第20話 阿修羅ちゃん、感心

 夜の公園、喧嘩をしている二人にギャラリーも増えてきた。

 片方は、親子連れ、心配で通報する人も出てきた。

 割ってはいる人がいないのは、藤谷の体格に腰が引けているのもあるが、それに相対する中年男性が、全く引けを取らない事もあるのだろう。


 ギャラリーの一人が、暗がりであったが、藤谷に気づいた。

 「あれって、ユナイテッドの藤谷じゃないか」


 その言葉、藤谷の耳に入る。

 (まずい、素性がばれると色々面倒だ。)


 焦った藤谷は一気に仕掛ける、右の指を一つ折られているが、気にかけず打撃戦を仕掛けるが、決定打にかける。

 天外は難なく捌く。


 藤谷は、戦況を変えるべく、渾身の右のハイキックを繰り出す。

 天外は、両手で受け止める。


 藤谷は、右の脚を戻そうとするも、動かない。


 天外は、藤谷のズボンの布を掴んでいる、試合ではあり得ない、光景だ。

 藤谷は、次の相手の行動がわからない、顔面への打撃か、それとも押し倒し、組み技にいくのか、しかし、天外は別の部位を攻撃してきた。


 天外は、自分の右足で、藤谷の左足の脛を踏みつけるように、蹴りを繰り出す。


 無防備な脛を踏みつけられ、激痛が走る、天外は、右足から手を離し、藤谷は、痛みで地面に片ヒザをつく。


 「膝を壊そうと思ったら簡単に出来た、だが、それは、しない何故だかわかるか。」


 天外は、見下ろしながら語りかける。

 藤谷は、答えられない。


 「お前は、まだ弱い、ただ見込みがない訳じゃない、もっと戦いの経験を積め、そして、」


 「俺の娘、阿修羅と戦ってほしい。」

 

 天外は、藤谷がまだ若い事もあり、回復不能のダメージを与えたくなかっし、回復までに時間がかかる怪我もさせたくなかった。


 遠くで、パトカーのサイレンが聞こえる。


 藤谷は、立ち上がり戦うという気持ちはなかった、既に勝負はついた、いや、そもそも、天外は戦っているつもりもなかったのだ。

 

 立ち上がり答える。

 「俺がより強くなって娘と戦った後、いつかまた、俺と戦って下さい。」


 天外は、深く頷いた。


 阿修羅は、二人の男を見守って思った。


 (ふじやさんとたたかっていたら、今のわたしじゃ、ぜんぜん勝てなかったと思う、そんな人に、あっとうし、負けをみとめさせた。さすが父様。)


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る