第19話 阿修羅ちゃん、と父とチャンピオン
夜の公園だが、ジョギングなどしている人やカップルが、まばらだか何人かの人達はいた。
藤谷は、上着脱ぎ、顔がわからないように、キャップを深く被った。
天外は、見物人の中に、スマホを操作している人を見つけ、大声で声をかける。
「心配しないでー。ドラマの撮影ですよー。」
カメラマンもいないのに、そんな言葉に説得力は無いものの、子連れの方がいうのだからと、その見物人は通報の手を止める。
「さてと、あまり人が増えても面倒なので。」
そういうと、天外は、右手を伸ばし手の平を上にし、左手は、自身の顔付近に配置し構えをとる。
少し腰を落とし呟く。
「遊んでやるよ、チャンピオン」
藤谷は、身体を上下に揺らし、ステップを始める。
感情に任せて攻めても仕方ない、体格を見てもこちらが上、打撃も組みも負けるはずはない。
藤谷はそう思っていた。
左ジャブ、天外の身体には届かない。
攻撃を目的としているよりは、牽制、打撃防御としての運用。
そして、また左ジャブ、今度は撃ち終わり右にサーリング(回り込み)し、右ローキック。
ローキックには、天外は半歩下がり回避する。
しかし、攻撃は続き、また左ジャブ、これは、右腕で受ける。
受ける事により、身体が止まる、そこに右のストレートを打ち込む。
ガードの上であったが、藤谷は手応えを感じる。
(いける。いうほど実力が離れているようには、思えない。)
攻撃終わりに間合いを離す藤谷。
そして、また一気に攻めたてる為間合いを詰める。
しかし、今度は天外も動き出す、しかも、天外の方が動作が早い、左の打撃、藤谷は瞬間ガードを上げて、防御の姿勢を取る。
右腕に受ける衝撃に違和感を感じる、それは拳ではなく掌の為であった。
虎爪掌、掌を広げて爪を立てた打撃。
修練を積めば、肉をも引き裂く威力を持つ技だが、天外は別の意図で技を繰り出していた。
開いた掌を力強く握り、藤谷の右腕を掴む。
そのまま、下方向に捻りをいれる、そして、がら空きになった顔面に、左から右になぎ払うように手刀を繰り出す。
殺すなら喉、戦闘力を奪うなら目、しかし、これは天外に取って遊び、手刀は帽子を弾きとばす。
藤谷の素顔が露になる、その表情からは、困惑が見られた。
天外は腕を離したので、間合いは外れる。
藤谷は、肉体的なダメージはない、打撃から組み技に、戦法を変える事を決める。
組みばフィジカルで勝る自分に分がある。
そう思い、藤谷は、天外との間合いをゆっくりと詰める。
天外は、藤谷が組み技に移行した事を重心の移動で瞬時に理解した。
一気に攻めたてれば、造作なく勝てるが、しかし、ギャラリーも多いので事を大きくしたくないし、大きな怪我もさせたくはない。
(困ったな)
天外が、そう思ったタイミングで、藤谷は天外の腰に組みついた。
(よし、組み技にはあまり対処できないようだな。)
そう思って、体を崩そうとしたが、天外は焦らず、藤谷の指を一本とり、遠慮なく折る。
藤谷は、痛みで組んだ手を放してしまう。
なかなか、決め手に欠く状況、しかし、このまま戦い続ければ、通報されてもおかしくない。
さすがに時間はかけれない。
夜の公園で、最強の一族とチャンピオンの戦いは、続く。
しかし、決着の時は近い。
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