第2話 指輪物語 J・R・R・トールキン
指輪物語という作品をご存じだろうか。
ロード・オブ・ザ・リングの名前を聞けば、若い子も、ああ、あれね、と聞き覚えくらいはあるかもしれない。
指輪物語はトールキン教授の作り上げた架空の世界観を舞台にした時間的にも空間的にも壮大なスケールで描かれた物語うちの一編で、作品舞台である中つ国における第三期末、一つの指輪の消滅とサウロンの打倒についてを綴った物語。
そんなにファンタジー史に詳しいわけじゃないのだけれど、最近よくある異世界ファンタジーものって、元をたどればこの作品に行きつくんじゃないかと思う。
私がこの作品に出合ったのは小学生のころ。四年生くらいかな?
映画やるってんで、単行本に帯が付いていたのを覚えている。
つるつるした拍子の、評論社文庫のやつだね。
地元のイオン(まだジャスコだったかもしれないなぁ)の二階の一番奥に書店があって、ずらりと並べられた真っ白い書架の中ほどに、この本が並んで置いてあった。
私はこの本をどうして買ったんだろうか。たぶん映画のCMで、読みたくなっちゃったのかもしれない。
全10巻、だったかな。追補編というのはまあいいかと買わなかったから9巻か。9巻もあれば安いものじゃなく、たぶんクリスマスプレゼントにねだったかお年玉を叩いて買ったかのどちらかだと思う。青い鳥文庫のパスワードシリーズ一気購入をした覚えもあるので、そっちと混ざっているかもしれない。
正直、一巻は辛かった。だって登場人物も分からないし延々訳の分からないお誕生日会の話をしているし、設定段階の話も長いしで、うーん、難しいなぁ、みたいな感じ。確か一日目は途中で読むのを諦めた気がする。
でもその一日目で幼い私の頭を悩ませた下話部分はほとんど終わっていたらしく、次の日に続きを読み始めるとだんだん楽しくなった。
暗く恐ろしい森と不思議なおじさんトム・ボンバディル、なんだかよく分からないけど怖そうな雰囲気の塚山、ブリー村でのひと騒動、映画のCMのかっこいい男の人とは今一結びつかない馳夫さん。
もうちょっとかっこよく訳してあげてよと今でも思うけど、レンジャーさんって呼ぶのもおかしいし、仕方ないね。
(あとゴクリさん。なんで映画じゃゴラムなんですか?確かにゴクリは初めどうかと思ったけど、喉を鳴らす音が由来なんだったらゴクリでいいと思うけどなぁ。)
(あとつらぬき丸。こっちは無理に訳さないでスティングでいいと思います。グラムドリングとかも!)
何分昔のことなので、詳細にどんな感想を覚えたのかなんて憶えちゃいないんだけど、ほとんどかじりつくようにして、少なくとも一日一冊ペースでは読んだと思う。
多分、あんまり理解はできていなかったと思う。長大で様々な思惑の入り混じった話なので、今でも完全な理解には足りていない。
ただ、面白いことは分かった。この作品は、今まで読んできたどんな作品よりも面白い!
私は読書に関しては早熟だったようで、幼い頃から勝手に一人で絵本を読んでいたらしい。最古の読書の記憶はねずみくんのチョッキ、だったかなぁ。いや、なんか赤いバスが出てきた気もする。まあ、いろいろな記憶が交じり合ってキメラみたいになってるんだと思う。
そんな私だが、小学生になってからはあまり、これだ!という本には出合えなかった。いや、面白い本とはたくさん出合ったのだが、突出して心に残り続けるもの、衝撃を受けるレベルのものはさほどなかった。
ローワンとかダレンシャンとかズッコケ三人組とか恩田陸とか、面白いとは思っていたけれど、指輪物語を読んだ時のきらめきには比べられない。
私の一度目の目から鱗の落ちるような読書体験が、この指輪物語であった。
私はそれから幾度も幾度も繰り返しこの作品を読んだ。たぶん、再読ランキングで言えば一位だと思う。
二位は安能版封神演義かな。
妙な読書歴である。
ちなみに封神演義の推しは申公豹と聞仲。あと土行孫の最期とか悲しくて心に残っている。ラストの紂王も好き。
指輪物語の推しはセオデン王。
ペレンノール野の合戦の描写が指輪物語の中でも一番好きで、ガンダルフによって再び勇猛なるローハンの王として戦場へ戻ったセオデンが、黒の影に脅かされた愛馬雪の鬣の下敷きになり、エオウィンとメリアドクに看取られながら逝く、その流れがどうしようもなく悲しく美しい。
ガン・ブリ・ガンの助力で包囲されたミナス・ティリスへたどり着き、援軍は間に合わなかったと消沈する最中、王は言う。
「進め、エオルの家の子よ!」
轟く角笛、煌めく幾千の槍。勇猛なる馬の民は、アングマールの魔王により今にも落ちんとするミナス・ティリスへ。
誰よりも早く疾駆するは年老いたるも力強い白き王セオデン。
しかし差した光は暗雲に隠れ、哀しみは降りかかる。
倒れ伏した王と妹エオウィンの姿を見たエオムンドの息子エオメルは叫ぶ。
「死だ!」
っと、つい熱くなってしまった。
これからエオメルとローハンの騎士たちの血と狂熱の突撃が始まるのだが、私は初登場時には老いぼれ、落ちぶれていたセオデン王の復活と英雄たる死の、ぶつんとテレビの電源の切れるような唐突で呆気ない幕切れが、どうしても好きでたまらない。
どうしてこんなに哀しいシーンが好きなのか。
もっとあるだろう、英雄サムワイズがガラドリエルの玻璃瓶を捧げ持ち、主の剣を携えてシェロブに挑むシーンとか、あのあまりにも衝撃的な火の山における終焉とか、エント族によるアイゼンガルド攻略戦とか。
もちろんどのシーンも好きなんだけど、どうしてもセオデン王はね、特別なんだ。
呆気なさが良かったんだと思う。
私はセオデン王が初期の落ちぶれたところから偉大な王として再び目覚め、そしてその輝きはきっと曇ることはないと思っていた。
けれど彼は落ちた。あまりにも突然の死だった。
私は彼が死んだことをすぐには納得できなかった。
これからじゃないか。
エオメルとエオウィンの行く末を、あなたは見なければならなかった……。
ああ、なんだかセオデン王についてばかり語ってしまった。
全体的な話をすると、この物語の骨子は、壮大なスケールと詳細な設定にあると思う。様々な種族が生き、過去があり、未来へ繋がっていく。言語学者たるトールキンは、言語ひとつとっても隙の無い世界観を構築しており、ある用語一つとってみてもその背後には樹木の枝葉のように歴史と他の用語との連絡が存在する。
知ろうとしてしまえば出てこられない。そんな感覚を覚える。
映画でしかこの作品を知らない、またはなんだそれ、という方々。
ぜひともこの作品を、本で読んでみてほしい。
重厚な情報量にくらくらさせられてしまうはず。
普通に戦記もの、冒険ものとしてさらっと読むだけでも面白いですよ!
なお、映画は、金ローとかでちらっと見たことがあるくらいで、全部は見てないです。
どうやら昔から原作派だったんだなぁ。
※中つ国Wiki見てたら一週間ほど終わるのでおすすめです。
書籍レビュー!! みのりすい @minori_sui
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