ドミニク、魚人が集う廃村を見つける!

「足跡はあそこに続いていますぅ……」


 エイラがわずかに残った足跡を見ながら進むこと2時間。指さす先には小さな村があった。正確には村だった場所だろう。人の気配はなく家はボロボロ。未知には草が生え放題。元々田んぼだっただろう場所は湿地になっている。


「よし、偉いぞエイラ。あそこに何かがいるのは間違いないぜ」


 スキルのない素人なら見逃していただろう森の足跡を、根気よく見つけ続けたのだ。鍛えられた【野伏レンジャー】スキルもそうだが、その集中力もたいしたものだ。ま、俺ならスキルを使うまでもなく見つけられただろうがな。


「おめめ! なんかすごいおめめ―!」


「お兄ちゃんのために頑張りましゅ!」


 俺の発破に気合いが入るアーヤとエイラ。テンションの上がり方が些か特殊だが、個性個性。気にしたら負けだ。女の好みにケチをつける男は三流。同意するだけなら二流。一流はそれを満たしてやることだ。


 もっとも、俺のような超一流になればそんなことをせずともモテモテだがな。ふ、未来のハーレム王になる自分の運命が怖いぜ。先ずは城を購入しないとな。名前はドミニク城。間違いなく歴史に残る城になるだろう。


「ドミドミ、なんかキモイ」


「小職知ってますぅ。あれ、酷い妄想している顔ですよぉ……。前世の上司もあんな顔した後に、デスマ確定な事を言いますからぁ……」


 俺の確定未来に対して少し離れた場所でなんか言ってるハーレム要員達。ふ、照れるなよ。お前たちの話でもあるんだからな。


「で、どんなおめめなの? ドミドミ」


「それは見てのお楽しみだぜ」


 実際の所、本当にギルマンが大移動しているだけとか言うオチもあるので過剰な期待は禁物だ。反動で俺の目玉がえぐられかねないしな。その時用の言い訳を考えておこう。すでに逃げたとかでいっか。


 太陽はもうすぐ地平線に沈みそうな時間だ。空は暗くなり始めている。ギルマンが夜目に長けているという話は聞かない。闇に紛れて移動すれば、見つかることなく村の中を移動できるだろう。


「隠密系のスキルは誰も持ってないからなぁ」


 言いながら村に向かって移動する俺。泥棒なんてこそこそするような真似をする俺じゃない。正々堂々とした男の中の男。それが俺なのさ。女湯とかそういうのは例外だ。あれは黙って覗くのが作法だからな。作法だからこっそりするのは仕方ない。


「ねえねえ。スキルってすきるしーど? それを食べれば隠れるスキルももらえるんでしょ? だったらそのおんみつけい? そのスキル食べたらいいんじゃね?」


 後ろをついてきながらそんなことを言うアーヤ。スキルの事をよく知らないから出てくる疑問だ。ふぅ、無知だなぁ。ここは先達にして賢人であるドミニク様がレクチャーしてやろう。


「そいつは悪手だ。スキルってのはたくさんあればいいってわけじゃない。広く浅くなっちまう」


「ヒロクアサク?」


「持てるスキル数には限界があるのさ。魂にポケットみたいなもんがあって、その中に入れられるものに限りがある。そんなイメージをしてくれ。それ以上のものを入れようとすると、元あったモノは零れ落ちてしまうって感じだな。


 人間やエルフや獣人と言った亜人系種族は多くて三つが限界だ。四つ目の技種スキルシードを食うと、それまで持ってたスキル三つは消えてしまう」


 スキルを会得する者には常識の話だ。


 魔物の類は人間より会得できるスキル数が少ないが、アイツラは肉体や精神の構造が人間より強いので総合的にトントンだ。ゴブリンは肉体が弱い分連携する能力が高いし、ギルマンは水中だと戦闘スキル持ちの人間よりも強い。


 どこかの学者はそういう種族ごとの特徴や強みは『種族スキルというモノではないか?』とか言ってるけどな。まあよくわからん。


 あと超勇者や大魔王の血統を持つ『勇者』や『魔族』は三つ以上のスキルを持てる。ポケットが広いというか、そいつらが持つスキルの【勇者ブレイブハート】【†魔族†デモンブラッド】はスキル限界を超えるスキルだという。


 余計な話だったな。ともあれ、持てるスキルは基本三つだ。


「ふーん。でもドミドミのスキルって二つだよね? もう一つ入れられるんじゃね?」


「そうもいかねぇ。前も言ったけどスキルは成長するんだよ。その成長幅にも限界がある。さっき言ったポケットの大きさまでって感じだな。ついでに言うと新しく三つ目のスキルを取ると、成長したスキルがしぼんで元の大きさに戻ってしまうのさ。


 ポケットの広さの分だけ成長できるんで、スキルが少ない方が成長幅はおおきくなる。ギチギチ三つ入ってるスキルが膨らんで大きくなるよりも、一つだけのスキルだと膨らみ方に余裕があるだろ? そんな感じだ。


 俺の【挑発プロボック】も【蝶の舞踏バタフライダンス】もかなり使い込んで成長した。三つ目のスキルを取っちまうとこの成長がリセットされるんだよ」


 闇の中を進みながら小声で説明する。アーヤは納得したのか相槌なのか、ふーんと返事を返してきた。


「つまり、あーしが新しいすきるしーど? それを食べたらエモエモとかおめめデコとかが消えちゃうってこと?」


 おめめデコってのは【死霊術ネクロマンサー】でえぐった目玉に魂宿して保存してることか? 相変わらずこいつの部族語はわからん。


「そういうこと。従来の【呪紋ジュモン】と【死霊術ネクロマンサー】になるって寸法だ。初期状態だから鍛え直しで、しかも食べる前ほど幅広くはならないぜ」


「テンさげぇ……」


 スキルの成長は個人様々だ。アーヤなんかは顕著だろう。『体を動かしている状態の紋様を見た者』という限定をして呪いの強度をあげたり、『対象を目玉』に限定して死体の保存率や術の強度を増したり。


 逆にエイラは【蹴り格闘キックスタイル】【野伏レンジャー】【調教師テイマー】のスキルを持っているが、特に変わった成長があるわけではない。強いて言えば比率的に【調教師テイマー】の成長が弱く、【蹴り格闘キックスタイル】が強いぐらいか? スライム一匹従わせられないもんなぁ。


 ちなみにスキル一つだけを成長させている者を『純粋種ピュア』。スキル二つだと『双子種デュオ』。三つだと『三重種ドリアド』と言う。俺やアーヤは双子種デュオ。エイラは三重種ドリアドって感じだ。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! スキルのチュートリアルはここだったんですね! 何も考えずにスキルゲットしたカホが馬鹿だったんですぅ! お兄ちゃん御免なさい!」


 なんか後ろでスライムに体当たりされてるエイラが小声で謝っていた。ちゅーとりある? よくわからんが、いつもの戯言だろう。バレるほど大声でもなさそうだし放置。お兄ちゃん関連は下手につつくと大声出してキレかねないし。


「ギガガガ!」


 ダン! ダダン! ダン!


「ギッ、ガガッ、ガ!」


 ダダダン! ダダダン!


 などという事を説明しながら村に近づいていくにつれて、そんな声が聞こえてくるギルマンがリズムカルに叫んでいる音だ。太鼓のような音も聞こえてくる。祭りのような感じだ。


「どうやら足音を隠す必要はなさそうだな」


 ギルマンの叫びで俺達の足音なんか消えてしまうだろう。合図をして一気に村に入る俺。村の中央に広場があり、ギルマンの叫び声はそこから聞こえてきた。松明を掲げているので、その様子も見て取れる。


「何かの儀式だな」


 広場を円状に囲むように設置された松明。数十名のギルマンが松明の近くで太鼓を叩いて叫んでいる。


 その視線の先には黒い僧侶風の服に身を包んだ男。そしてギルマンを一回り大きくしたようなヤツがいる。通常のギルマンが人間大だとするなら、そいつは2m半ほどある。ギルマンマッチョ。そんな感じだ。正式名称はギルマンリーダーだけどな。


「くっ、ヴェラーの聖女であるワタシがこのような辱めを受けようとは……!」


 そしてその視線の先には両手を縛られて宙づりにされた女がいた。動きやすそうな聖堂女の服は激しい戦闘の後を思わせるほど破損している。反抗的な瞳と口調ではあるが、肉体的な疲労は隠しきれないのか呼吸は荒い。


「ドミドミ、あれって聖女さんじゃね?」


「だな。ゾンビ依頼をかっさらった聖女だ」


 あの顔と体型には見覚えがある。冒険者ギルドで俺に惚れてるけどツンな態度をとっていたヴェラーの聖女だ。ふ、言葉ではあんな態度をとっていたけど俺の事が忘れられなかったようだな。こんな出会い演出をするなんて。


 大方ゾンビ依頼でこの村に来て、いろいろあって捕まったって所か。ふ、俺ならそうはならなかったぜ。まあ俺のような天才的な頭脳と行動力を持てと言うのも無理な話。しかたないな。


「こうなっては聖女の力も形無しだな、ユーリア。もはや抵抗する力も残っていまい」


 黒僧侶男は吊られた聖女に向けてそう言う。そこには愉悦と、そして復讐の声があった。ユーリアという女に向けられた黒い感情。それが言葉となり、そして行動となって表れていた。


「モラレス家の三男ともあろうものがアロンの眷属に身を捧げたとは……! 海難を司る邪神の力を借りようなど極悪非道にもほどがありますわ! この村に住んでいた人たちをゾンビにして操るだけでは飽き足らず、海の眷属を呼びこむための領域にするなど許されるものではありません!」


 しかし聖女様も負けてはいない。よく回る口で相手を罵りまくる。僧侶男は反論できないのか、顔を赤くして嫌がるぜ。おいおい、いいようにやりこまれてるぞ。大丈夫か?


「ええ、まさに尸位素餐しいそさん! 信望者からの奉納と国税で賄われている神殿の責務を放棄してこのような事をするなど外道の極み! 言語道断にもほどがあります! 如何に立派な目的があったとしても魔族の力を借りた貴方に正義はありませんわ! いずれ来る正義の裁きを待つがいいで――


 ――あぐっ!」


 聖女様の口撃は続く。なんか難しそうな言葉を言って相手を責めていたが、ギルマンマッチョの拳がそれを止めた。腹に強い一撃を受けて痛みで悲鳴を上げた。


「黙れ! 黙れ! 黙れ! オマエのそういう所が嫌いだったんだ! オマエがいなければこの僕がヴェラーの神官長になれていたんだ! 聖女の技種スキルシードは僕のママが得るはずだったんだ!


 それをオマエが! オマエが技種スキルシードを得たから! オマエさえいなければ! オマエさえいなければ!」


 黒僧侶の言葉に連動するようにギルマンマッチョが聖女を殴る。あいつも【調教師テイマー】系のスキルを持っているって所か。ゾンビも操っていたからそれ系もか。あるいは――


「ドミドミ、あの人お目目三つある! 額に赤いお目目! やだキャパい! エグち!」


 隣で悦び(誤字に非ず)の声をあげるアーヤ。よく見えるなぁ、コイツ。だけど本当にその通りだというのなら、確実に言えることがある。


「ヤッべぇな。魔人かよ」


 隣のギルマンマッチョなんか比じゃない厄介な相手を前に、俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


 強敵登場って感じだぜ。ま、ビビる演出も大事ってことだな。読者アンタもドキドキするだろ? それを華麗に退治する、俺。その活躍を期待してくれ!

 

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