第3話 阿修羅ちゃん、殴る
熊殺は、殺気を抑え込まずに、阿修羅ちゃんと向かい合う、女子供といえ、戦いの舞台に上がったのだ、怪我は自己責任、それに、自分の子を怪我させたのであれば、『戦わずの修羅』も挑んでくるであろうと考えていた。
その男と向き合う少女、阿修羅ちゃんは殺気溢れる熊殺とは真逆に手を後ろにつないだまま、体を揺らす、けっしてフットワークというった類いではなく、暇そうな感じで。
「おじさん、なまえは?」
阿修羅ちゃんの問いに熊殺は答える。
「熊殺鉄矢だ」
「いやいな、くまごろしなんて、なまえおかしいでしょ、ほんとのなまえは?」
少しの沈黙のあと、熊殺は答える。
「…吉田すぐる」
その答えに、阿修羅ちゃんは吹き出した
「よしだすぐる君が、『俺は熊殺鉄矢だ』なんていってるの?はっず」
熊殺し改め吉田すぐるは、怒りに身を任せ右前蹴りを繰り出す。
しかし、阿修羅ちゃんには、当たらない。
続けて、左正拳突き、左膝、右回し蹴り、何度も技を繰り出すも、かすりもしない。
「がんばれ、がんばれ、よしだ」
阿修羅ちゃんは、煽る、血が頭に上がった吉田すぐるは、何度も打撃を繰り出す。
ある一定のレベルに達すれば、防御に集中すれば、避ける続ける事は造作ない事、避けながら、阿修羅ちゃんは相手の攻撃パターンを頭に入れていた。
それだけではなく、道場に入ってきた時には、身長やリーチ、身体の重心のかけ方など、データを頭に入れていたのだ。
バケツを蹴った時も、しっかり見ていた。
(攻撃はやっぱり打撃メイン、距離が近くなっても、突き放す打撃しかしないし)
「ちょこまかと」
打撃が当たらないも、攻撃を繰り出さない相手、しかも小柄な女、殴られても痛くも痒くもない、用心するのは、間接技くらいだろう、そう思っていた吉田は急に顔面に熱を感じ、膝がぐらつく。
呆気にとられ、距離を取り、顔を触ると鼻から血が出ていた。
一体何が、そう思い、阿修羅ちゃんを睨むと、対照的に阿修羅ちゃんは、へらへら笑っていた。
「だいじょうぶ、よしだすぐるさん?」
「修羅に手をだしたこと、こうかいしてない?」
背筋が凍るのを感じた、顔を笑っているが、その殺気は十分に伝わった。
陸は、やれやれと顔をてで隠した。
「くそガキが」
そう言って、攻撃を繰り出そうとするも、また、視覚が遮られる。
殴られた事にも一瞬気がつけない、吉田。
「あれー、どうしたのかな?もういっかいいくよー」
手をクルクル回して、攻撃を予告する阿修羅ちゃん、顔を守るため両手を構える。
しかし、今度は腹部を衝撃がはしる。
みぞおちを打たれ、少し後退してしまう。
「修羅に負けなし、必殺阿修羅ぱーんち」
そう言うと、吉田の顔面に思い切り正拳づきを繰り出す、前に屈んでいた為、容易に阿修羅ちゃんのパンチは吉田の顔面を捉える。
2メートル近い大男は、身体を回転させて、地面に叩きつけられた。
道場の真ん中で、阿修羅ちゃんは、陸に向かい勝利のVサインを決めた。
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