第14話 阿修羅ちゃん、ふりかえり。

 ジムでの戦いの日の夜、ボブは床に正座をし、ある男の前に項垂れていた。

 

 その男は、『アルティメット・ユナイテッド』の覇者、藤谷狂詩(きょうし)、阿修羅を苛つかせた、この事態を引き起こした張本人。


 パイプ椅子に座る、藤谷の隣には、中年のスーツの男性プロデューサーの仲本が立っていた。

 

 ボブを責めているつもりはないが、藤谷が椅子に座って待っている状態でボブが勝手に地面に座ってしまったのだ。


 「顎は大丈夫なのか。」


 藤谷は、ボブに問いかける。


 「はい、団体のドクターを呼んで処置してもらいました。すみません。」


 藤谷は、椅子から降りて、ボブと同じ目線になり、肩を叩いた。


 「気にするな、まさかあの修羅が殴り込みにくるとは思わなかったし、それに…お前ほどの男が、女子供に負けるとも思ってなかったよ。」


 ボブは下を向き何も言えなくなっていた。

 変わりに、仲本が口を挟む。


 「いくら、修羅と言っても子供に遅れをとるとは、映像で残ってない、口止めしてると言ってもこの事は、話が漏れるかもしれんな」


 仲本は、ボブ自身よりも商品価値が下がる事を危惧した、折角トーナメントで名前を売ったのだ、その後適当に他団体で活躍させれば、自ずと自分達の団体の格が上がったのに、そう考えていた。


 いくら、最強のトーナメントといっても、新進気鋭の団体が行い、他の格闘技からの参戦といっても一流所を集める事は出来なかったのだ、冷ややかな世間の目もある。


 「終わった事は仕方ありませんよ、でも、これでもう1つアクション起こせば試合にあげれるんじゃないですか」


 藤谷は、嬉しそうに語る。

 


 同じ時、阿修羅は自宅で今日のボブとの戦いを振り返っていた。

 父は、当たり前の勝利と言っていたが、阿修羅にとっては何とか勝てたといった感想だからだ。


 なので、頭にまだボブが残っている内に何度も何度もイメージで戦う。


 もし、組み技を使っていたなら、序盤で拳激で試合を組み立てていたなら、『急所狙い』というノイズが入らなかったら、どのような決着をしたか等、一通り身体を動かしながら、阿修羅は鍛練を続けていた。


 阿修羅の中で、『今日のボブ』には100%勝てる自信がついた所で、鍛練は終了する。


 そして、各々の濃い1日が終わる。





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