ドミニク、異世界転生者?と話をする!

「ご迷惑をお掛けしましたぁ……小職が至らぬばかりに皆様にご迷惑を……」


 騒ぎまくって落ち着いたのか、エイラは深々と頭を下げる。垂れたウサミミがオジギに合わせてひょこんと揺れた。


「あーしを見る前に死んじゃうとか、テンサゲぇ……」


 なおアーヤは魚人の目玉をくりぬいて【死霊術ネクロマンサー】かけている。自分を見てくれなかったことが不満のようだが、目玉をえぐってとりあえず不満を解消しているようだ。


「いいってことよ。女子供にやさしくするのが俺の信条だからな。ま、その見返りがあるなら当然受け取るぜ。好意を無駄にしないのも紳士の務めだからな」


 ふ、決まったぜ。優しい笑顔とさりげない見返りの要求。今は子供だけど成長すればそれなりにいい女になりそうだしな。先行投資と思えば損はない。


「はわわわわぁぁぁ……。そ、それは何かお返しをしなくてはいけないという事ですね、ごめんなさい小職はお金もアイテムもないので何もお返しできません。あ、今からサラ金にお金借りてきますから。そ、それをお渡しします。それで勘弁してくださいぃ……」


「サラ金ってなんだよ? 話の流れ的にお金を貸してくれる店の事か?」


「はいぃ……十日で一割の金利でお金を貸してくれるお店ですぅ。お兄ちゃんの為にいろいろお金借りてますから、大丈夫です。その、ブラック環境には慣れてますからぁ……仕事、楽しい……お金、お兄ちゃんに貢いで、あ、やっぱり足りないから、少しだけ待ってもらえますか?」


 いろいろ指折り数えて謝罪するエイラ。なんかこー、勝手に追い込まれてるなぁ。


「待つぜ待つぜ。何なら永遠に待ってやる。だがそんな暗い顔はキミには似合わないな。悩み事があるなら何でも聞くぜ。この超英雄になるドミニク様にかかれば、どんな問題でも一発解決だぜ!」


「ほ、ほ、本当ですかぁ? じゃあ、お金ください!」


 俺の言葉にストレートに金くれというエイラ。俺はズバリと正論を言ってやる。


「働け」


「はうぅぅぅぅぅぅぅ……。ですよねぇ……」


 反論の言葉なく崩れ落ちるエイラ。隣でスライムが何かを主張するように飛び跳ねている。なんだコイツ? 俺の正論に歯向かってるのか?


「大丈夫ですぅ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの分まで私が働くからぁ、だから、安心して。お兄ちゃんは私が養うから……ごめんなさい! お兄ちゃんはいつか成功して、前世の分も含めて返してくれるんだよね! うん、わかってるから!」


 エイラはスライムに語り掛ける。【調教師テイマー】は使役したモンスターと思念で会話ができるので、俺に聞こえないやり取りがあったのだろう。スライムに体当たりされているエイラ。じゃれてるというよりはイジメられている感じだ。


「おいおい、テイムが不十分なんじゃないのか? スライム程度に反抗されてるじゃないか」


調教師テイマー】は魔物を自分の手下にすることができる。だがスキルが未発達なら手下に反抗されることもある。エイラは失敗続きらしいので、スキルの成長が甘いようだ。エイラを攻撃するスライムを蹴っ飛ばす。


「お兄ちゃんに何するのよぉ!」


 エイラの言葉と共に吹き飛ぶ俺。は? 何事!? 地面にたたきつけられた後で、エイラに蹴られたのだと気づく俺。ウソだろ、【蝶の舞踏バタフライダンス】を持つ俺の回避力は結構高いのに、反応すらできなかった……だと……?


「小職は確かに底辺のゴミクズだけど、お兄ちゃんは違うの! いつかこの世界を支配する魔物の王になるんだから! 世界中のレアモンスター全てを吸収して、その力ですごい国を作るって言ってくれたんだからぁ!」


 さっきまでのネガティブ100%の口調はどこへやら。毅然とした態度で俺を見下すエイラ。構えているのがハンガーじゃなかったら、気おされていただろう姿だ。


 やっべぇ、こいつ強い。【調教師テイマー】としてはともかく、近接戦闘能力は俺以上だ。いや、今のは不意打ちだったからな。きちんと勝負すれば俺が勝つ。それに女子供だから油断したんだ。そういう事だな。


「分かった。お兄ちゃんはすごい。たいしたスライムだぜ。俺ともあろうものが見抜けないほどだ。そこに秘められた才能はまさに世界を制するだろうぜ」


 半身を起してそう告げる俺。キモはお兄ちゃんだ。とにかくお兄ちゃんを褒めておこう。それが功を奏したのか、エイラはほわっとした表情になる。


「はい! お兄ちゃんの凄さが分かるなんて、貴方もすごいですね!」


「ああ、なんで詳しくお兄ちゃんとアンタの事を教えてくれないか? 世界の王になる魔物なんだから、さぞ素晴らしいエピソードがあるんだろ?」


 なんでスライムごときに媚び売らないといけないんだよ、と思いながら言う俺。だが懐柔するならこれが一番なのは確かだ。人の心の弱点を一瞬で見抜き、最適解を出す。それがこの俺ドミニク様の慧眼よ。いくらでも惚れ直してくれてもいいんだぜ。


「ええ……お兄ちゃんは前世から凄かったんです」


「ゼンセ?」


「はい。実はお兄ちゃんと小職は異世界転生したんです。『転生したらお兄ちゃんがスライムだった』んです」


 全然よくわからないが、エイラの中ではそれで前世とかいう概念の説明が終わっているようである。イセカイテンセイとか何言ってんだコイツ?


「元の世界で小職はいつか成功するお兄ちゃんの為に支援をしていました。月80時間残業しかできない程度の稼ぎしかない小職でしたけど、お兄ちゃんは笑って許してくれたんです。お兄ちゃん優しい……」


 横でスライムがプルンプルンしている。なんか胸を張っているみたいでムカつく。しかし今は我慢だ。


「転生してからもお兄ちゃんは優しくしてくれました。精鉄級冒険者から出世できない小職を見捨てないでいてくれるんです。


 転生した後でお兄ちゃんは言いました。『全国のレアモンスター1400種類を食べて、俺を最強の魔物にしろ』と。そうしたら前世みたいに優しくシテくれるって。小職はそのために頑張っているんですが、まだ3種類しか食べさせてやることもできず……」


「レアモンスターってなんだよ?」


「レアはレアです。2048分の1で発生する色違いモンスターですよ。そんなことも知らないんですか?」


 知らねぇ。って言うか色違いってなんだよ? そりゃ体色や体毛が違うヤツは普通にいるだろうが。それと他の奴とどう違うって言うんだ? 大体その数字もわけわからねぇ。


 そもそもモンスター食べて強くなるスライムとかどんなんだよ? 食った分だけ強くなるんなら苦労しねぇっての。ドラゴン食ったらドラゴン並に強くなるとかか? ないない。


 よく分からんが、分かったこともある。


「要するにエイラはそのスライ……お兄ちゃんを強くするために珍しいモンスターを探して旅してるってことか? 今はレアなギルマンを探してて、それで依頼の事を忘れてたと?」


「はい。最初は普通に探していたんですけど、三日ほど前からギルマンが現れるようになりましたぁ。小職はこれはチャンスとばかりにずっとギルマンを倒してたんですぅ……。倒した数は345体ですけど、未だにレアギルマン人は出なくて……」


 どんだけ倒してるんだコイツは。3日ってことは1日当たり100体? 6時間戦ってたとしても1時間に20体強は倒している計算になるぞ。そんだけ魚人がいたことも驚きだけど。


「あうぅ、もう60時間ぐらい頑張ってるんですけど……」


 前言撤回。60時間で300体だから一時間で5体ぐらいか。たいしたことなかったな。……どっちかっていうとそんだけ寝てない方がヤベェが。


「そんだけ戦ってもいないんだからそんな奴はいないんだろ? とっとと帰るぞ」


「ダメです! お兄ちゃんの命令は絶対なんです! 小職はお兄ちゃんにレアなギルマンを食べさせるまで帰りませぇん! ……邪魔するなら――」


 すぅ、と瞳が細くなり殺気が向けられる。邪魔するなら暴力に訴える。言外にそう告げるエイラ。


 この究極無敵な冒険者であるドミニク様に戦いを挑もうとは愚行だな。だが今日の俺は気分がいい。敢えて見逃してやろうじゃないか。さっき蹴られた部分を押さえながら、俺は制止するように手を突き出した。


「安心しな。邪魔はしない。満足いくまでレアとやらを探すんだな。何なら手伝ってやってもいいぜ」


「え……。本当ですかぁ!? ああああ、見返りに何かを要求するつもりなんですね!? レアモンスターをただで探してくれるなんてそんないい話はありませんから……。その、サラ金に――」


「いや、そういうのはいい。っていうかお前を連れて帰らないと報酬が受け取れないんだよ。なんで用事をとっとと済ませたいのさ」


 堂々巡りになりそうなので、何か言いだす前に告げておく。ふ、機転を制する俺。軍師だぜ。


「てなわけでアーヤ。今から魚人狩りだ。たくさんいるらしいから思う存分倒して目玉奪っていいぞ」


「あはっ、あーし頑張る♡」


 ギルマンの目玉にうっとりしていたアーヤが喜びの声をあげる。よーし、これでこの田舎者の機嫌も治るぞ。一石二鳥だ。


 こうしているのかどうかわからないレアモンスター狩り? が始まるのであった!


 ハーレム二人目ゲットだぜ。書籍化されたらここに俺の華麗なるイラストがここに入る予定だから、読者アンタ達も期待して待っててくれよ。

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