ドミニク、ウサギ獣人を勧誘する!

 ギルマン。


 前も言ったけど海の中に住んでいて、時々陸に上がって暴れることがある。魚だけど地上でも普通に動けるし、結構パワーはある。船にいる漁師に襲い掛かったり、浜辺までやってきて槍もって暴れたりと、迷惑千万な奴らだ。


 基本的にはさっきみたいに集団で現れる。徒党を組んで一斉に襲い掛かり、連携だった動きと命知らずの突撃で多くの血を流す。知性は高くはないがけして愚かではなく、地の利で勝る水中から攻められれば慣れた者でもあっさりやられかねない。


 ま、この俺からすればどうという事はない。以前戦った時は連中の仲間を一人捕え、【挑発プロボック】しながら砂浜で魚を焼いてやったら一斉に水の中から出て襲い掛かってきた。見事な作戦だったけど、依頼人を含めていい顔はされなかった。解せぬ。


「こっちこっち。あーしを見てぇ」


 でもまあ今回はそんな作戦を取る必要はない。ギルマンの方から勝手に陸に上がってくれる。上がってきたギルマンはアーヤの踊り……というか【呪紋ジュモン】を見て呪われていく。


「ゴギギギギギ!」


「ウオオオオオオ!」


 見たものすべてが呪われるという厄介な呪いだから、どれだけ数がいようとも見た全員が呪われる。こいつらの選択肢は二つ。目をそらして逃げるか、呪いではテルマエにアーヤを倒して踊りを止めるか。


「シャアアアアアアア!」


 そしてギルマンは交戦的だ。呪った相手を槍を掲げて突撃してくる。ゴブリンよりも体力があるので、このままだとアーヤは槍に貫かれてしまうだろう。


「雑魚は引っ込んでるカポ!」


 しかしそんな無様な事にはならない。ギルマンの突撃を止めるべく。エイラが立ちふさがった。ハンガーを両手に構えてギルマンに迫り、地面を滑るようにギルマンの足に蹴りを放つ。そのまま背中の力で跳ねるようにしてギルマンの顔を蹴り上げた。


 元よりアーヤの呪いでデバフかかってる状態だ。ウサギ獣人の鋭い動きに対応できるものではない。エイラの足が振るわれるたびにギルマンは倒れ、そのダメージとアーヤの呪いで力尽きていく。


「俺が出るまでもなかったな」


 何かあったらフォローに入ろうと待機していたが、全く危なげなく戦闘は終わった。俺の作戦勝ちだぜ。もっともパーフェクトとはいかかなかったがな。ちょっとアーヤの呪いの影響を受けてしまったぜ。


 背後ならアーヤの【呪紋ジュモン】は効果はないんじゃないかと思っていたが、そんなことはなかったぜ。いいケツの動きだったが、代償は大きかった……ゲフゥ……。目を逸らすのがもう1秒遅かったらヤバかったな。4秒が限界か。勉強になったぜ。


 倒れてもう動かないギルマン7体の死体が出来上がった。アーヤは喜び勇んでナイフを手にしてギルマンに迫る。


「おめめ、おめめ♬」


「さっきも集めたのにまだ目玉えぐるのか?」


「分かってないなぁ、ギルギルは。この子達はあーしのことをガン見してたのよ。殺意と恨みと、そして熱意。この子の目を見るたびにその感覚を体が思い出すの。キュンキュンしちゃう♡」


 おうおう。メスの顔だなぁ。手に目玉と刃物持ってなかったらそそる光景なんだけど。


「お兄ちゃん直伝のハンガーとカポエイラを組み合わせた究極の格闘術! その名をカポカホ脚! お兄ちゃんの凄さの前に、お前たちなど塵芥カポ!」


 そしてエイラはエイラでハンガーをもって訳の分からないポーズを決めている。語尾にコポとかつけて、ついさっきまでのテンションとは大違いだ。


「なあ、なんなんだそのノリは?」


「ひゃああああああああ! あうあうあうあうあうあ……その、ノリが悪くて済みましぇん! 空気読めなくて済みましぇん……! 小職、死んでお詫びします」


「いや死ぬんじゃねぇ。依頼果たせなくなるから。確かにそのノリにはついて行けないけど」


 アップダウンが激しいというか上と下が極端というか。多分こっちが素なんだろうけど、戦闘中のキャラがわけわからん。……まあ前世とかスライムがお兄ちゃんとか分からんことだらけだが。


「一つずつ聞くけど、なんでハンガーなんだ?」


「お兄ちゃんがハンガーを持った格闘技が最強だからって教えてくれたからです」


「スライムだよな、お兄ちゃん。手足ないのに何で格闘技なんか――」


「お兄ちゃんのいう事を疑うんですかぁ!? 前世のお兄ちゃんはきちんと手足があったんですぅ! 学校を襲ってきたテロリストを瞬殺したぐらいなんですからぁ!」


「ステイステイ! 分かった疑わない!」


 鋭い殺気をぶつけられ、慌てて制止する俺。ふ、力づくで勝つことは余裕で出来るが、女子供に手を出さないのがドミニク様なのさ。そういう事なんで平和に行こう。平和に。コイツの蹴り、本気で痛いんだよなぁ。


「ちなみのその戦闘スタイル……カポって言ったり喋り方もお兄ちゃんの指示か?」


「はい! ブラック企業で働く以外は何のとりえもない小職ですが、全異世界中でも最高に頭がいいお兄ちゃんは戦い方を教えてくれました!


 ハンガーを蹴りを合わせた最強格闘術! 明るい喋り方やセリフ! 元の世界でもVチューバーでトップを取れるんだけど、あえて公開しなかったアイデアを小職なんかに教えてくれたんです!」


 目をキラキラさせて言うエイラ。ぶいなんとかとかよくわからないが、アレがウケるとかどういう感性してるんだ? アイデアを出さなかったのも、出してウケなかったら自信無くすとかそんな小心者だったんじゃないか?


 喉元まで出かかった言葉をぐっと飲みこむ。大事なのは真実じゃねぇ。このウサギ娘とどう付き合うかだ。そしてそのキーは間違いなくスライムことお兄ちゃんであることは間違いねぇ。


「とにかく、その教えのままにモンスターに襲い掛かってると。じゃあなんで普段はそんなに弱気なんだ? お兄ちゃんに普通の時の喋り方を教えてもらえばいいじゃないか」


 正直、何かあったら頭下げたり命絶とうとしたりするよりは、あのアホみたいなハイテンションの方が楽……ではないけどマシだ。


「その……普通の喋り方をお兄ちゃんに聞くと、怒られるんです……。そんなの自分で考えろって……。小職もお兄ちゃん以外と話すのは苦手なんで、その、こんな感じになって……。冒険者ギルドの依頼の時も、心臓爆発しそうでしたぁ……、えへえへっへへ」


 なんだそれ? 戦闘中の馬鹿みたいなキャラは思いついて、普通の会話ができない? 挨拶とかしたことないのか? ずっと家に籠って外に出ない限りは会話ぐらいするぞ。まあ、スライムだしそんなもんなのかもな。


 総括すると、エイラは『スライムをお兄ちゃんと思っていて』『お兄ちゃんのおかしい教えに従っている奇人』なわけだ。前世とか異世界とかはわからんが、まあお兄ちゃんとやらの不思議ワードなんだろう。その辺はどうでもいい。


「つまりエイラは一人だとろくに依頼もこなせない……どころか依頼を受けることも難儀しているわけだな」


「は、はひぃ……。コミュ障なのでお兄ちゃんに迷惑かけてばっかりでぇ……。


 見習い時代はブラック企業の感覚で心を閉ざして頑張ってましたけどぉ、その人達からは気味悪がられてそれ以降は会ってないんですぅ」


 ブラックとか企業とか分からんが、嫌われたんだろうなという事はわかる。こんな性格だしなぁ。


「よし。なら俺のパーティに入れ。依頼を受けたりとかその辺のことは全部やってやる」


「は……ひ?」


 俺の提案によくわからないという声をあげるエイラ。ふ、俺の天才的提案はさすがに凡人には理解しがたいか。初手で虚をついて思考の壁を取っ払い、その後で相手の欲しい物を突き付ける。交渉の基本だぜ。


「お兄ちゃんの為にお金稼いだりレアモンスターとかを狩りたいんだろ? 俺のパーティに入ればそれも可能だぜ。お前はそのカポカホ脚だっけか? それで戦ってくれればいい」


「しょ、しょんな……小職を仲間に誘いたいだなんて……しかも苦手な事をやってくれるとか……あ、何か裏があるんですね!?」


「ねえよ。純粋にエイラが必要なんだ」


 コイツの戦闘力をうまく利用し、且つ4人パーティになるための人数にしようとしているわけだけど、それ以外の理由はない。そういう意味でコイツが必要なのだ。


「はわわわわぁ……だめですぅ、小職にはお兄ちゃんがぁ……でもぉ、そんなこと言われると小職、うううううううううう……」


 お、俺のイケメンマスクと甘い言葉にコロッといきそうだぞ。ま、最強主人公の俺だからできる事で、並レベルの一般人にマネはできないからその辺勘違いするなよ。


「よし。そんじゃレアな奴を狩りに行こうか」


「へ? 行こうかって、レアモンスターの居場所、わかるんですかぁ……?」


「分かる分かる。要するにギルマンの親玉みたいなやつだろ? そいつの居場所なら探せるぜ」


 天才的なドミニク様の推理にかかれば、すぐにわかるってもんよ。額に手を当て、ポーズを決める俺。かっこいいぜ。惚れ直してもいいんだぞ。


「ふーん、で、そいつの目玉は奇麗なの?」


「レアギルマンをお兄ちゃんに食べさせれば、ギルマンのスキルが手に入るかも!? お兄ちゃん良かったね! これで最高のお兄ちゃんに一歩近づくよ!」


 ギルマンの目玉を手に問うアーヤ。スライムを抱いて喜ぶエイラ。とても俺に好意を抱いているようには見えない。照れ屋だなぁ、お前達。


 ま、いずれ俺への愛があふれて隠しきれなくなるさ。その時まで待つとするぜ。読者アンタ達もその過程を楽しんでくれ。なぁに、そんなに時間はかからないさ。 

 

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