第94話 ファムとデートですよ!
今日はファムから俺が喜ぶところに買い物に行く、という提案を受けている。俺自身買い物で喜びそうなところが思い当たらないんだけどな。どこに誘われるかちょっと楽しみではある。
待ち合わせ場所はカダツ村内にある、服飾専門店が連なる一角だ。ここは職人街とは違って商人が大量に売買してるからお値打ち品が多い。ジルスほどとはいかないが、それでも結構な規模にはなっているようだ。
「……ゼオくん、何見てるの?」
服飾専門店を眺めていた俺の後ろから声が掛かる。
振り向くといつものワンピース風の服にダガー、などという格好でなく、普通にワンピースだけのファムがいた。
「ああ、こんな一角まで造って凄いなって思ってただけだ」
「……今日行くところはもっとスゴい」
ファムが俺の手を握りグングン引っ張っていく。
おかしいな……一番年下のはずなんだが、どうも主導権を握られてしまう。
そのまま服飾専門店の中を突き抜け、あるものが陳列されている店に着いた。
そこにはピンクの空気が充満し、俺の後頭部をハンマーか何かで殴打するレベルのダメージを与えてきた。
「――――――――えーっと、買い物はここでいいのかな?」
「……そう。早く入る」
ファムが俺を連れ込もうとする店には、白やピンクの可愛い下着から、黒や赤、紫の過激な下着まで取り揃える下着専門店だ。見た限り女性用しかないし、客も当然女性しかいない。
「ちょちょちょっと待て! これはあれか! 俺に対する虐待だな? 俺の羞恥心を煽ろうとしてるだろ」
「……そんなわけない。ゼオくんに下着を選んでもらう。ちょっと語弊。私が購入したものを着るからその中から気に入ったのを言ってほしい」
……………………ファムは何を言っているのだろうか? その前にちょっとハンカチ持ってるか確認しないと……鼻血が出そうだ!
「今から過激な下着を俺に見せるとはいい覚悟だな。どんなエロい下着を買うつもりか知らないが、俺の選考は厳しいぞ」
「……その顔は説得力に欠ける。それにそんな下着を着るとは言ってない」
少々の期待を込めながら店に入り、すかさず店内を見回し客を確認する。
一番奥にいる客は……あれはリーゼの事務所の近所にあるパン屋のお姉さんだ。
こっちにいる客は……以前俺の家があった斜向かいに住んでいたおばさんだ。
あっちにいるのは……って知ってる顔ぶれ多すぎ!!
「ファム! 悪いがこの店というか、カダツ村でこの手の店はナシだ! 俺の沽券に関わる! 今からジルスに連れてってやるからそっちにしよう」
今度は俺が手を取り店を後にする。
人目につかない路地裏まで連れてくると、ファムが腕を絡めてきた。
――――――――この柔らかい感触! あれ? なんだかこの前と違うぞ。この前はもっと、こうスゴく柔らかかったというか――――
「……ゼオくん気付いた。このまえは――――――――ノーブラ」
――――!!!! 思わずハンカチで鼻を押さえてしまった。
「“
◆ ◆ ◆
ジルスにやってきてまずしたのは、ハンカチが血塗れになっていないかという確認だった。
汚れていないのを確認した俺は、成長した自分を褒めてやりたい気分になったよ。
「……ゼオくん、最後までもてばいいね」
ハンカチを見て喜ぶ俺に意味深な発言をするファム。
背中を向けたファムの顔は見えない。だが少し黒い霧を纏っているように感じるのは気のせいだろうか? 今のファムが纏うはずないよな?
俺の心配を余所に、ファムはジルスの町の中心街へと向かって歩き始める。
ジルスの中心街はやはりカダツ村とは段違いだ。まあ人口が違いすぎるし当然っちゃ当然なんだが。
「……ゼオくん、着いた」
ファムが指差した建物はカダツ村の店より大きく、そしてエロい! 何やら過激な下着も展示されている。そしてさっきのファムの言葉が脳裏を掠める。
まさかとは思うが、わざとこの店にしたんじゃないのかと……
「……これはデート。ちゃんとついて来て」
俺のことなどお構いなしに店の中へと入っていくファム。
これは何プレイになるんでしょうか? やはり俺が羞恥心に悶える姿を見るのが目的なんでしょうかね?
仕方なくファムの後を追いかける。正直なところ、ファムを言い訳にこうやって色々な下着を堪能できるのはタマラナイ! そんな様子は一切見せない自然体の俺!
「……ゼオくん喜びすぎ」
なに…………バレてるだとぉッ!!
ファムには隠し事ができないらしい。きっとファム以外なら隠せていたはずなんだが!
「早くファムのを見せてもらわないと、他のものに視線がいくんだよ」
「……期待に応える。ハンカチ用意してて」
ファムが何やら気合の入った返事をしてくる。
俺はしっかり右手にハンカチを握り締め、その時を待つことにした。
もう期待しまくりで妄想だけで鼻血が出そうだ。
ファムが下着を選んでいる間、俺はあえて見ないことにした。楽しみが減るのを極力避けるためだ。どんな下着を選んでいるのか見ないほうが興奮が増すだろ?
視界の隅でファムが何かを手にしながら、店の者に話をつけにいく。
買いもしないものを試着、それも下は絶対無理だろうからな。
その様子を見ていると俺のワクワクが止まらない! 周りの客からは白い目で見られているかもしれない。だが旅の恥はかき捨てだ! お前たちと会うことはもうないだろうからな!
「……用意ができた。着替えるから待ってて」
ファムが試着室に入り、俺はその前で棒立ちで待機だ。
もう言われるがままに従う下僕か何かだ。
傍から見れば俺はこんなところで待機を命じられ、あまつさえ少女の下着姿を観察するという態勢に入っている、いわゆるヘンタイにしか映らないだろう。だがそれでいい! 何度でも言おう! お前たちと会うことはもうないだろうからな! ははははははははっ!!
「……着替えた」
突然開けられた試着室のカーテンの向こう側には、俺が初めて見る爆乳美少女の下着姿がそこにはあった!
まだまだ成長期とはいえ、腰はくびれ、適度に引き締まった体にブラで寄せられた見事な谷間!
下着は極々一般的なタイプの上下だと思う。パンツのウエスト部分の幅もそこそこあり、柄も水色ボーダーで健康的だ。くるりと回転して見せたお尻には皺一つなく張り付くパンツ。わかってらっしゃる! 尻に弛んだ横皺など必要ないのだ!
あえて言おう、皺の寄ったパンツは邪道であると!
「……どう?」
どうと訊かれても最高ですとか言えないわけだが。
「健康的でなかなかいいチョイスだな。まあ下着自体のインパクトはないけど」
「……ふーん……じゃあちょっと待ってて」
ファムは何かを思いついたのか、静かにカーテンを閉める。すると中からスルスルと布の擦れる音が聞こえたかと思うと、今度は試着前のワンピースを着て現れた。
「あれ? もう試着終わり?」
俺のさっきの一言が癪に障ったのかな? でも実際インパクトはなかったし。ファムの肌のほうがインパクトあったからな。
などと俺が思考をめぐらせていると、ファムは試着室から出てこず、そのままスカートの裾をゆっくりと持ち上げていく。そして下着が見えるかどうかの位置でピタリと手が止まった。
「……ゼオくん甘い」
そう口にすると、そのままスカートをたくし上げていくファム。
そこから見えたのはさっきのボーダー下着だ。さっきは健康的、清楚な感じがしていたのに、このスカートたくし上げとのギャップが酷い! さっきの印象が逆にエロさを引き立ててしまっている! エロい行為にエロ下着ならただエロいだけだ。だがこの清純な下着にエロい行為が合わさった破壊力はベクトルが違うのだ! 常に『初めて』を意識させ、心の奥底から沸き立つ興奮が全身を駆け巡っていくのだ!
――――――――いかんいかん、俺はいったい何を熱く語っているのだろうか――――――――
「……どう?」
「参りました。完敗です」
俺は膝を折り屈してしまった。
俺の痴態を確認したファムはまた試着室に戻り、例のごとく、また布の擦れる音を発する。このままでは体力がもつのか不安になってくる。鼻血を気にするより、前屈みになっておかなければいけないようだ。くそっ、周りから見たらヘンタイに拍車がかかってるじゃないか!
仕方なく試着室の前で三角座りをして待つことにした。
えっ? 後ろを通りにくい? すみません。というか誰も近づいてこないよ。
「……次はこれ」
カーテンが開き、見上げる視界に飛び込んできたそれは、純白の生地自体が光沢を持ちスベスベと気持ちの良さそうな艶がある。ブラはもうすぐ大事なところが見えるんじゃないかという程面積が少なく、下から持ち上げるに留まっている。パンツのVラインもさっきのボーダーよりもかなり鋭角で、ウエスト部分が紐タイプで可愛いらしいリボンがついている。ファムが回転すると下着からお尻が両サイドから半分ほど出ている!
このラインはヤバイ、鼻血チェックが必要だ……
と、思わず俺の右手がアレに向かって伸びそうになる! 勝手に動くんじゃない! 思いとどまれ煩悩!
周りから見ると何をやっているのだろうかと思うだろう?
この右手がね、こう意思を持っているかの如くあの尻を掴みに行こうとするんだよ!!
その後も赤のシースルータイプや、フリルつきの可愛いに特化したものやら、かなりの種類を見せてくれた。正直ファムが着てたら全部そそられるんだがな。
「……ゼオくん、次が最後」
カーテンを開けそこに立っていたのは、黒い下着に黒のガーターベルトをしたファムだ。レース生地の下着は極限まで肌を露出し、もう見えているんじゃないかと錯覚させる。寄せられた爆弾のような双丘は、手を挟んで乳圧を計測したくなる見事な山となっていた。
パンツは今までのより更に股が浅く、背中をこちらに向けるとお尻に生地が張り付き股が浅いために上部割れ目が見えている。布があるとはいえ、レース生地は肌を透けて見えさせ、尻下部は割れ目に食い込んでおり、肌が完全に露出してしまっているのと大差ない!
「ごちそうさまでした……堪能させていただきました」
「……ゼオくんの趣味はわかった」
俺は三角座りだったはずなのだが、気が付くと土下座していた。
この状況を理解できる奴はいないだろう。本能がそうさせたのか、悪魔が俺の体を操ったのかはわからないが、正気に戻ると床に額を押し付けていたのだ。
顔を上げると満足そうなファムがカーテンを閉める。
「……大切な日はゼオくんの趣味に合わせる。だいぶ先の話だけど」
…………ん? だいぶ先の話?
「……私はもうすぐ一四歳。結婚できるのは一五歳。パパはそれまで許してくれない」
創造魔術の件を解決し、そろそろ解禁だと思っていた矢先の耳を疑う言葉。
因果応報か、俺は前世で何か悪行の限りを尽くしたのだろうか? うん、魔帝あたりが何かやらかしてそうだ!
一年以上俺には春がやってこないことが決定した!
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