雨と先輩後輩

「あ、先輩が言った通り雨降ってるッスね」

「だろ?今日降ると思ってたんだよ」

「はぁーっ、相変わらずの天気予知ッスね、なんでわかるんスかねぇ」

「勘」

「ただの予知能力じゃないッスか。会った時から的中率100%で怖いんスけど」

「んー、元々田舎育ちだからな。何となくわかるんだよ」

「数多の田舎育ちに謝ってください、大多数は絶対分からないと思うッス」

「一応な、微々たるもんだけど判断基準はあるんだぞ?」

「そうなんスか?よく匂いで気づくってのは聞くッスけど」

「匂いもあるな」

「あるんスか」

「あとはなー、音の聞こえ方とか気圧の変化とかだな」

「先輩」

「なんだ?」

「なんか凄く雑学を披露されそうな雰囲気なので止めました」

「なんだその理不尽な会話のぶった切り方!?」

「ダメッスよ先輩、もっとくだらない理由にしないと!!」

「意味わからんし、じゃあ勘で終わらせおいてくれよ」

「後輩が知らないことは教えるのが先輩でしょ!?」

「俺にどうしろと…?」

「大雑把に理解出来て尚且つ納得いく理由でお願いするッス」

「なんか雨降りそうな雰囲気だった」

「駄目ッス」

「駄目ってなんだ駄目って」

「どこら辺が?って聞きたくなるッス」

「お前の匙加減じゃねぇか!!」

「そんなことないッス!!はい次!!」

「なにがお前をそこまで駆り立てるんだ…?」

「神の意志ッス」

「ヤだよそんな神」

「いいから次ッス!!」

「引っ込みつかなくても永遠に終わらないだろこれ…えー、少し頭痛がしたから」

「え、大丈夫ッスか?」

「普通に心配するんだ」

「冗談じゃないッスよね?冗談だったら雨の中に放り込むっすよ」

「気圧の関係で頭痛がすんだって」

「意味ある理由言うのやめて欲しいッス」

「こいつ話が通じねぇな?」

「ボクが凄く心配するのでそういうの無しでお願いするッス」

「優しいのか厳しいのかなんなんだお前」

「先輩に優しい可愛い後輩ッスよ?喜んでくださいッス」

「はいはい、そろそろ帰るぞ〜」

「あ、今折りたたみ傘出スんで…あれ?」

「どしたー?」

「無いッスね」

「そこはもっとカバンひっくり返して確認するとこだろ」

「カバン中ちゃんと整理してるッスから見つからないなら無いッス!!」

「清々しい潔さだな」

「じゃあ、先輩?」

「なんだ?」

「ボクが帰れないので雨止むまで話し相手になって欲しいッス」

「え?」

「へ?」

「話し相手?」

「そうッスよ?まさか後輩が帰れなくて困ってるのに置いて帰るって言うんスか!?」

「いや、そうじゃなくてな…馬鹿なのか?」

「急になんなんスか!?酷くないッスか!?」

「俺の傘に入って一緒に帰ればいいだけだろ?」

「…はい?」

「だから、俺の傘入れって」

「いや、でも先輩に迷惑がかかりまスし…」

「今更過ぎんか?いつも一緒に帰ってるだろうが」

「でもほら、それとこれは違うというか…」

「いいから、お前とここで話してる方が絶対遅くなるし」

「それは確かに」

「だろ?だから一緒に帰るぞ〜」

「いやでも心の準備が…」

「置いてくぞ〜」

「ああっ!!待って欲しいッス先輩〜!!」


「先輩…」

「言いたいことは分かるが」

「身長差が30近くあるとちっちゃい方って濡れるんスね」

「すまん」

「風が強いのもあると思うんスけど、一瞬でビチョビチョッスよ」

「マジですまん、これ羽織ってくれ」

「ああ、ありがとうございまス。先輩優しいッスね。寒さと濡れて透けるのを防ごうとしてくれてるんスよね。気遣いが凄いッス、モテそうッスね」

「当たり前の事だし、モテねぇよ。この顔だぞ」

「先輩」

「…なんだ」

「ここで待ってるんで傘買ってきて欲しいッス…」

「ホントすまん…」


「先輩の上着…先輩の匂いが…ふふっ」


「あ、先輩!!」

「おう、待たせて悪いな」

「いえいえ、まさか初めての相合傘がこんな風になるとは思わなかったッスけど、いい経験になったので」

「虚ろな目で褒めてくるからマジで怖かった」

「こんなに身長の事で恨みを持ったのは初めてッスから…」

「俺恨まれてんの…?」

「いえ、ボク自身ッスよ。せめてもう少し高けりゃ…」

「あんなに恥ずかしがってたくせに」

「先輩?」

「ごめんて」

「まったくもう…」

「あっ、寒かったろ。ほれ」

「あったけぇ〜ココアじゃないッスか!!いいんスか?」

「いや言い方。お前に買ってきたんだから飲め」

「ありがとうございまス!!…って、先輩?」

「ほうひは?」

「何食べてるんスか」

「ひふふぁん」

「一人で何食ってんスか!!」

「んぐっ…肉まんだって」

「狡いズルいずーるーいー!!ボクも食べたいッスゥ!!」

「これしかないんだ、残念だったな」

「意地悪がすぎるッス!!それでいいからボクにも肉まんください!!」

「ほほははっへはへははほ」

「それとはまた別ッス!!あーもう半分食べてるぅ!!」

「ナチュラルに聞きとるのこわっ」

「ボクと先輩の愛のなせる技ッス」

「そ、そうか…じゃあその愛の見返りに肉まんをやろう。食いかけでいいなら」

「愛の見返りってなんか嫌な言い方ッスね…」

「やな奴だな」

「怒るッスよ…?早くその肉まんをこっちに寄越すッス」

「俺はいいけど…あっ…ほらやるよ」

「『あっ』、ってなんスか。『あっ』て」

「要らんのか?」

「いるッスゥ!!」

「恐ろしく速い横取り、俺でなきゃ見逃しちゃうね」

「はふぅ…寒い時に食べる肉まんってなんでこんなに美味いんスかね?」

「温かいから」

「真理ッスね」

「ところでさ」

「はんふふぁ?」

「関節キスって知ってる?」

「…」

「いやそんなブリキの人形みたいな動きでこっち見られても。」

「い、いや!!今更こんなので恥ずかしがるほどぉ…」

「めっちゃフェードアウトしてくやん」

「…もうヤケっす!!いいッスもん!!先輩だし!!」

「なんだそりゃ」

「ッスもん!!」

「勢いで誤魔化すつもりか」

「ッスもん!!!!!!!!!!!!」

「わかった、わかったから語尾で叫ぶな。目立つ」

「…」

「顔真っ赤で俺を睨みながら肉まん頬張ってる後輩」

「ひっひょうふんほははへへほひいっふ!!」

「面白くてついな。というか叫ぶな、口ん中飛ぶだろ。」

「もぐ…んぐ…誰のせいッスか誰の!!」

「小動物みたいに食いながら顔真っ赤にして睨む後輩が悪い」

「こんの…っ!!!鬼畜先輩めぇ…っ!!!」

「俺の肉まん半分奪っておきながら理不尽だろ…」

「純情な乙女を弄びやがってぇ…」

「なんて?」

「なんでもないッス!!」

「純情な乙女がなんだって?」

「聞こえてんじゃないッスかぁ!?」


「ううっ、濡れて気持ち悪い…先輩、タオルないんスかぁ…?」

「ハンカチしかないな、というかお前持ってないの?」

「傘と一緒に忘れたッス…」

「こんな時に限ってかよ、運悪いな」

「もう嫌ッス…風邪ひいたら看病来て欲しいッス先輩…」

「親おるやろ、見舞いになら行くけど」

「ホントッスか!?…あ、やっぱいいッス。来ないで欲しいッス」

「情緒のジェットコースターかよ。というか来たらダメなんか」

「部屋に入れるの恥ずかしいッス…」

「…漫画の読みすぎじゃない?」

「へ!?」

「別にお前の親に見舞いの品渡して言伝頼むくらいだろ」

「あ…そ、そッスよね!!あは、あははは…」

「にしてもねぇ…」

「な、なんスか…」

「俺を部屋に入れる前提なのな?」

「はぁ!?別にそんなんじゃないッスし!?」

「看病に来てとか言ってたのにかぁ?」

「ニヤニヤすんなッス!!ほらもうボクの家なんで!!」

「あっおい!!ったく…」

「…先輩!!」

「おん…?」

「ありがとうございました!!気をつけて帰ってくださいッス!!」

「…おう!!お前も身体暖めて休んどけよ!!風邪ひいたら見舞いに来てやるからな!!」

「はいッス!!」





「先輩、ボクめっちゃ元気でした」

「風邪ひかなくてよかったな」

「ホントに良かったッスよ!!あ、HRもうすぐなんで行きますね、また!!」

「おう、またな」




「先輩が来てくれるならひいても良かったのに…なんて」

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