夏休みと先輩後輩 その5

「先輩せんぱ〜い!!」

「どうした、夏休み入ってから俺ん家に皆勤賞を果たしている後輩」

「はい!!」

「めっちゃいい笑顔」

「そんな…世界一可愛い笑顔だなんて…」

「言ってない言ってない。で、なに?」

「いや8月も中旬、もう夏休みも終わりそうじゃないッスか?」

「そうだなー」

「そ・こ・で!!明日夏祭りがあるんスよ!!」

「ほーん」

「行くッスよ!!」

「行ってらっしゃい」

「いや先輩も行くんスよ?」

「行ってらっしゃい」

「もう先輩ったら、恥ずかしがらなくていいんスよ?」

「行ってらっしゃい」

「なんでッスかー!!」

「うるさっ…ダルいじゃん」

「ボクの浴衣姿が見れるッスよ〜?」

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃいBOTになってる…」

「友達といってこいよー…」

「先輩と行くって言って断ったッス!!」

「なんでだよ!!」

「…そんなに嫌ッスか?」

「嫌だね」

「それはなんで」

「暑いし人混みがマージで嫌」

「マージでッスか」

「マージで」

「よし、行くッスよ!!」

「話聞いてた?」

「…先輩との思い出欲しいんスもん」

「…くっそ卑怯なこと言いやがって。わぁーったよ!!行けばいいんだろ、行けば!!」

「先輩!!」

「ったく…」

「じゃあ先輩の浴衣買いに行くッスよ!!」

「あ、それは持ってる」

「なんで消極的なクセに準備だけはいいんスか」

「持ってるもんはしゃーないだろ、お前は持ってんのか?」

「もちろんッス!!可愛いの買ったッス!!」

「そうかー」

「見たくないッスか?」

「ミタイミタイ〜」

「棒読みじゃないッスかー!!」


「ったくなんで現地集合なんだ、一緒に行った方がいいだろうに…っと、ああやっぱり…」

「あっ、先輩!!」

「おう、待たせたな。それで、俺の連れに何か用か?お兄さん方?無いなら行っていいよな、あ?」

「おおう…ヤクザ先輩」

「誰がヤクザじゃこら…お兄さん方もちゃんと見てからナンパした方がいいっすよ。こんな可愛い奴が1人で突っ立ってる訳無いっしょ?これから気をつけてくださいな…これ以上ちょっかいかけたらわかってるよなァ?」

「ヤクザじゃないッスか」

「うっせ、ほら行くぞ」

「あ、ちょっ、先輩!?」


「あの、先輩!!」

「ん?ああ手握って悪かったな」

「いや、あの」

「それと遅れてすまんな、怖くなかったか?」

「その…」

「お前は可愛いんだからちゃんと気をつけろよ、俺がいるとは限らんからな」

「…はい」

「それと…」

「?」

「浴衣、お前に似合ってて綺麗だ。正直ナンパヤロウが居なけりゃ見惚れてたよ」

「っ!?」

「じゃあ、行こうか?」

「〜っ!!カッコよすぎなんスけど!?」

「叫ぶな迷惑だ」

「急に冷たい!?」

「当たり前な事しか言ってねぇだろ」

「そうなんスけどぉ〜…うぅ…何だこのイケメンヤクザ」

「おいコラ」

「いいじゃないッスか、イケメンッスよ!?」

「ヤクザ言うな」

「このクールイケメン!!」

「褒めんな、照れるだろ」

「めっちゃ真顔で言うなッス!!」

「はいはい、落ち着いたら行くぞ」

「撫でるな〜!!」


「じゃあ行くッスよ〜♪」

「わたあめで機嫌直った、チョロ」

「先輩?」

「なんでもなーい」

「もう…ボクと夏祭りデートなんスから、楽しそうにしてくださいッス」

「よし!!どこ行こうか!!」

「あ、やっぱ気持ち悪いんでいいッス」

「ドつき回すぞ」

「まずは何から手つけまス?」

「わたあめ買ったしテキトーに食い漁ってくか」

「ほいきた!!無駄に高い祭り飯食べるッスよ〜!!」

「言い方…いやほんとそうだな、家帰って飯食おう」

「帰ろうとしないで欲しいッス!!」

「おわぁ!?抱きつくな!!」

「先輩が逃げるから嫌ッス〜」

「いや帰らねぇから…そんな顔真っ赤にするくらいならやめろよ」

「うっさいッス!!迷子にならないようにッス!!」

「じゃあ手繋ぐのでいいだろ…」

「もうヤケクソッス、女の意地を通すッス!!」

「お前がいいなら別にいいけど…役得だし」

「なんスか?ザワザワしてて聞こえなかったッス」

「なんでもな…いや、お前に抱きつかれて役得って言ったんだ」

「恥ずかしい事をそんなハッキリと…」

「堂々としないとな、先輩だし」

「先輩のクセに…いや割とヘタレとは縁遠い振る舞いしてる気がするッス」

「で、ほんとにそのままでいいのか?ん?」

「…女の意地ッスよ!!」

「はいはい」


「結局飯食うから離すんだけどな」

「先輩が食べさせてくれれば…」

「片手でどうしろと」

「にしても…こう、凄いッスね」

「言いたいことはわかる、目の前のアレだろ」

「なんでここにって感じッスね」

「ウチの購買だな」

「夏祭り仕様ッスよ」

「パンが無い…というか、何アレ?」

「ロシアンたこ焼き、真っ赤な焼きそば、串に刺さった丸ごとじゃがいも、なんか白いの、形容し難い色したシロップのかき氷ッスね」

「めっちゃ嫌…」

「でも大人気ッスよ…なんかこっち見てないッスか?」

「見てない」

「めっちゃ手招きされてるッス」

「されてない」

「行ってみるッスよ先輩」

「めっちゃ嫌…」


「…」

「…」

「な?」

「ッス…」

「…」

「…」

「じゃあ緊急でベスト5発表すっか」

「すいません、思い出したくないッス」

「安心しろ俺もだ」

「先輩、時間もないから、ね!?もっと祭り楽しみたいッス!!」

「いやでも気になる人が」

「誰がゲテモノランキング気になるんスか!!ほら、行くッスよ!!」

「なんか白いのだけでも」

「あれが1番ヤバかったんスからね!?」


「普通の物が1番美味いッス」

「めっちゃ幸せそうに食うやん、あれの後だと仕方ないけど」

「この微妙な焼きそばもカップに詰められた冷凍の焼き鳥もこんなご馳走になることは今後無いと思うッス」

「俺もそう思う、美味すぎて泣きそう」

「なので先輩、その焼き鳥くださいッス」

「ん、ほい」

「あむっ…んーこのタレの甘ったるい感じ、流石屋台の焼き鳥」

「俺も焼きそばくれ」

「はいッス、あーん」

「…んぐ、家にあるお好み焼きソースと全く同じ味がするわ」

「焼きそばなんスけどねぇ」

「「はぁー、美味いわぁ」」

「先輩、喉乾いたッス」

「あいよー、ほい」

「いや、どっから出したンスか」

「ハンドパワー…?」

「こっちが聞いてんスけど!?」

「なんだ、レモネード嫌いか」

「いやそうじゃないッスけど、えぇ?ボクがおかしいんスか?」

「水か?お茶か?」

「○次元ポケットでも持ってんスか?」

「浴衣の中に決まってんじゃん」

「全部キンキンに冷えてるッスけど…?」

「その方が美味いだろ?」

「えぇ…?もうそこでマジック披露するだけで儲かるんじゃないッスか?」

「そんな褒められる程のもんじゃねぇよ」

「いやもうそういう謙遜要らないんで」

「正直金取れるパフォーマンス出来ると思うわ」

「自信過剰なのも要らないんで」

「どうしろと」

「とりあえず飲み物くださいッス」

「はいはい、飲みながらなんか遊んで行くか」

「はい!!金魚すくい潰しと言われたボクの力見せてやるッス!!」

「よし、景品漁り過ぎて出禁くらった回数十数回の俺と勝負だ」

「それは割とマジで引くッス」

「流石に冗談だ、祭りなんてそんな来ないしな」

「いや、先輩のスペックならやりそう」

「お前の中で俺は一体なんなんだ…?」

「ハイスペックヤクザサイボーグ」

「おいゴラ」


「…先輩?」

「すまん」

「いや、いいんスけど…」

「正直やり過ぎた」

「そうッスよね!?」

「まさか景品取りすぎて出禁になりかけるとは思わないじゃん?」

「まさか先輩のフラグ回収のせいで夏祭り追い出されかけるとは思わないッスよ!?」

「そういうお前も金魚取りすぎて可哀想なことになってただろうが!!」

「…やめまスか、どすこいどすこいって事で」

「どっこいどっこい、な?」

「細かい事はいいんスよ、ほかなんか回ってないとこありまス?」

「んー…金魚すくい、スパボ釣り、輪投げ、ダーツ、射的をやったか、他もう無いんじゃないか?」

「じゃあテキトーにブラついて花火まで時間潰しましょう」

「おーう」

「とは言ったものの…先輩」

「ん?どした」

「なんかこう、イベント無いんスかね?」

「花火があるじゃねぇか」

「いや、そういうのじゃなくて。ギャルゲーとかラノベみたいなイベントッスよ」

「はぁ?景品のアクセサリーをプレゼントしたり迷子見つけて親探したりとか?」

「そうッスそれッス!!いやーそういうのやっぱリアルでは無いんスかね〜!!」

「…はぁ」

「なんスかその馬鹿を見るような目は、いいじゃないッスか、ボクは花も恥じらう可愛い乙女の後輩ッスよ!?」

「いや、イベントあったじゃん」

「え?ありましたっけ?」

「お前もう忘れたのか?能天気なやつだな〜」

「はぇ…?………………あぁ!?ナンパ!!」

「大声で言うな!!俺がナンパしてるみたいだろうが!!」

「あ、すいません…あの、先輩」

「あー?」

「あ、いや、その、えと、あのー…助けていただいて…ありがとうございまス」

「おう、お前も気をつけろよー?可愛いんだから」

「はぃ…」

「家は別に遠くねぇんだから、一緒に遊びに行く時は今度から迎えに行くか?」

「さ、流石に申し訳ないッスよ!!」

「そうか?じゃ、一緒に出かける時は迎えに行くわ」

「あ、はい…はい?」

「はいはい?」

「や、一緒に出かけてくれるんだなーと」

「今更だろ?最近なんかほぼずっと一緒に居るんだし遊びに行くことくらいあるだろ」

「それは確かにそうッスね」

「で、まだイベントがどうとか言うのか?」

「いや、いいッス。恥ずかしくて死にそうなんで…」

「あんな初っ端の事忘れてりゃな!!」

「いや、先輩のイケメンヤクザムーヴ思い出して」

「おい」

「いてっ、バカになったらどうするんスか先輩!!」

「既に馬鹿だから大丈夫だ馬鹿」

「2回も言ったッスねぇ!!」

「はいはい」

「なんで撫でるんスかー!?」

「そろそろ花火あがるから静かにしような〜」

「ぐぬぬぬぬ…」


「先輩先輩」

「なんだー?」

「花火ってなんでいつ見ても綺麗なんスかね」

「そういう風に作られてるから」

「んなロマンの欠けらも無い」

「じゃなきゃ兵器だろあんなん」

「それはそうッスけどね?もっとこう、なんかあるじゃないッスか」

「無いな」

「ロマンの欠けらも無いッスね」

「綺麗なもんは綺麗だからいいだろ」

「まぁ、それもそうッスね」

「こうやって話してると花火の音で声が聞こえなくなるなんて事も無さそうだな」

「あー、ラブコメにありがちな奴ッスね」

「そうそう」

「そんな都合良くは無いって事ッスね〜」

「どっちかって言うと周りの声のがうるさい」

「これだけ人がいれば仕方ないッスよ」

「そうだな」

「というかボク達もこんだけ喋ってんスから」

「文句も言えないか」

「そういうことッス」

「んー…お、そろそろフィナーレじゃないか?」

「マジッスか!?」

「「…おー」」

「綺麗ッスね!!」

「そうだな」

「わあぁぁ…!!」

「…」

「凄いッスね!!先輩!!」

「ああ、そうだな」


「(あー、これは確かに、ラブコメ主人公達の言いたいこともわかるな。今日のこいつは花火なんかより)」






「綺麗だな」





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