ドミニク、魔人と戦う!
魔人。
かつて世界を駆けて戦った超勇者と大魔王。その大魔王の血を継ぐ魔族という奴らがいる。
魔族、とは言うが厳密にこれこれこういう形をしているという事はない。赤い瞳と頭にいくつかの角が生えている以外は多種多様。アーヤの褐色みたいに肌の色が違うどころか、大きさや生活環境も異なる。火山地方や海の中など、様々な場所にいるのが魔族だ。
魔族は自分の力を動物や人間に転写することができる。【
だが力を与えられた動物は写されたスキルの影響で凶暴化する。ただの猪が魔族に力を与えられ、多くの動物を伴ってまちを踏み荒らす事件も起きるぐらいだ。
で、魔族に力を与えられた人間を魔人という。魔族の力は人間のスキルをはるかに凌駕し、軍が出動するぐらいだ。そんな力を与えられた魔人も、一介の冒険者ではまず太刀打ちできない。
ま、俺なら勝てるがな。実際、勇者パーティにいた時は幾度となく魔人やその背後にいる魔族を倒してきたぜ。主にフォッカーの活躍でだろって? 活躍を譲ってやったのさ。
「オマエが! オマエが僕を不幸にしたんだ! だからオマエは僕に従うべきなんだ! その体を汚して! その
黒僧侶は言うと同時に額を聖女に向ける。アーヤが言うには、そこに三つ目の目があるという。おそらく魔族に与えられた力だろう。そいつの額が淡く光り、それを直視する聖女の表情が歪んでくる。
「魔眼……ですか……!? 卑怯千万、とはまさに……ワタシの心に、やめ、……ワタシの心は、ヴェラー様の……」
「女神への忠誠で抵抗しているみたいだけど、それも時間の問題だよ。ボクの【
【
「すぐにお前もコイツ同様にボクの奴隷入りだ。意識を保ったままギルマンたちの玩具にしてやるよ!」
ギルマンマッチョを指さす黒僧侶。成程、スキルで言うことを聞かせているのか。そいつが魔族から与えられた力だな。【
あとはゾンビを操作してたっていうから【
黒僧侶のスキル構成はそんなところだろう。魔人とはいえ人間だからスキルの最大数は変わらない。【
「私は……私は貴方のようなものに……うう、あああああああ……!」
苦しむ聖女。ゾンビ討伐依頼をかっさらったんだから、もう少し苦しんでくれないとな。体つきはともかく、顔はそこそこいいから苦しむ姿は相応にエロい。こういう展開を望む読者がいるからな。ふ、空気読んでるぜ俺。
実際問題として、あの聖女を助けに行く義務はない。依頼失敗したのはあいつの落ち度だし、俺の依頼はエイラを連れ帰ることだ。危険を冒してあの黒僧侶を倒す必要性はなく、ついでに言えば倒しても何の得もない。
だからどうした?
俺は超英雄ドミニク様だ。損得で判断するような三流冒険者とはわけが違うのさ。ここであの聖女を助けて恩を売れば素直になってくれる。ドミニクさんステキカッコイイ抱いて、って感じにな!
「ねえドミドミ。おめめえぐりに行っていい? あのおめめ、欲しいのぉ……!」
「レアギルマン! レアギルマン! 戦闘開始ボタンはよ! はよ!」
――決して後ろから戦いたいとせっつく女たちに気おされてたわけじゃない。無いぞ。無いったらないぞ。本当だからな!
「分かったわかった。ただし俺の作戦通りに動けよ。三人で魔人+アルファを相手するとか、俺じゃなかったら絶望的なんだからな」
俺の言葉にうなずくアーヤとエイラ。こういう所は素直でよろしい。後はもう少し俺への態度も素直になってくれればいいんだがな。ま、俺への好意があふれ出してフィーバーするのは時間の問題だ。
言っても作戦は簡単だ。俺が【
そんなわけで作戦開始。俺は注意を引くために堂々を儀式の輪に近づいていく。拍手をしながら声を上げ、先手を打つ。
「おいおい。魔族の力を借りて女を洗脳とは小物だな。自分の(放送禁止用語)に自信がないってか? 魔族にもらうならそっちをもらうべきだったな。僕のアソコを魔族並にしてください! ママンを喜ばせたいんですってな!」
口火を切るのは俺の【
「釣り針もないのに陸に上がってくるとは酔狂な魚だな。わざわざ人間達に食われに来たのか? まな板の上に寝て大人しくしてな。そこならぴちぴち跳ねてようが叫んでいようが好きにしていいぜ。俺、優しいなぁ!」
言って嗤う。人間の言語を理解できるほど知性は高くはないだろうが、スキル効果で精神自体に効果を与えることはできる。言葉が通じれば威力も上がるが、ギルマンごときに抵抗されるはずもない。
「マ、マ……ママを汚そうなんてそんなこ、バカ野郎! ぶっ殺すぞ!」
怒り狂った黒僧侶は顔を赤くして俺を指さす。おうおう、効果てきめんだぜ。マザコンだと思ったけど、どうやら大当たりのようだ。
「殺す? そいつはお前がママンをひぃひぃ言わせて殺すってことか? そんなちいちゃいので満足できるんだから大したことねぇな、ママン。教会での権力争いに負けて泣いてるんだ。慰めたらワンチャンあるぜ。ちっちゃいけど頑張りな」
「オマ、オマエ! オマエ死ね! やれ!」
「ギガルガ! ガガルガ!」
黒僧侶の命令に動くギルマンマッチョ。ギルマンたちに命令を下して、マッチョ本人も俺に向かう。俺は腰のダガーを抜いてギルマンマッチョに向かった。へっ、図体デカい奴の攻撃を避けるぐらい朝飯前よ。こいつを引き付けている間にエイラにザコを始末させ、ほぐわぁ!
「なななな、なんだぁ!?」
横から衝撃を受けてすっ飛ばされる俺。なんだ、伏兵がいたのか!? 回転するようにして身を起し、迫るギルマンの槍をダガーで弾く。ギルマンマッチョと伏兵の追撃を予測してそちらを見れば、
「カポー! お兄ちゃんの命令に従いレアギルマンはカホが相手するカポ! 今宵のハンガーは血に飢えているカポ!」
エイラアアアアアアアアアアア!? お前か。お前が俺を横から蹴っ飛ばしたのか!?
「お、お前何してんの!?」
「リーダーの作戦よりもお兄ちゃんの作戦の方がいいと思ったかカポ! さあ、レアギルマン、勝負カポ! ラウンドワン、ファイト!」
「いや待て!? オマエとそいつじゃ相性悪いんだよ!」
一撃必殺パワー系のギルマンマッチョの攻略はその攻撃を受けないことが前提になる。エイラのスキルは蹴り技強化ではあるが、回避自体はそこそこだ。俺が押さえているほうがベストなのである。
「く、しかしまだ持ち直しはできる!」
俺とエイラの戦いはあくまで相手の気を引く程度。キモは黒僧侶の注意を引いている間に聖女を救い出しての戦力強化だ。聖女がどれだけ弱ってるかはわからないが、回復魔術の有無は戦況に影響する。
「ねえねえ、そのおめめキレイね」
なっ、にいいいいいいいいい!?
その聖女救出役であるアーヤは、堂々と黒僧侶の前に身を乗り出す。隠密なんてあったもんじゃない。
あの女、珍しい瞳を前に我慢できなくなったな!? 作戦思いっきり忘れてやがる!
「ああん。それ、触りたい……見たことない瞳。その目で見られるとあーしブルってきた」
アーヤは紅潮した顔で昂奮を隠そうともせず、体を震わしている。当然そちらに目を向ける黒僧侶。
「あはぁ。頭、真っ白になっちゃう……見られてるだけで、体中ぐちゃぐっちゃにとろけそ、ぅ……んん、っ」
「あ、ばか! そいつの目を見ると――!」
アーヤは瞳をとろんとさせて、腰が砕けたように崩れ落ちる。びくびくと体を振るわせた後で起き上がり、その瞳が淡くハート状に光っている気がした。え? なにそれ。いや何が起きているかは理解していた。
「……命令をください。マスター」
【
「ふん。戦闘で気を引いている間にユーリアを助けるつもりだったか。しかし間抜けだな。目がどうとか言っていた所を見ると、魔族の契約部位を集める趣味があるようだな。
【
そいつの【
「はぐわぁ! ……も、無理……お兄ちゃん、ごめん……ねむ……」
そして隣ではギルマンマッチョに挑んだエイラがマッチョ拳に殴られて気を失っていた。ああ、もう。だから俺がやるって言ったのに。
受け身はきちんととったみたいだけど、眠るように動かなくなる。呼吸もしっかりしてるし、ダメージ自体は軽そうだ。……60時間狩りっぱなしとかだったし、もしかしたら本当に寝ただけかもしらんが。
「あとは貴様だけだ。さんざんママのことを罵ってくれたな。お前だけは生かして返さないぞ!」
黒僧侶の言葉と共にギルマンマッチョの殺意が向く。ギルマンの攻撃を避ける俺だが、マッチョと黒僧侶が加勢すれば面倒なことになる。黒僧侶はともかくマッチョの攻撃は一撃食らうとめんどくさい。
ギルマン十数体にそのリーダー出るマッチョ。そして魅了する力を持つ魔人。普通の冒険者ならここで敗北。そのまま女たちはギルマンたちに(自主規制)されて人生おしまいってところだな。
「へ。生かして返さないとかきたか。そんな言葉を言うのはまだ早いぜ。ここから逆転するのが超絶英雄ドミニク様なのさ」
黒僧侶の言葉に笑みを浮かべる俺。まったく、こんなのピンチの内に入らねぇぜ。
ここからどうやって逆転するかって? そいつは次回までのお楽しみだぜ。
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