第101話 魔王リューイ・シェードですよ

 こめかみに青筋を立てご立腹のリューイ。

 ムドーに視線を移すと、もうお手上げとばかりに苦笑いを浮かべられた。

 この役立たずめ……


「わたくし我慢なりませんの。魔王ヴェルラヤという者がおりながら、あちこちの女性に手を出す色魔だったなんて……ヴァン様の魂を貶めるようなマネを見過ごすわけにはいきません」


 要するに、ヴァン関連で余計頭にきてるわけね。


「リューイ! 考え方を変えるんだ! ヴァンがモテないわけないだろう? これもヴァンの魂の副産物だ! それに婚約者は全員幸せにする。ヴァンならそんなこともできただろう?」


「それは当然ですわ。ヴァン様がモテないなんてあるはずがありません。ヴァン様ならすべての女性を幸せにできます! ですがあなたにそれができるとは思えません!! 不純です!!」


 酷い差別を目の当たりにした!!

 これは俺が何を言っても逆効果かもしれない。


「それならリューイの目で確かめてもらうのが一番だな」


 俺はここでリーゼから受け取った魔術道具を取り出し連絡をつける。最初に出たのはヴェルラヤだ。

 それをリューイに見えるように向けなおす。


「どうしたのじゃゼオ。おおリューイではないか」


「ヴェルラヤ元気そうですわね」


 お互いの顔は旧友に会ったというより、宿敵に会ったと表現したほうが近いだろう。

 この二人は元々仲がいいわけでもないし、これが当然なんだろう。


「単刀直入にお聞きしますわ。ゼオリスさんはあなたを含め複数の女性を手玉に取っているというではありませんか」


「そうじゃ! じゃがそれがどうしたのじゃ!」


「あなたどうして平然としていられますの!? 浮気されているんですのよ!」


「浮気? パティらのことを言っておるのかの? 甲斐性があってよいじゃろう! フハハハッハハハハハハッ!」


 何だこの聞くに堪えない会話は! 


「何を笑ってるんですの! あなたは魔王、特別な存在なんですのよ」


 リューイがとうとう腰を上げ、俺の持っている魔術道具を奪い取る勢いで近づいてくる。

 それと同時にたゆたう爆乳に視線が釘付けになってしまう。

 こんな時にごめんなさい!


 リューイが俺から魔術道具を奪った時には、ヴェルラヤ以外に全員の姿が映し出されていた。

 ここからの討議から五対一だ。結果は見えていた。

 ヴェルラヤ、ナーシャに好き勝手言われ混乱し、パティとリーゼに正論を吐かれ膝を屈し、トドメにファムから毒を吐かれていた。見ていて可哀想になった……はははっ。




「――――わかりましたわ。色魔というのはとりあえず保留ということにしておきますわ」


 短時間でやつれた表情になったリューイが俺にそう言ってきた。

 あれだけコテンパンにやられてまだ保留ですかそうですか――――

 クルクルと綺麗に巻かれた巻き毛を弾ませ玉座に戻るリューイ。


「では本題へと入りましょう。今回の魔族だけに症状が現れる不可思議な現象、わたくしは病よりも呪いのほうが可能性が高いと思っておりますの。今まで魔族だけに感染する病は存在しておらず、感染速度も尋常ではなかったからですわ。ですので呪いとして調べる予定ですわ」


「で何か計画でも練れてるのか?」


「この大陸から北西にある島に呪いに詳しい魔族の一族がいるはずですわ。数百年前にそちらに移り住んでから音沙汰がありませんけど。ですのでそこへわたくし自ら行くつもりなのですわ」


 それはどうなんだろうか?

 ヴェルラヤには帰ってくるなって言っておいて、その本人がかなり無茶してんだけど。


「それをリューイが行くことはないだろ。他の者に行かせるべきだ。何だったら俺が行ってもいい」


 俺の言葉にリューイが首を振る。


「わたくしは弱体化したといっても、他の魔族のように人族並みにまで落ちているわけではないのですわ。それに人族のあなたが行っても信用されなければいけないでしょう? それはただの無駄でしかないのですわ」


「じゃあ俺がついて行こう。人族並みじゃないといっても本来の魔王としての力には遠く及ばないだろう? それにここに残っても何の役にも立たないしな」


「それは困りますわ。弱体化したわたくしに何をなさるおつもりですの!」


 身をよじじらせ本気で嫌がるリューイ。

 今の会話のどこに俺が手を出す要素があったんだと一言言ってやりたい。

 興味があるとしたら、その暇を持て余してそうな爆乳だけだ!


「何もするわけないだろ。考えてみろ、そんなことしてヴェルラヤたちが黙ってると思うか? 俺は死にたくはない。それに行く時はきっちり報告するからな」


「……それもそうですわね……何となくあなたの目がわたくしの国の民の目と同じに見えてしまったのですわ」


 グディード王国の民はそんないやらしい目でリューイを見てるのか!

 何てけしからん連中だ。

 リューイが出向き、俺もついて行く、それを聞いて取り乱しているのはムドーだ。


「リューイ様、そのようなこと初耳でございます! お二人とも城を空けるとなれば私はどうすれば」


「大丈夫です。片道船で一〇日程。帰りはゼオリスさんが一瞬で送ってくれますわ。その程度ムドーさんだけでどうにかできるでしょう」


「船で一〇日程度なら俺の転移魔術連続行使で連れて行こうか?」


「無理ですわ。島の周辺に結界魔術道具が設置されていますから」


 ということは移動だけでもそこそこ時間がかかるってことか。あとであいつらに連絡しとかないと。


「でどこから乗るんだ? 俺はこの島から出たことがないから全然知らないんだけど」


「それはわたくしのグディード王国からですわ。この大陸で一番大きい港町があるのがわたくしの国ですから」


 話を聞くと、ここガールダ王国は大陸中央に位置し、海に面しているのはごく一部のみ。それに比べ、グディード王国は大陸の海岸線の半分近くを支配する国らしい。それも西側を支配しているため今回の船を調達するには何かと都合がいいとのことだ。

 善は急げと、俺はリューイに急かされグディード王国に行くこととなった。


 バルコニーに出た俺とリューイ。ムドーはリューイの仕事の分も調整しなければいけなくなり、見送る時間も惜しいとのことだった。


「じゃあ向かうから手を出して」


「……手、手を握るんですの! こうやって服を掴むだけで大丈夫だと思うのですけれど」


 そう言いながら俺の袖を摘まむリューイ。

 これが少し頬を赤らめながら、とかだったらわかるんだが……実際は警戒の色が濃く出ているだけだ。

 そんな警戒しなくてもいきなり爆乳触ったりしねえから! 我慢できなくなったらちゃんとお願いするから! 今は見るだけで満足ですよ!


 こうして少しギクシャクした関係のまま、俺たちはグディード王国へ繰り出した。



 ◆           ◆           ◆



 グディード王国、メイルク湾岸都市。

 着いて真っ先にわかったこと。それはリューイがこの国の魔王だということ。

 リューイに気付いた者が集まる集まる! それも男が集まる集まる!

 目を見ればわかる。このド変態どもめ!!

 リューイが国民と戯れている間に、町をぐるりと見渡す。そこには新鮮な海鮮を大量に並べた店が建ち並び、港には大小さまざまな船が停泊している。


「ゼオリスさん、お待たせしました。船を確保できたのですわ」


 背後から声を掛けられる。先ほどまで男どもに囲まれていたはずのリューイからだ。

 見ると、リューイの背後で大量の男どもが倒れ恍惚の表情を浮かべていた。腹や顔に靴裏の跡が見受けられるが、触れないほうがよさそうだ…………それにしても幸せそうな顔して倒れてやがる。


 リューイが指差した先にはこの港で一番大きく、豪奢な造りの船が停泊している。


「国の船ではないんだな。どこにも紋章がないし」


「ええ、あの船はクルーが全員獣人族なのですわ。国の艦船は魔族が中心となってますので、今回は使うわけにはまいりませんもの」


 二人でその獣人族だけで構成されている船へと向かう。

 出迎えたはリューイが言った通り獣人族のみで構成されていた。ただし、全員若い女性だ。

 嬉しいけど、どうしてこうなった!!

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