつを傷つけたら許さないぞ!」
はー。我ながらクサいセリフだぜ。でも俺の動揺に黒僧侶の笑みは深くなる。こういう時、こういう奴が言うセリフって決まってるよなぁ。
「は、許さないとどうするんだ? おい、何匹かそこのケモノを襲わせろ。泣き叫ぶ姿をそいつに見せてやれ」
んー、血を見せないのでマイナス20点って所か。ま、童貞のガキ僧侶ならそんな所か。
「ガギギ!」
そしてギルマンマッチョの命令で三方向から攻めるの一翼の一部がエイラに向かう。――俺の作戦通りに。
「仲間が汚されるところを見てるんだな。避けるだけの貴様に止める手段はないだろう? 心折れる様を見てやるよ!」
いやまあ、ここで向かった奴に【
「おい、エイラ!」
なんで俺は話しかける。
「ギルマンたちがお兄ちゃんをイジメようとしてるぞ!」
エイラに向けて、最大限の地雷を。
「お兄ちゃんに触るなァアアアアアアアアアアアアア!」
倒れていたエイラはその一言で逆立ちするようになってから立ち上がり、近くにいたギルマンに蹴りを放つ。二度三度蹴ってギルマンの意識を奪っていく。ウサギ獣人の脚力と【
なお、スライムの奴はエイラが倒れた瞬間に逃げて、近くの木の後ろにいる。実力を考えれば当然の動きだ。ザコは引っ込んでな。
「ホワアアアアアアアア! バイクお嫁! ギルマン死すべし慈悲はない!」
なんだかよくわからんことを言いながら、自分を襲おうとしたギルマンを倒すエイラ。その後は横腹を突く形で俺を攻撃しているギルマンに飛び掛かった。うむ、作戦通りだけどちょっと怖えな、これ。
「な、なんだ!? 何が起きているんだ! おい、止めろ!」
「ガガ! ゴゴオオオオ!」
倒れていたウサギが奇声を上げて暴れだしたのだ。しかも数の優位を覆す勢いで。その現実にパニくった黒僧侶はギルマンマッチョに向かって命令する。我が意を得たりとばかりに動き出すマッチョ。だけど――
「そうはさせねぇぜ。お前は俺と遊んでいけ。もっとも、お前程度じゃ俺の遊びにもついてこれねえけどな。」
魚マッチョに向けて【
「な、なにをしているんだ!? おい、僕のいう事を聞け!」
自分のスキルがうまく働かなくなってパニックが増す黒僧侶。しかしマッチョは言うことを聞かずに俺への攻撃を繰り返す。当たり前だけど、俺に当たるわけもない。おいおい、もうちょっと狙えよな。筋肉が泣いてるぜ。
黒僧侶にこの状況を覆すことはできない。【
やれるとしたら【
そしてこの状況に至っても自慢の【
エイラとギルマンの戦闘力は比べるまでもない。エイラの足が振るわれるたびにギルマンは大きく揺れ、倒れていく。リーダーの命令があればバフがかかりひっくり返ることもあるだろうが、そのリーダーは俺と遊んでいる。命令する余裕もない。
時間はかかるだろうが、これで終わりだ。ったく、めんどくせぇ。本来ならこいつらと助けた聖女様の三人で倒してもらう予定だったのに。こんなザコ程度にこの俺が動くとはなぁ。金にもならないし楽したかったのによぉ。
あん? 初めから真面目に働け? 楽できるところは楽したいのが人間てもんだろ?
「まだだ……! まだこの女を使えば! おい、アイツラを殺せ!」
パニックに陥った黒僧侶は【
「ば、ばか野郎! なんてことしやがる!? もうちょっとマシな命令しやがれ!」
言って俺は大きく横に跳ぶ。恥も外聞も捨てて、地面を転がった。
「は? ははははは! どうやらこの女がお前たちの中で一番強かったようだな! どんなスキルを持っているか分からないがこれでお前たちも終わ――ごふぅ……!? あ、ががが、何だ、これ、は……ガアアアアアア!?」
黒僧侶は攻撃をするアーヤ――【
あの苦しさは知っているぜ。頭痛と吐気と腹痛と関節痛が一斉に襲い掛かってきて、皮膚が泡立ったみたいにざわめいたかと思うと痒く痛くなって、呼吸が上手くできなくなって耳が圧迫されて、それでも眼だけは最後まで無事なんだよな。俺も何度かヤバかった。
黒僧侶の悲鳴に振り返るギルマンとギルマンマッチョ。【
踊りを見た敵味方全部が呪われる。俺はとっさに転がって目を逸らしたが、エイラも聖女様もその範囲内。エイラはアーヤを目に捕らえたのかお腹を押さえており、聖女様は殴られて弱ってるから抵抗もろくにできないだろう。
このままだと俺とアーヤ以外は呪いで死ぬな。抵抗力の弱いギルマンとマッチョはすでに力尽きている。次は聖女様か近くで見ている黒僧侶か? くそ、面倒だけど俺がやるしかないか。
「アーヤ。お前が欲しい目玉はここにあるぜ! 取りに来いよ!」
イヤだなぁ、と思いながらアーヤに【
「ドミドミのお目目、ドロッと濁ってるからいらなーい」
俺の目の前で眉を歪めて唇を尖らせ、不満を言うアーヤ。精神支配が解け、俺を襲おうと思ったけど汚いから目が濁ってるからと目覚めたようだ。
「そこまで嫌かよ」
俺の【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます