鬼の見つけ方

長島芳明

鬼の見つけ方

 20XX年の日本。伝記や物語に登場する「鬼」が実在することが判明した。しかし今の鬼は昔と違い、角が生えておらず、見た目が人間と同じであった。唯一の見分け方は、鬼が死ぬと死体から角が生えてくる。どうやら霊力で角を隠しているらしい。



 何にせよ、鬼であることには変わりはない。彼らは街に現れては破壊や略奪を繰り返していた。



 時の政府は「鬼を見つけ次第、即刻射殺せよ」との法令を発令した。鬼なので人権などはない。無論、世論もそれには大賛成であった。



 しかし鬼は人間そっくりな姿を活用し、陰に陽にと活動している。庶民達は引越しシーズンの春になると、新しい隣人が鬼か人間か、それこそ「疑心暗鬼」に陥っていた。鬼を取り締まる警察もそうだ。鬼と間違えて庶民に拳銃を撃ったら非難ごうごうの嵐だ。



 そんな中。二人の刑事が鬼を五十体も射殺して成果を上げた。他の警察官たちは彼に見習おうと、彼らの講義を受けに行った。一人は初老に入った刑事。そしてもう一人の若い方の男が説明を始めた。




「はい。皆様。お忙しいところ講義に来てくださって、誠にありがとうございます。口で説明よりも、映像で見るほうが早いでしょう」



 彼はモニターを点けた。講義に集まった者達の真剣な視線がモニターに集中する。映像には取り調べ室でのやり取り。鬼と思われる被疑者一人に二人の刑事。無論、二人の刑事は講義をしている彼ら。



 若い刑事が顔を歪めて被疑者の男を睨んでいた。



「おいっ! てめーは鬼なんだろ。さっさと白状しろ。自白なら封印なんだ。殺されずにすむんだ。どっちが善いか分からせてやろうか」



 若い刑事は張り切っていて熱血のご様子。そして被疑者の方はふて腐れた顔をしている。よく見る光景。



「刑事さん。僕は人間ですよ。このまま続けると人権侵害で訴えますよ。出世に響きますよ」

「てめっ」



 若い刑事がこぶしを握り感情を抑えていると、初老刑事が二人の中に入った。



「まあまあ。そんなに熱くなるな」



 初老刑事は恵比寿のような笑みを浮かべて被疑者に話しかけた。


「ごめんな。こいつは新人で張り切っているんだよ。威圧させちゃって、本当にごめんな」


「はは。TVで見るような展開だな。怖い刑事で脅して、優しい刑事で白状させるってな。貴重な場面が拝見出来て嬉しいな。でも、何度も言いますが僕は人間です。れっきとした日本人ですよ」


「うんうん。そうだね。君は日本人だ」

「分かってくれましたか。さっさと解放してください」

「うん。今回は俺達の間違いのようだ。ごめんな」

「警察も所詮人間。間違いぐらいありますよ」



 疑いが晴れたおかげなのか、男の形相がわずかに緩んでいた。



「たしかにそうだな。ところで、来年のオリンピックで日本はどのくらい金メダルを取れるかな?」


「そんなの分かるわけないでしょ」



 そう言って被疑者の男は腹を抱えてゲラゲラと笑った。



「分からないけどさ。考えるとワクワクしてくるでしょ」

「そんな不確定な未来の話なんて、馬鹿がすることですよ。大切なのは今ですよ、今。アハハー」


「いいからいいから。君の意見を聞かせてくれよ」

「だからそんな下らない話なんか出来ませんよ。アハハー」





 そして笑いは三分以上続き、しまいには床に転がって笑っていた。

ここで映像が終わり、若い刑事が口を開いた。


「この後、僕たちは先ほどの被疑者を鬼と確信して射殺しました。なぜなら、来年のことを言ってこれほど笑う人間はいませんから」

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鬼の見つけ方 長島芳明 @gunmaNovelist

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