第95話 ヴェルラヤとデートですよ!
カダツ村から見える大空には白く大きな雲が漂い太陽が眩しく照りつける。その優しくも力強い陽射しは今日もデート日和だと俺に告げてくる。
「のうゼオよ、さっきから何を空ばかり見つめておるのじゃ」
「今日はヴェルラヤとのデート日和だと思ってな」
「当然じゃ。雨ならその空ごと消し飛ばしてくれるのじゃ。それよりも今日のデートというものの間は妾だけを見つめておればよいのじゃ。空など見る必要はないのじゃ」
今日のヴェルラヤはなんだか少しツンケンしているような印象を受ける。実家を一緒に出た時から何やら言いたいことを我慢しているような、いつものような余裕というものがあまり感じられない。
「行きたい所が確か、のんびりできるところだったよな?」
「そうじゃ。妾はゆっくり体を休めたいのじゃ。デートというものはそういうものだと聞いたのじゃ」
前にも思ったが、ヴェルラヤはデートというものをイマイチ理解していない気がする。
まあそれはそれで間違ってはないし、見てて微笑ましいからそのままにしとくけど。
「西のミスリル鉱床探しでできた穴を人工湖にしたみたいでな、そこに行こうかと思って店に予約しといた」
「うむ、では早速行くのじゃ」
「じゃあ転移魔術の連続になるけど――――」
「いや、のんびり馬車で行くのがいいと思うのじゃ」
どうやらヴェルラヤはとことんのんびりデートにしたいようだ。
通称ミスリル湖と名付けられたその場所は結構な店が建ち並び、そのうち一大観光地になるのではないかという話だ。湖の中にミスリルが輝いているのが見えて、特に日中の光の反射が綺麗らしい。
というわけで、ミスリル湖へは頻繁に駅馬車が走っていて、その点で不安はない。
駅馬車に乗り込み目的地を目指す。ヴェルラヤと隣同士で座り、他の乗客と向かい合わせになり駅馬車に揺られながら行くのもなかなか新鮮だ。向かいに座ったおばさんから『あら、妹さん? 仲がいいわね』なんて言われ、ヴェルラヤは訂正しようと躍起になったり俺は苦笑いで済ませたり、それなりに楽しんで移動ができた。転移魔術じゃこうはいかないからな。
駅馬車に揺られること約三時間、ようやく目的の場所にたどり着くことができた。
「やっと着いたのじゃ! 早く来るのじゃゼオ!」
ヴェルラヤに手を引っ張られ駅馬車を降りる。
駅馬車が止まったのは湖が一望できる草原が広がる小高い丘だ。そこから湖の畔まで店が軒を連ねている。
ミスリル湖と言われるだけあって湖の底は白金の光を放ち、宝石を散りばめた箱庭のようにも見える。
相乗りした乗客は一様に感嘆の声を挙げ、それぞれの目的地へと向かって歩き始めている。
「ガールダにも一つ欲しくなる湖じゃのお」
ヴェルラヤが丘に設置された柵から身を乗り出し、目をキラキラとさせ純粋に褒めだした。いつになく少女にしか見えないヴェルラヤに、こちらもデート気分が盛り上がってくる。
「あそこに見えてるのが予約してる店だ」
俺が指差した先に片流れの屋根の白く大きな建物が見える。そこから湖に伸びるテラスがあり、湖上で唯一食事ができるのがその店なのだ。これは全てリーゼ情報なんだけどな。
「あの店か、ゼオにしてはなにか全てが出来過ぎじゃのお」
ヴェルラヤは声を弾ませ愉快そうに指摘する。
全部リーゼに相談した上での計画だからな、図星なんで言い返すことができない。
どこからか情けないやら、頼りないという声が聞こえてきそうだ……
店に着くとテラス席の中で一番いい席に案内される。他の席とは隔離され、一番陸から離れている席だ。
席に座り飲み物を注文し、ヴェルラヤと会話を楽しんでいると予約していた皿が運ばれてくる。それを静かに食べるヴェルラヤを見ていると飽きがこない。どこまでも美しく上品に、動きに無駄、淀みがなく食べ物が口へと運ばれていく。膝に置かれたナプキンで口元を拭く動作さえさまになっている。
「どうしたのじゃ? 妾を見つめていてもなにも出てこぬぞ」
「ヴェルラヤの食事はいつ見てもホント綺麗だなってさ。俺はそこまで綺麗な所作はできないから」
「そうかの? 自分ではなんとも思ってないのじゃが、ゼオに褒められると不思議と嬉しいものじゃな」
ヴェルラヤが顔をほころばせ、無邪気で普段は見せない一面を見せてくれる。
それが妙に嬉しく、ロリ道に両足を突っ込んだ自分を逆に褒めてやりたくなってくる!
そのままヴェルラヤとの楽しい食事を続けていると、湖からオークが近づいてきた。しかしよく見るとそれは、オークを模した足漕ぎボートだ。
「あれはなんじゃ? あんなものを漕いで何が楽しいのじゃ?」
「べつに面白いから漕いでるわけじゃないよ。男女二人で漕げるし、自然の中に二人だけの空間を擬似的に作り出せるしな。男女だけじゃなく子供もいけるしお年寄りにも優しい乗り物だ」
「じゃがあれに乗っているのは、いかつい男二人じゃぞ」
「そういう時もあるさ……触れないでやってくれ」
オークボートに興味を示したヴェルラヤは、食事が終わるとオークボートに乗りたいと言い出した。デートの定番とは聞いていたが、俺も乗るのは初めてだ。
ボート乗り場に着くと最後の一台が残っていた。それも一回り大きいタイプで、後部にベンチタイプの椅子が対になって設置されている。オークの頭には王冠が乗せられ、これが特別仕様なのだと強調している。
「やたら大きいな……」
「問題あるまい。妾たちにふさわしい一台じゃ」
そこに店番をしていた男が駆け寄ってきた。
「お客さん。お二人でこのボートに乗る気ですかい? ちょっと最初の漕ぎ出しが重いと思うんですけど、他のボートが返ってくるのを待ったほうがいいと思いますよ」
男はヴェルラヤをチラ見すると俺にそう提案してくる。
ヴェルラヤがただの女の子ならそうなのかもしれないが……
「かまわぬ。妾はこれにするのじゃ。ゼオ早く乗るがよい」
ヴェルラヤは強引にオークキングボートへと乗り込むと俺を急かしてくる。男に料金を払い俺も乗り込みヴェルラヤに注意をすることに。
「競争じゃないんだから絶対思い切り漕ぐなよ? 俺たちが漕いだら壊れるからな」
「承知したのじゃ。早く行くのじゃ!」
最初はバカにしてたのに、今は乗りたくてしょうがないって感じだ。
ゆっくりと発進させ人気のない湖の淵に沿って漕いでいく。
最初は楽しそうに漕いでいたヴェルラヤだが、案の定途中で飽きてしまったのか、漕ぐのをやめてしまった。
「やはり魔術で進ませたほうが効率がよいのではないかのぉ?」
「そんな情緒もへったくれもない意見を堂々と……俺が漕いで行くからそこで景色でも見とけば?」
「景色……さっきから変わっておらぬのじゃが」
だったらと、ヴェルラヤの手を握ってみることにした。それも恋人つなぎだ。こういうボートはデート気分で二人だけの空間を作ることができるから便利だな。普段なら躊躇われる行為も思い切ってできるね!
「なんじゃ、手をつなぎたいのなら、いつでもかまわぬのじゃぞ?」
ロリ魔王様はまだまだわかっておられないようだ。
恋人つなぎをしている指を絡め、手の甲をなぞり、親指だけを外し掌を擦ってみたり、少しアクセントをつけてみる。
「むむむっ! なんじゃ! 急にいやらしい手つきになったのじゃ!」
「周りに誰もいない、そして解放空間でありながら二人だけの空間。これはこういう行為を助長させるためにあるんだ!」
「そうなのか! さっきの男どもめ、こんなことをしておったのか」
それは違うんじゃ……いや、意外に多いのか! ヴェルラヤの前で滅多なことを言うもんじゃないな。次からは細心の注意を払って発言しよう。
「いやらしい手つきで思いだしたのじゃが、先日のファムとのデートは楽しかったらしいのぉ」
「…………そりゃナーシャもパティとのデートも楽しかったぞ! 語弊がある言い方はやめたほうがいいんじゃないかな!」
「では訂正じゃ、先日のファムとのデートはたいそう興奮したらしいの」
「………………」
恋人つなぎの手に力が入るわけでもなく、ヴェルラヤが俺の顔色をうかがってくる。特に俺を責めるとかそんな意図は感じられない。それが逆に気になるわけだが。
「沈黙は肯定と受け取るのじゃ。顔色が冴えないようじゃが、心配せずとも他の者は知りはせんのじゃ」
この言葉に安堵してしまう。そしてそれをヴェルラヤに見透かされるわけだが。
恋人つなぎのままの手を引っ張られ、後部のベンチタイプの椅子へと移動させられると、膝を突き合わせて座ることに。
ヴェルラヤは腕を組み、スカートからのぞかせる足を揃えると真剣な眼差しを俺に向ける。
「一度しか言わぬからしっかり答えるのじゃ」
ヴェルラヤの様子からただならぬ空気を感じる。
これは心してかからないと火傷を負いそうな、そんなピリピリとした緊張感が走る。
「
「…………よかったかな……」
「見たいのはファムだけなのかの?」
「そんなことはないな……」
何だこの質問は…………ファムだけ見たのが平等じゃないから一言言いたいのかな?
「ならば、見たいのは誰のものでもよいのかの?」
「……いや、そんなわけはないけど」
何やら力強い眼差しを向けてくるヴェルラヤ。
ここで選択を誤れば、俺の顔が変形する事態が訪れるかもしれない!
「……………………」
無言のヴェルラヤ。
ああそういうことか。どうしても俺の口から言わせたいらしい。
何プレイだろうか? ヴェルラヤはドがつくSなのかもしれない。
「……ヴェルラヤのが一番見たいかな……なんて」
「……ほうほう、妾のが見たいとな? 他の者より妾のが見たいのじゃな? しかたがないのぉ、旦那様の命令とあらば逆らうわけにもいかぬし、そこまで懇願されては妾も鬼ではないのじゃ」
そこまで懇願した覚えはないんだが。俺の言葉の裏の裏まで読むとそこまで懇願しているように取れるとか……ってそんなわけねえな!
下着を見るっつったって…………ヴェルラヤもまな板だしな……
「ファムは自分で見せたようじゃからな、妾は旦那様にしてもらうかの」
ゆっくりと足を開くとそこで止まる。
あとはスカートを捲くると見えるんだけど、その動作が一切なく手は椅子に置かれたままだ。
――――――――――――えっなに? ここから先は俺が自分でするんですか? これ誰かに見られたら俺捕まるよ? 俺がスカート持ち上げて覗くとか、とんだヘンタイプレイになってるよ!
ヴェルラヤにここまでさせて俺がしないわけにいかない! 良い言い訳だ!
周辺に気を配り誰の視線もないことを確認する。
それはもう魔力の流れを読んで誰もいないのを確認し、殺気を放つ念の入れようだ!
心を落ち着かせ、ヴェルラヤのスカートを持ち上げ、姿勢を下げていく。
どんな下着をつけてきているのか! ファムに負けないレベルをつけて対抗意識を燃やしているかもしれない。ここはある程度覚悟を持って臨まなければならないだろう!
「!!!!!!!!!!!ッッッッ!!!!!!!!!!!」
ボートとスカートに遮られた光で中は薄暗く、目を凝らさないとよくは見えないのだが……
こ、ここここここれはッ!! 言葉に出して言っていいんだろうかッッ!!!!
これはヤバイ! 俺の創造魔術が捗ってしまう! ファムの時にも出なかった生温かいものが鼻から伝い滴り落ちていく。
「ヴェ、ヴェルラヤ、これモロ――――」
次の瞬間、脳天に凄まじい一撃をお見舞いされた。
しかしこの一撃があってよかった。これ以上見たらヤバカッタヨ!
「口に出すでないのじゃ!! これで終了じゃ」
ヴェルラヤは足を閉じるといつもの態度に戻る。
それでも顔は斜め上を眺め、血色のいい頬がヴェルラヤも恥ずかしいというのを如実に表している。
俺はまだまだ興奮状態でどうやっても戻れねえよ。あんなもの見ちまって平常心でいろというのがそもそも無茶苦茶だ! もう三日三晩頭から離れることはないだろう。
これからはヴェルラヤを見るたびに手を合わせ拝まなくてはならないようだ!
ありがとうございましたと! 決してもう一度見せてくださいのお願いではない!!
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