一学期末と先輩後輩

「先輩っ…そんな、嘘だと言って欲しいッス!!」

「…」

「ボクですよ!?忘れたんスか!?」

「…」

「先輩のただ1人の後輩で、ボクのただ1人の先輩じゃないッスか!!」

「…」

「約束…したのに……っ!!」

「…」

「本当に忘れたんスか…?あんなに笑いあって……っ!!毎日楽しく話してたのにっ!?」

「…」

「酷いッス…酷いッスよ先輩っ!!」

「…」

「思い出してください……ボク達の、約束をっ!!」

「………………ごめん」

「そっ……んな…………っ!?」




















「いやそんな記憶喪失に立ち会ってショックを受けてるみたいな反応されてもな」


「ノリ悪いッスよ〜先輩!!」

「いやどうノるんだよ、重すぎるだろ」

「でも忘れたッスよね?や・く・そ・く!!」

「ごめんマジでなんのこと?」

「なんで覚えてないんスか!!」

「どうでもよかったんじゃない?」

「あの…冗談でもやめて欲しいッス……」

「え、あ、ごめん」

「ちなみに、過去問のコピーくれる約束っす」

「普通に一緒に勉強してたしもうテスト期間すぎてるから割とどうでもいいじゃねぇか!!」

「そうッスけど?」

「…」

「先輩、睨むと周りが怖がるッスよ」

「放課後の屋上に二人きりで誰が怖がるんだよ」

「え?ボク?」

「…」

「あ、先輩、呆れた目で見ないで欲しいッス。心にクるっす」

「あ?」

「やーん!!先輩こーわーいー☆」

「…」

「マジすんません許してください」

「…しゃーねぇな」

「こっわぁ…本気で怒ってないのはわかるッスけど」

「というか、過去問とかそんな約束してたか?」

「してないッスけど?」

「…」

「あっ、先輩、グーはダメです、パーもダメです」

「チョキで殴る」

「えっちょっどういう危なあぁぁ!?」

「外したか」

「え、待ってこの先輩無表情ノーモーションで淡々と目潰ししに来たんスけどこっわ…こっっっわ!?」

「グーとパーダメならチョキがあるじゃんね」

「パンが無いならケーキを食べればいいじゃないじゃないんスよ!?」

「エリザベスアタック」

「危なあぁぁ!?雑な技名もつけないで!?チョキで殴らないで!?」

「語尾はどうした、語尾は」

「虎視眈々と目を狙ってる先輩から逃れるのに必死いぃぃぃぃ!?」

「惜しい」

「惜しい、じゃないんスよ!?チョキもダメっす!!」

「ジャンケンが出来なくなったじゃないか」

「そこじゃないッスよね?もっと他に言うことあるッスよね!?」

「大丈夫、死なないだろ」

「そういう問題じゃないッスよね!?」

「わかったわかった、当てる気は元々なかったけど危険なのはやめよう」

「目がガチだったッス…」

「しゃーないからこれでも喰らえ」

「へっ?なぱぁっ!?」

「なぱぁ言うたこいつ」

「んぐううぅぅぅぅ………!!」

「大きいリアクションする度に変な声出すな、笑っちまうだろ」

「そぉれを真顔で言われてもッスねぇ!?…にしても今の何スか?おでこ殴りました?」

「デコピン」

「へ?」

「デコピン」

「…いやいや」

「ほら」

「風切音なってる…え、人間?」

「デコピンがちょっと強い人間」

「そんなデコピン喰らってボクの首吹っ飛んだらどうするんスか!?」

「本気でやってないからそこまで痛くないだろ」

「本気で言ってんスか!?ゴッてなったッスよ、ゴッて!!めちゃくちゃ痛かったッスよ!?」

「oh my god」

「どっちかと言うとボクのセリフッスよ!?」

「おでこがゴッ、だもんな」

「あんま上手くないことドヤ顔で言わないで下さいッス!!」

「おみごと」

「もうなんなんスかぁ!?」


「というかこんなことしてる場合じゃないだろ」

「なんか今日先輩から話振ってくれるッスね、ボクの先輩呼びから会話を始めるルーティンを奪わないで欲しいッス」

「いや知らんがな」

「そもそもなんで集まったんでスっけ?」

「テストの点数勝負とかいうお前へのダメだし」

「ダメだし!?ボク先輩に教えて貰ってからずっと学年トップなんスけど!?」

「たまに珍回答する学年トップねぇ…」

「そんなことはいいんス!!ほら!!今回はめちゃくちゃ自信あるんスから!!」

「ほう、まぁそろそろ俺の1年の頃の点数抜いてくれないとな」

「元々平均60行くかどうかのボクが毎度平均97点数以上のテストをそう易々と越せると思わないことッスね!!」

「自信満々にアホなこと言うとる」

「しかーし!!今回は勝つ可能性があるんス!!」

「ほう?」

「なぜならボクは今回学年トップ!!テストの平均点も98点!!負けるわけない!!」

「おお、凄いな!!真ん中くらいだったのが数ヶ月で学年1位か。成長したなぁ!!」

「にへへ、頑張ったんすよぉ!!先輩に教えて貰ってるんで頑張らなきゃって思いもあったッスし!!」

「マジでできた後輩だな」

「そうッスよね!?もっと褒めてもいいんスよ!!」

「調子乗んな」

「急に梯子外すのやめません?」

「梯子から蹴落とせばいいか?」

「悪化させないで欲しいッス!?」


「って、もう茶番はいいんスよ先輩!!」

「はいはい、お前が平均98点だったな。俺は何点かなー」

「さすがに勝ったッスよね!!だって平均98点なんて流石に先輩でも」

「平均99.6点だな」

「…えぇ?」

「ほらよ」

「…数学のケアレスミス以外満点ってバケモンッスか?」

「まぁこうしてみると去年のが問題簡単だしな」

「…なんか悔しい通り越して引くッス」

「ドンマイ、この時期は余計に力入れてたからな」

「えぇ…」

「でもお前数学満点じゃん」

「いや、そんなんどうでも良くないッスか?それ以外が少しづつ間違ってるッスし」

「いやいや、初めて俺に勝てる点数出したんだから」

「そんなことないって言いたいのに言えないのがなんとも…」

「まぁちゃんと勝つまで褒美はお預けだな」

「ッスよねぇ…平均100点にしないと勝てないんじゃ?」


「まぁ、今回は学年1位だし今度好きなもん奢ってやるよ」

「…嬉しいッスけど、どうせ購買とかッスよね?」

「ん?購買でいいんか?」

「え?」

「別に食いもんじゃなくても物でもいいぞ、あんまり高くなけりゃな」

「え、いいんスか!?」

「おう、こんなに頑張って何も無しはモチベ下がるだろうしな。日頃の頑張りに対するプレゼントだ」

「やった!!何買って貰うッスかねぇ〜!!服?本?迷うっすね〜!!」

「あんま高いもんはマジでダメだぞ」

「分かってまスって〜!!」

「大丈夫か…?」

「う〜ん…あっ」

「なんだ?もう決まったんか?」

「先輩がいつもカバンにつけてるストラップがあるじゃないっすか」

「ああ、黒猫のか?え?これが欲しいんか?」

「いや、これと同じやつが欲しいッス」

「同じやつ?そんなんでいいのか?」

「はいッス!!」

「まぁいいけど、ちょっと待てよ〜」

「ん?急にカバン漁ってどうし…もしかして持ってるんスか?」

「ゲーセンのちっちゃいクレーンから取ったヤツだからな〜。そんときに2個取れたけど2個もいらねぇなと思って突っ込んでたようなっと、あったあった」

「おー!!まさかすぐに貰えるとは思わなかったッス!!」

「本当にそんなんでいいのか?」

「いいんスよ!!ありがとうございまス!!」

「喜んでるならいいが…結局奢ってないし、帰りにアイス買ってくか」

「マジっすか!?ゴチになるッス!!」

「おう、たんと食え」

「いやお腹壊すッスよ」

「たんと食え」

「話聞かないッスねこの先輩」

「タン食いたいな」

「唐突すぎるッス!?」

「明日は焼肉にしよう」

「えぇ〜…ご相伴にあずかりたいッス」

「いつか、な」

「具体的には?」

「そもそも休みに一緒に遊びにも行ったことないのにいきなり家に来るんか後輩ちゃんよ」

「え?一緒に遊びに…行ったことないッスね?放課後の寄り道くらいッスね」

「そういうことだな」

「というかなんで誘ってくれないんスか?」

「なんで誘わにゃならんのだ?」

「ほら、こんなに可愛い後輩ちゃんッスよ。デートしたいと思わないッスか?」

「出会って数ヶ月の後輩、しかも出会い方アレだぞ?気を遣ってたつもりなんだが」

「他の有象無象ならともかく、先輩の誘いなら用事キャンセルしてでも着いてくッスよ」

「有象無象って…それに先約入れてた人が可哀想過ぎる」

「ともかく!!もうすぐ夏休みッスから、一緒にどっか行きたいッス!!」

「お前がいいなら構わんけどもさ」

「というか先輩は遊ぶ約束とか…」

「全部断ってゲームしようと思ってたな」

「あ、じゃあいいッスね。罪悪感0で」

「俺のゲーム時間を削る罪悪感は無いのか?」

「ないッス!!」

「いっそ清々しいなオイ!!」

「いやだって別に帰ってからも出来るッスよね?」

「徹夜でやるわ」

「めちゃくちゃ電話かけてやるッス」

「迷惑すぎるだろ!!着拒にしてやる」

「それは酷くないッスか!?」

「夜中に迷惑だし」

「ド正論ッス、言葉の暴力ッス〜!!」

「デコピンフルパワーとどっちがいい?」

「デコピンは勘弁してください」

「語尾が無くなるほど…?」

「一応聞きたいんスけど」

「ん?」

「フルパワーってどんくらいの…」

「コップが割れる」

「頭かち割る気ッスか!?」

「大丈夫大丈夫……多分」

「先輩、殺される〜って叫んでもいいッスか?」

「さて、いつ遊ぶんだ?」

「露骨な切り替え…まぁいいッス。いつがいいッスかね〜、夏休み始まってすぐとか」

「始まってすぐか」

「あ、でも優等生の先輩は課題やってるッスかね?」

「いや、俺は最後の方に慌ててやるタイプの優等生」

「え、意外ッス…ちなみに理由は?」

「夏休みの課題ってそういう魔力ない?」

「あ〜…なんとなくわかるッス。あんまり集中出来ないっていうか」

「だろ?追い込んだら集中出来るし時間が迫る感覚でさらに追い込んでやるんだよ」

「でもそこまで来たらもういいやってならないッスか?」

「なるけどやらないと…あ、そうか…お前知らんのか…」

「え?なんスか?」

「夏休みの課題ひとつでも漏れがあったらどんだけ成績よかろうと、ひと月補習になるんだよ」

「なんスかその地獄、聞いてないんスけど!?」

「ウチの高校、色々おかしいとこあるからなぁ。普通は部活の先輩とかから聞いたりするんだけど」

「先輩が教えてくれて助か…いや先輩絶対伝え忘れてたッスよね?どうなんスかそれは!!」

「すまん」

「軽いッス!!」

「えー、この度は、このような不祥事を犯してしまい、誠に申し訳ありません」

「重いッス!!」

「我儘だな」

「どっちがッスか!?」

「まったく、これだから俺の後輩は…」

「ボクのせいなんスか!?」

「そんなに叫んで疲れない?」

「誰のせいだと思ってるんスかああぁぁぁ!!」


「…まぁ、先輩のことですし、ちゃんと教えてくれたッスし、いいッス」

「やっと落ち着いたか」

「この…っ!!」

「ごめんって」

「まったく、もう!!」

「で、なんだっけか…ああ、遊ぶ約束だ」

「初日からにするっスか?」

「んー、いや、初日から3日くらい一緒に図書館で課題やらないか?」

「え、最終日追い込み型の先輩がどうして…!?」

「オーバーリアクションすぎだろ。いや、補習来るかもって思いながら遊ぶと楽しめなさそうだからな、早めにやろうぜ」

「それもそうッスね!!あ、でも3日もかかるんスか?」

「集中出来ると思うか?」

「無理ッス」

「そういうことだ」

「了解ッス」

「じゃあ色々決まったし帰るか〜」

「そッスね〜」






「あれ、つまり図書館デートなのでは…?」

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