第6話 初報酬ですよ

 奴隷オークションの授業が終わり、俺は早速冒険者ギルドへとやってきた。昨日メリナと約束していたのもあるが、それ以上にこれから金が必要だということに気付いたからだ。早くやってきてメリナがいなけりゃ勝手にでかけりゃいいと思ってたけど、冒険者ギルドに着くと待ち構えていたかのようにメリナが声を掛けてきた。くそ! こいつこれ以外仕事してねえのかよ!


「ゼオっち早かったっすね。そんなやる気のゼオっちにお勧めの依頼をピックアップしといたっすよ」


「…………余計なことを……」


「何か言ったっすか?」


「いや、何でもない」


 つうかゼオっちて何だよ! 昨日の今日でもうこれかよ!

 とりあえずメリナが持ってきた依頼に目を通す。どれも依頼料の安いEランクまでのものばかりだ。メリナは俺がどれを選ぶか気になるらしく、ワクワクしすぎて肩を上下に揺らしている。


「薬草採取の非戦闘だけのものから、低レベルの魔物の討伐まであるっすよ。討伐はゴブリン三匹までの簡単なものっすからウチら二人なら大丈夫っす。だから心配無用っす。因みに討伐数はギルドカードに自動で登録されるから首から掛けておいたほうがいいっすよ」


 首から掛けているカッパーカードを俺に見せるメリナ。自動登録されなければ討伐数にカウントされず、自動登録させるには見える位置に出しておかなければいけないらしい。仕方なく俺もギルドカードを取り出し首から掛けることにする。これはCランクになればシルバーカードに、Aランクでゴールドカード、Sランクだとブラックカードになるらしい。周りを見渡してもシルバーカードまででゴールド以上は見当たらない。

 因みにランクを上げるには数をこなすのではなく、昇格試験を兼ねた依頼をこなさなければいけないとのこと。俺には関係ないな。


 目の前に広げられた依頼から視線をはずし壁に所狭しと貼り付けられた依頼書に目をやる。そこでとある緊急依頼が目に入った。そこに書かれたクレイビートの森という場所のためだ。目の前に乱雑に広げられた依頼の中にある、サンシャイの丘でのコネリの葉一〇枚採取という一枚の依頼と見比べる。


「おっ! いい依頼に目を付けたっすね。コネリの葉はハイポーションの材料で一〇枚で五〇〇〇GはFランクでは結構奮発してくれてる依頼っす。サンシャイの丘はコネリの葉の数は少ないっすけど見分け易くて初心者に丁度いい依頼なんすよ。これを最初に選ぶなんてゼオっちやるっすね! ウチがお世話する男は違うっす! 馬鹿な初心者はもっと上の、Dランクの討伐からやらせろとか五月蝿いんすよ」


 全然理由は違うんだけどね。メリナが若干可哀想に思えてきたよ。

 サンシャイの丘とクレイビートの森が近くだから選んだだけなんだ、なんて言えない。その馬鹿な初心者より馬鹿なことしようとしてる、だなんて言えない。





 ◆           ◆           ◆





 ということで早速サンシャイの丘にやってきた。丘というだけあって周りが見渡せ眺めがいい。

 危険があればすぐ逃げることもできる初心者向けの場所だ。だがコネリの葉の自生地としては望ましくない。カダツ村でもコネリの葉は採取していたが、あれはどちらかというと日陰でジメジメしたところを好む習性がある。ここで探していたら半日なんて一瞬で過ぎそうだ。


「あそこに見える森に行かないか? あそこならすぐコネリの葉が見つかると思うんだけど。村でもコネリの葉は取ってたからな、あれはああいう所に生えやすいんだよ」


 それとなくクレイビートの森を指差し誘導してみる。言ってることは間違ってないし問題ないだろう。


「あっちはDランクがよく行くクレイビートの森っすね。ウチらにはまだ早いっすよ。そうでなくとも最近ゴブリンが集団で出るって話で危ないんすよ。いくら弱いゴブリンでも集団で出て来られると下手すりゃCランクパーティでもヤバイっすからね」


 集団になると上位種が混じってくる可能性があるから危険度が増すのだ。メリナの知識はやっかいだな。

 置いて行くか? いや、あとでギルドになんて報告されるかわからないしやめとくほうが無難だな。などと考えていると森のほうから煙が昇り始めた。


「森で煙があがってるけど、あれ何だ?」


 はっきりと見えている煙は一つだが、更に小さいのがいくつか昇り始めている。


「ん~わかんないっすねぇ。森では昼間に火は使わないっすから。火事になったら大変すからね。使うのは泊まりの時に晩焚くくらいすね」


「じゃあアレ見に行ったほうがいいんじゃないか?」


「それはどうっすかね……ギルドに報告するのが先じゃないっすか? 何かあってもウチらじゃ対処できないっすよ」


 正論だけどさ…………もう少し冒険してみてもいいんじゃないかな。


「でも、冒険者が助けを求めてるのかもしれないし、急がないと取り返しがつかないことかもしれないだろ? 何なら俺が森へ行ってメリナがギルドに報告に行ってくれても構わないぞ」


「それはダメっす。ゼオっち一人を森へ向かわせるとか絶対無理っす」


 どこまでも教育係を放棄するつもりはないらしい。

 もうこうなったら少しくらい実力見せようが関係ないか。毎回こんなことするのも面倒だしな。


「俺ならちょっと特殊な魔術も使えるから大丈夫だ。だから俺は森へ行く。誰かが助けを求めてるかもしれないだろ? それを冒険者として放っておくことはできない。メリナは放っておけるのか? 助けられる力があってもギルドに報告することを優先して見殺しにするのか?」


 俺の言葉にメリナが先ほどまでとは明らかに違う反応を示す。 



「――――カッコイイっす! ゼオっちマジカッコイイっすよ!! 魔術が使えたんすね! それならウチもついて行くっす。何か判断しなきゃいけない時はウチがするっす!」


 案外チョロかった。でもやっぱりついて来るのかよ。仕方ないか、俺の教育係だもんな。



 今日中に終わらせないといけないと急いで森へと向かった。森に入り暫くするとコネリの葉があちこちに生えていたから、とりあえず依頼だけは達成しておいた。メリナはかなり多めに採取してたみたいだが。

 俺は煙があがっていたところを目指し先を急ぐ。メリナもついて来るが周りの薬草やらが気になるようだ。


 今まで木々に覆われて視界が悪かったのが一気に開ける。そこに現れたのは木々が広範囲に渡って切り倒され、その広場で集落らしきものを形成しているゴブリンの集団だった。それも一〇〇や二〇〇じゃ利かない。


「あちゃああ……これはヤバイっすよ。これは放っておいたら上位種がいくらでも湧きそうっすね。今でもこれは……Bランクの討伐依頼じゃないっすかね。見えてるだけでも上位種のゴブリンが二〇匹はいるっす」


 的確な判断だな。メリナが言ったとおりこれはギルドでBランク相当の緊急依頼になっていた。それも近いうちにAランク相当に格上げするって旨も書かれていたものだ。


「ちょっとマジヤバイっす! あそこに見えるのはゴブリンクイーンす。あれがいたら上位種がポンポン生まれてくるんすよ。早くギルドに戻って報告したほうがいいっす!」


「ちょっと待てメリナ、その前に質問があるんだが、ゴブリンクイーンや上位種ってのはどのくらい魔術耐性があるか知ってるか?」


 俺の質問の意図するところがイマイチわからないのか、釈然としない様子ながらも答え始めた。


「ゴブリンクイーンも上位種であるゴブリンナイトやゴブリンバーサクはノーマルゴブリン同様魔術耐性は皆無っすよ。でも当然ノーマルより体力含め全ての数値が比較にならないっすから、ノーマルより何倍も強い魔術をぶつけないと殺せないっす。あとその様子なら知らないと思うっすけど、ゴブリンクイーンの魔石はかなりレアっすからそれだけでAランクの報酬くらいにはなるらしいっす」


 これはいい情報だ。メリナが教育係になった時は正直足枷くらいにしか思ってなかったが、もしかするとかなりの掘り出し物なのかもしれない。


「じゃあ今からこいつらを魔術で一掃する。魔石を取るのを手伝ってくれ」


「ちょ、ちょちょっと待つっす! こんな大群相手にしたら瞬殺されるっすよ。それにこいつらを一掃する魔術なんてそんなホイホイ出せるもんじゃないっすよ」


 今から掃除するから手伝ってくれという俺の軽い言葉に、メリナが目を白黒させて叫んだ。


「おいおい、そんな大声出したらバレちまうよ。こいつらを一掃するのに大そうな魔術は必要ないしな」


 そのためにゴブリン上位種の魔術耐性を確認していたんだからな。


「じゃあさっさと片付けるからな、メリナは後ろに下がって見とくだけでいい」


 メリナは黙って後ろに下がる。信じてる様子はないが一応俺が何をするか見届ける気はあるらしい。

 俺にとって大抵の魔術に詠唱は必要ない。今から使う魔術も高度な魔術でもないしな。


「“仄暗き心魂刺衝アィセドゥクズィールエッツェン”!!」


 ゴブリンたちの足元の影が伸び。伸びた影は針状になって細くなってゆく、そして一斉に急所目掛けて突き刺さった。響き渡る断末魔は一言で表すと阿鼻叫喚だ。胸から血を噴出し倒れていくゴブリン。上位種のゴブリンさえもその一撃で事切れていた。流石にクイーンに至ってはまだ平気そうだが。


「何すか今の魔術は!! 見たことないっすよ! それにこの威力と範囲はスゴいっすよ!!」


「これは闇属性魔術だ。珍しいから見たことないのも仕方ないさ。でもこれでも初級魔術レベルだからな。魔術耐性が少しでもあれば全然ダメージを与えられない癖の強い魔術だぞ」


 人族で闇属性魔術を使うのは殆どいないし、使い手は大体暗殺に使うらしいからな。メリナが知らないのも無理はない。俺も全部本から吸収した知識だ。

 更に闇属性魔術というものは特殊な相手や環境において力を発揮する変わった魔術だ。まぁこの数と範囲は俺の力によるものだけどな。


 残るはクイーンだけだが、今の魔術をいくら放ってもこいつは死なないだろうってくらいピンピンしてやがる。それに周りのゴブリンたちが一斉に倒れたことに怒り狂ってやがる。

 というわけでまた一つ新たな闇属性魔術を行使してやるか。


「“貪汚な闇槍ギアデドゥンカスピア”!!」


 俺の頭上に黒く禍々しい槍が形成される。漆黒の槍の周りには黒い靄のようなものが纏わりつき、触れるもの全てを呪うかの如く、悪意の塊が膨張してゆく。流石にこれを見たメリナは顎をガクガクさせてへたり込んでしまった。


「この魔術は見た目は派手だけど、当たっても人には殆ど効かないからそんなにビビる必要はないぞ。その代わり心が卑しく欲深い魔物には効果絶大ってやつだ」


 手を前に振りぬくと貪汚な闇槍は猛烈な勢いで飛翔し、クイーンが逃げることもできずにその胴体に突き刺さる。普通の槍ならば全長三メドルのクイーンには掠り傷程度で済むんだろうが、貪汚な闇槍はそんなに甘くない。刺さった部位から黒く変色しボトボトと腐り落ちてゆく。クイーンはなす術なく絶叫と共に肉片と化した。残ったのは拳大の赤く綺麗な魔石だけだ。


「さぁ終わったぞ。魔石の回収に行くか」


「……………………」


「どうしたんだ?」


 瞳に涙をいっぱい貯めたメリナが俺の顔をマジマジと見つめてきた。

 そんなに怖かったのかな…………


  メリナは深呼吸を繰り返し落ち着こうと必死になっている。




「感動っす!! ゼオっちに一生ついて行くっす!! 闇属性魔法なんてレアな魔術が使えるから称号隠してたんすね! そりゃあ隠すはずっすよね、きっと【魔導師】クラスのレア称号とか持ってるんすよね!」


 何か独りで感動して納得してるけど、一生ついて来るとか迷惑だからやめてくれよ。それに残念ながらメリナに見せられるレア称号なら奴隷商人しかないや。


 このあと魔石をゴブリンから剥ぎ取る作業だけで辺りは闇に飲まれそうになっていた。




 ◆           ◆           ◆




 魔石を全て剥ぎ取りメリナのリュックに詰められるだけ詰めてギルドまで戻ってきた。辺りは宵の口といった感じだ。三つある受付で空いているのは例のエレーナさんという受付嬢の所だけだ。


「お疲れ様です。今日はどういったご用件でしょうか?」


「依頼完了したんでヨロシクっす」


 エレーナさんの淡白な対応にメリナは慣れた手つきで依頼書とコネリの葉一〇枚を手渡す。


「……確かに依頼完了ですね。それにしても早かったですね。今日中には終わらないと思っていたのですが」

「それっすけど、近くのグレイビートの森まで行って採取したっすから」


 自分の問いかけに思わぬ答えが返ってきたことで怪訝な表情になるエレーナさん。


「あの森はDランクからで危険なはずですが? そんな所に初心者を連れて行ったのですか?」


「ああそれっすね! その話なんすけどまずこれを見てほしいっす」


 エレーナさんの非難とも取れる言葉に、メリナはいそいそと背負っていたリュックを受付台に乗せ、中からこれでもかと言わんばかりの魔石を出し始めた。


「それがっすね、グレイビートの森でゴブリンの集落ができてたんでゼオっちが討伐してきたんすよ」


 中から出てくる量とそれに混ざる質の高い魔石を目の前にして、エレーナさんの目が見開かれる。


「え? すす、少し待ってください。Fランクのゼオリスさんがこの量の魔物を討伐したんですか?」


「そうっすよ?」


「俄かには信じがたいのですが、その魔石にもかなり質の高いものも交ざっているようですし、上の者に報告してきますので待ってていただけますか?」


 俺とメリナはお互い顔を見合わせ黙って頷いた。特にこの後用事があるわけでもないし問題はないはずだ。その後エレーナさんが帰ってくると奥の部屋へと案内された。

 その部屋で待っていたのは俺の体より二倍はあろうかという巨体のオッサンだった。顔は強面で威圧的、有無を言わさない雰囲気を漂わせている。


「よう、とりあえずお前らそこに座ってくれや」


 オッサンの言葉にエレーナさんは黙って頷いて俺たちに座るよう促してくる。立ちっぱなしも何だから座るけどさ。俺とメリナが横並びで座り、テーブルを挟んでオッサンだ。エレーナさんはオッサンの後ろで立ったままだ。


「俺はここのギルドマスターのブレイザってんだ。お前らの話はエレーナから聞いたんだが、何でもグレイビートの森でゴブリンの集落を討伐したとか何とか。それも魔石からただの集落じゃなく上位種がいたんじゃないかとのことだった。間違いねえか?」


 この質問に俺は無言で頷いた。


「グレイビートの森にゴブリンの巨大な集落が出来つつあったから緊急依頼をギルドから出してたところなんだ。もしかするとその集落かも知れねえんだが、ちょっとお前らが取ってきた魔石見せてくれっか?」


 これにはメリナが黙ってリュックを差し出す。ブレイザは強面の顔を更に顰めリュックの魔石をテーブルにぶちまける。そこには当然クイーンの魔石が一際目立って自己主張していた。


「こりゃあゴブリンクイーンの魔石だな。ってことはこれはギルドから出していた緊急依頼の件で間違いないだろうな。Bランクで出してたが、もうクイーンまでいたとはな」

「クイーンまでいたとなるとAランク相当になりますね」


 ブレイザが唸っているとエレーナさんがランク訂正の言葉をブレイザに投げかけた。


「そうだな、この魔石の量とクイーンとなると既にAランクで間違いねえ。思っていたより早くクイーンが生まれてやがったか。それはそうと、本当にお前らだけで討伐したのか?」


 ブレイザとエレーナさんが懐疑的な目を俺たちに向けてくる。そりゃそうだろうな。Aランクの依頼なんて基本しっかりしたパーティで挑むもんだし、昨日今日のツーマンセルってのがまずありえない。

 それに俺なんて昨日登録したばかりのFランクだしな。


「それは違うっすよ。討伐しのはゼオっちだけでウチは見てただけっす」


 いらないことを言い出すメリナ。懐疑的な目が俺だけに向けられる始末。


「……確かに討伐したのは俺ですけど、何か問題あります? 討伐したのが事実なら規定の報酬を払う、俺はその報酬を受取る。それだけだと思うんですけど」


「…………まあそうなんだが」


 俺の責めるような言い草にブレイザもたじろい気味だ。俺は正論しか言ってないから悪くない。

 首に掛けてあるギルドカードを徐に首から外しブレイザに渡す。討伐した魔物とその数を確認させる。先ほどまで懐疑的だった眼差しが真剣なものへと変わっていく。


「何なら第三者が討伐、報酬と魔石を俺に託したってことでもいいですよ。流石にFランクに全部横取りされるような間抜けが討伐なんてできないでしょ? それで報酬はどれくらいになるんですか?」


「依頼はBランクで出してたもんだが、Aランク依頼相当っつうことで、請け負った冒険者がいなかったからその半分で六〇〇万ガルド、その魔石も全部買い取りだとすると全部で一八〇〇万Gでどうだ?」


「せ、一八〇〇万G!??」


「何か不満か?」


 いきなりの提示額に顎が外れそうになる。隣を見るとメリナも同様のようだ。

 この依頼がBランクで出されていた時の金額は四〇〇万Gだった。Aランクになるといきなり三倍になるんだな。それに魔石の買取金額が異常に高い。やはりクイーンの魔石はかなりレアらしい。

 俺は黙って完了証明書にサインをする。メリナが何やら俺に小声で話しかけてくる。


「これ滅茶苦茶な金額っすよ。Aランクの相場は五〇〇万Gが相場っす」


 ということは最初のBランクの依頼の時の四〇〇万Gも相場からするとかなり高額だったんだろう。それだけ緊急性があったということだ。


「ギルド長、本当にこのまま帰しても宜しいのでしょうか?」


「構わねえよ。さっきこいつが言った通り、誰が討伐しようと、どんな手を使おうと依頼が達成されてたら報酬を支払って終わりだ。それにこいつの出したギルドカードには間違いなく討伐したものが記されていたからな」


 エレーナさんとの会話を終わらせ、ブレイザが指を鳴らすとドアが開き重そうな布袋が三つとそれより一回り小さい布袋一つを持った男が入ってきた。テーブルに置かれた布袋はジャラジャラと音を立ててその形を変える。


「これ一つに五〇〇万Gが入っている。その小さいのが三〇〇万Gだ。確認するか?」


 するわけねえだろ! とブレイザの言葉に危うくツッコミそうになっちまった。


「ギルドを信用してますからそれはいいです。それではお暇させてもらいますね」


 金をリュックに詰め、ブレイザとエレーナさんに軽く会釈をし席を立つ。とメリナもそそくさと俺のあとをついて来た。

 部屋を出るとメリナが俺を非難してきた。


「ひどいっすよゼオっち。ウチを置いて行くなんて。あのまま置いていかれたら、あることないこと喋るとこっすよ」


 あることは言っても別に構わないけど、ないことはやめてほしい。


「そうだ、報酬分けないとダメだよな」


 そう言うとリュックから一つ袋を出す。小さいほうの袋だ。


「一応三〇〇万Gはあるけど、これじゃ足らないか?」


「そんなわけないっすよ!ウチ何もしてないし、三〇〇万Gなんてウチのランクじゃ一年分以上のお金になるっすよ。というかウチ受取ってもいいんすか?」


「ああ、これからもメリナの知識は必要になりそうだし、口止め料もあるからな」


「じゃあ遠慮なくいただくっすよ」


 ギルド内で手渡される大金。周りの冒険者も何事かとこちらの様子を窺っていた。

 軽く考えていたこの行為が、のちに禍福無門かふくむもんだということに気付くのにそう時間はかからなかった。

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