第17話 阿修羅ちゃん、と天上院

 天上院学院。

 戦後の日本を未来を担う人材を、文学、スポーツ、格闘技を育てる事を目標とした学院である。


 初代天上院の学園長自身も、格闘家であった為に、強い人材を育てたいという、気持ちもあったので、格闘技分野に力をいれている事もあった。


 そして、現学院長、天上院我狼もまた格闘技者であった。

 

 学院長室内


 少し脂肪の乗った肉体、禿げた頭、齢50を超えた我狼は、高級椅子に腰掛けながら、特待生の資料に眼を通していた。


 バスケットやバドミントンの全国大会優勝者や、ダンスのプロ、未来の金メダリストの候補等、優秀な人材が集まっていた。


 一流の新入生の資料を前にして我狼は、満足気であった。


 「さすが、天上院学院の生徒こそ、未来のスポーツ界や一流企業、日本を背負っていく逸材ばかりだ」


 女性秘書は黙って頷く。


 しかし、我狼は、自身も格闘技者なので、最近気に入らない事もあった。

 「ただ、先日行われたつまらんトーナメントで国内最強みたいな雰囲気はなぁ」


 秘書が眼鏡を上げながら答える。

 「我が校の卒業生いませんでしたが、気にする事はありません。

 我が校の卒業生には、柔道の金メダリスト、プロのチャンピオンボクサーがおります。

 あんなトーナメントの一時生のものに価値はありません。」


 「しかし、それでもあれが最強みたいな風潮には憤りを隠せん、俺が参加してやろうと言ってやったのに、あいつらめ断りおって。」


 そう言って、椅子から立ち上がる我狼の左足の膝から下は無く、木の棒の義足が見えた。


 「なにが参加資格の選手は『五体満足で医師の許可が必要』だ。

 俺の事を恐れて逃げおってからに。」


 そう言って、義足の足を地面に打ち付ける、苛つく我狼に秘書が冷静に答える。


 「仕方ありません、それに、学院長は、お身体の病気部分もありますし。」


 その時、納得いっていない我狼のスマホが鳴り、手にとり、そのスマホの画面に映る表示に、少し顔を緩める。


 「なんだ、お前から連絡とは珍しいな、どういった風の吹きまわしだ?」


 我狼は、何度も電話越しで会話を交えてから、話をまとめる。


 「お前の娘を、俺の学院にか…、面白い、ただ特別扱いは今回限りだ。それに条件も飲んでもらうぞ。」



 電話を切って、秘書に指示を与える。

 「新しく1人特待生が増えるぞ、名前は、修羅阿修羅だ。手続きを頼む。」


 秘書は、ご機嫌になった我狼に深く頭を下げて、部屋から出た。


 阿修羅、天上院学院に入学が決定。

 

 

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