第97話 ルークとデートですよ?

 今起こっていることを話すぜ。

 俺は今カダツ村にできたサイドウォークカフェのテラスで休憩してるんだが、なぜか目の前にルークがいて二人でお茶をしてるんだぜ。通行人がそんな俺とルークを見て、俺がルークの引き立て役になってるんだぜ。何が言いたいかというと、ルークとデートしているようにしか見えないんだぜ。


「ゼオリスさん、どうかしたんですか?」


「いや、何でルークと二人でお茶してるのかなって思ってただけだ」


 飲んでいるコーヒーを噴き出しそうになるルーク。


「何言ってるんですか! 誘ってくれたのゼオリスさんでしょ」


「まあ、そうなんだけどな」


 そうだ。マモリーの一件で親父が金を渡したあと、リーゼの件があって少し離れていてもらったのだ。だから次に会った時にフィアンセがリーゼとファムを追加した五人、とわかった時には顎が外れそうになっていた。


「それで今日はどんなご用件なのでしょうか? また傭兵は勘弁してくださいよ」


「大丈夫だ。今なら世界が相手でも負ける気がしない」


「ま、まあそうでしょうね……あの黒竜だけで小国なら落せるでしょうし。というかまだ独立もできてないんでしょう? それで今の戦力は異常ですよ」


 建前上まだ村だ。まあ黒竜に関してはまだガールダに数匹従えているようだし、ガールダもやっぱり無茶苦茶な戦力なんだな。って今はそのガールダすら同盟国、いや、それ以上の関係だしやっぱり無茶苦茶だわ。


「それなんだけどさ、ルークは【剣聖】なんだから皇帝陛下にも顔は利くんだよな?」


「そこまで力はないですけど、謁見くらいなら可能ですね」


「じゃあ独立した時は頼むわ」


「信じられないくらい軽いノリですね……バルティオ王国のほうは大丈夫なんですか? 何でも国王に初の女性が選ばれたとか」


 今度は俺が噴きそうになった。


「ボクも一度お会いしたいのですが、今は忙しくまだなんです。確か名前はニルス・グローリーという方がなったとか。王位継承権はかなり下のほうだったらしいですね」


 本当に女王になったのか……挨拶はナーシャと……パティが適任だな! 俺は行かないぞ。

 あの人貴族が好きじゃないみたいだし、俺の計画にも好意的だったし、俺にとっては好都合でしかないな。


「皇帝陛下に会わせてくれるならこっちもニルス先……ニルス女王に会わせてやるぞ」


「本当ですか! ではまたその時がくればお願いしますね」


 俺は親指をビシッと上げ返事をする。

 独立に向けて着々と進んでいくな。


「それはそうと、今日はゼオリスさんにゆっくり会えるということで、ボクもお願いしようと思ってたんですよ」


 ルークは町を歩く女性に素敵な笑みをプレゼントし、愛想を振りまきながら器用にお願いしてくる。お願いする態度には見えないんだが……


「前にお願いした、リベンジの件です。あれからボクもしっかり鍛錬したので」


 そういえばあの時はヴェルラヤを宛てがおうと思ってたんだった。もうその手も通じないな……

 ルークの雰囲気が変わり、肌をピリピリとした緊張感が襲う。

 だからそれはお願いする態度じゃないって…………脅迫だよ脅迫!


「ルークは十分強いんだし、今更俺と腕試しなんてする必要ないだろ」


「そういうわけにもいきません。大会では武器性能の差でボクが有利、そしてバカな油断までしてしまいましたからね。ゼオリスさんも今日は三本も持ってきてやる気満々じゃないですか」


 ルークの目が俺の左右の腰と背中に差してある反りのある剣を見定めてくる。


「かなりの業物とみました。それならボクのものと引けを取らないでしょう」


 俺の言葉を聞いていないのか、自分の剣に手を沿え俄然やる気に溢れるルーク。

 大会の時とは俺も違うし、受けてやってもいいか……


「わかった。じゃあ村を出て人気のない所でやるぞ。もう【剣聖】が負けるところを見られたくないだろ?」


「ゼオリスさん、冗談は顔だけにしてくださいね」


 よし、やる気が出てきたぞ!

 こうして俺とルークのリベンジマッチを行うことになった。



 ◆           ◆           ◆



 場所はカダツ村の東の森の更に東の平原だ。ここまで来れば人は全くいない。魔獣や魔物がいるくらいだ。ここでぶちのめして放置すればそいつらの餌になるだろう。


「ルーク、お前をここに放置していくような非道な真似はしないから安心しろ」


「え? 突然何のことですか?」


 困惑気味のルークを前に、腰の得物を左右とも抜き放つ。

 白と赤のとても縁起の良さそうな刀身がその姿を現す。


「珍しい色の得物ですね。背中のは抜かないんですか?」


「これを抜くには魔術が必要だからな。ルールは前と同じで魔術はなしだろ?」


「そうですね。魔術ありならボクは相手にならないでしょうから」


 そう言いながら、ルークは自らの腰から剣を解放させる。マモリーとの一戦で使用した火属性の魔剣だ。それに魔力を流し更に強化する。


「魔力を流すなんて念入りだな」


「同じ轍は踏みませんから」


 俺も両手の剣に魔力を込め最大まで強化していく。折ったらシャレにならないからな。

 ルークの闘気に殺気が混ざりはじめる。


「いきなり本気なんだな」


「ゼオリスさん相手なら遠慮する必要はないですからね。全力で行かせていただきます!」


 言い終わると同時に、自分の間合いまで一足で踏み込んでくるルーク。確かに以前より速く初っ端から全力なのがわかる。

 魔剣を全力で振るうルーク。脳髄まで震える金属音が辺りを幾度となく支配する。


 ――――――――――――やはり以前と違う。両手に持った剣だが、左手一本で全て凌げてしまう。


 俺の戦い方に何かを感じたのか、ルークが一旦後ろに下がった。


「どういうことですか――――ボクの力が全く通じてないじゃないですか!!」


 額に冷や汗を浮かべ絶叫するルーク。

 このために鍛錬し自分を高みへ押し上げ、一つ上のステージに上がった実感があったんだろう。以前の俺となら勝てるという自信があって仕掛けた結果がこれだ。

 見てて可哀想になってくる…………


「プフッッ!」


「ちょっと! どうしてそこで笑うんですか!」


「いやいや、俺に勝つために鍛錬して実際実力も上げて、かわいそ……じゃなくそこまで頑張るルークがかわいいと思ってな!」


「かかか、か、かわいいってなんですか!」


 耳まで赤くして珍しく動揺を見せるルーク。

 おいやめてくれ、何赤くなってんだよ美少年! 間違いが起こったらどうするんだ!

 整った顔を横に向け、完全に闘気が霧散してしまっている。

 こいつダメだ…………剣まで落として完全に自分を見失ってやがる…………


「ゼ、ゼオリスさん! 五人もフィアンセを作っておいて、まさかもう女性に飽きたんですか! だからって今度はボクに手を出そうとするなんて!」


「そんなワケねえだろ! たとえそうだとしてもだ、どうしてお前がそこまで赤くなるんだよっ! そっちのほうがおかしいだろっ」


「こ、ここれは、そう! ゼオリスさんが悪いんですよ! 男色に走るゼオリスさんのせいです!」


「だから、どうして俺が男色に走ることとルークが頬を染めることに関係があるんだよ!」


「そそそんなのわかりませんよ! ゼオリスさんがボクをイヤラシイ目で見るからです!」


「おい! 帰っても絶対そんなこと言うなよ! 絶対だぞっ! 今あったことは何かの間違いだわかったな!? イヤラシイ目なんてそれはルークの思い込みに過ぎないからな!」


 赤面したまま首肯してみせるルーク。

 こいつそっちの気があるんじゃねえのか……


 これを機に俺たちは妙に仲がよくなった。当たり前だが秘密を守る同志としてだ。決して男同士アレな関係でという意味ではない。そんなことになったら一部の女性に大人気になってしまう。

 後日、勘のいいファムに気付かれそうになった、というのはまた別の話だ。

 

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