第2話 婚約

聖女になってしまった……。幽閉された私は、毎日鏡を見る。

正直カワイイ。ありえない可愛さだ。


公女だったころ、剣聖だった私は、女性として扱われたことがほぼなかった。

コンコンとノックの音。


「ウィル公女だ、入るぞ!」

あー、がさつな言動。これは終わった。私の元の体はタダでさえ、女扱いされなかったのに、今や中に本当の男の子がいるわけだ……。

「なによ……」

「単刀直入に言う。結婚しろ。オレとだ」

「はぁああ?イヤよ。何が悲しくて自分の体の持ち主と結婚しないといけないのよ……」

「そういうな、元の体がどうなってもいいのか?オレだって困る……」

「あんた、こんな女の子みたいなカッコして……恥ずかしくなかったの?」

「……かわいい、と思わないか?」

「は?」

「……かわいいだろ。自分の理想の女の子といってもいい……」

「自分でしょ?」

……わたしは半ばあきれていた。こいつ頭おかしいのか!

「……入れ替わりの能力を得たとき、思いついたんだ。理想の女の子に自分がなれば、計画を実行にうつしたとき、抵抗がないかと……」

「計画って……」

「もちろん、自分の体と結婚することだ」

「最悪……」

「正直、キミが女性だとは思わなかったよ……。だが悪くない。私の元の体は男で、キミの体は女性。いまや、計画実行を阻害する要因はないといっていい」

「私……、いやよ……」

「じゃ、処刑だな」

「あんた、自分の体を殺せるの?」

「なにも殺さなくてもいいが、この結婚は絶対に計画に必要だ。のんでもらうよ」

「……。わかったわ。でも……、あなたと夫婦生活を送るつもりはありませんから!」

「なにを言っているのか……、お前は年ごろの男の子の体なんだぞ、その点心配してない。どうせ、お前の方から求めてくるに違いないからな……」

「……ないです」

「ヒントをやろう。おまえの腰巾着にお茶が入っているはずだ。それを飲み続ければ、女性としての外観を保ち続けることができ、性欲も抑えることができる……」

「なぜ、それを私に教えるの?」

「それは……。完成された美を崩すのはもったいないと思わないか?」

「そ、変態なのね」

「ナルシストとでもなんとでも言ってくれ、だが、違う、オレはいま女の体に居るが、あくまで男の子なのだ。せっかくなら美少女と付き合いたいではないか?}

……あたまがおかしすぎてついていけない。

「まあ、いいわ、お茶はいただかせていただくわ。年頃の男の子の衝動で、あなたと関係を持つなんて、ぞっとする、としかいいようがないもの」

「助かる……」

「結婚ね……。わたしに指一本振れないこと、それを守ってくれるならいいわよ」

「残念だが、初夜だけはすごしてもらうぞ。部下に示しがつかないからな」

……貴族同士の結婚は、仮面夫婦が多い。政略結婚が多いから当然だ。

だからこそ、初夜、本当にいたしたかをチェックするしきたりが、あるのだ……。

「私の躯は女だが、実は男性だった、ということにさせてもらうよ……、そして、いうまでもなく、キミは男性の躯だが、聖女ということになっているから、正体がばれぬよう細心の注意を払えよ……」

……私は、もう、どうにでもなれという気持ちで

「はい、はい、もう、わかったわよ」

と投げやりな返事をした。


「挙式が済んだら、となりのベローニ公国、つまり我が国の双子の公国を併合する。忙しくなるな……」

「フレイア=ベローニ公女が、そんなことを許すとでも?」

「許すもなにも、すでに、話はつけてあるのさ……。同じように躯をのっとって、しばらく脅しすかしていたら、すぐ折れてくれたよ……」

「最低ね……あなた」

「聖女の反乱が簡単に毎回鎮圧されていたように見えていただろう……。実際には違う。私は負けたとみせかけ、敵軍の中枢に入り込み、今や、ありとあらゆる、反帝国組織にツテがあるのだ……」

「まさかと思うけど、私の今の躯とは、もう関係もったりしてないでしょうね!この変態」

「ああ、それか。当然だけど、その躯は童貞ではないよ……。自分の躯なのだから、私がいたわるのはあたりまえのことだ」

「本当に最低ね!」

「褒め言葉をありがとう」

「初夜では、フリだけにしてよね!」

「ああ、部下にバレないように、できるだけのことはする」

「ねぇ、なんで私と結婚する必要があるの……」

「いい加減工作はおわった。あとは、この公国の武力と、内通者たちと力を合わせ、帝国を外から倒すだけだ……。そのためには、お前の力が必要なのだ……」

「つまり、政略結婚ってことね……。ロマンチックね」

「そうだな……。だが、民を救うためだ……。理解はできるだろ?」

……確かに理解はできるし、思ったよりはいいやつなのかもしれない。

私も帝国をなんとかしないといけないとは思っていた。

思えば、私には勇気と行動力が欠けていたのだ……。彼が……、もし、うまく帝国を倒せるとしたら、私はそのことを恥じないといけないのかもしれなかった。































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反乱聖女は公女の私が娶ります。 広田こお @hirota_koo

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